天使様の愛し子

東雲

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プティ・フレールの愛し子

97.されど願いは褪せぬまま(前)

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アドニス様がイヴァニエ様とルカーシュカ様の離宮へと遊びに向かわれるようになってから、二月ふたつきが過ぎた。

アドニス様のお側を離れることにも少しずつ慣れ、気持ちにもゆとりが出始めた頃、アドニス様の希望で、夜の離宮を共に散策するようになった。
夜間に限定しての散策だったが、アドニス様がご自身の意思で部屋の外に興味を向けられたのは良い傾向で、その変化は嬉しく思った。…が、それと同時に寂しさが湧いてしまうのも、正直な気持ちだった。

(…いけないな)

アドニス様の世界を狭めてはいけない───そう思うのに、アドニス様の意識や興味が外に向かえば向かうほど、自分が置いていかれるような寂しさが日毎に増していった。
イヴァニエ様とルカーシュカ様の離宮は、あくまで“限られた領域の中での自由”で、純粋な“自由”とは異なる。
アドニス様の世界が広がれば広がるほど、まるで自分との距離が空いていくようで怖かった。

こんな気持ちではいけない…そう思うのに、『どこへも行かないで』と思わずにはいられなかった。
だからと言って、アドニス様の行動を制限したい訳でもなく、寂しさと葛藤しながら、宮廷の中を歩くアドニス様のお姿を見守った。


初日こそ怖がり、部屋から十歩と離れていない所までしか歩けなかったアドニス様だが、日を重ねるごとにその距離は伸びていき、緊張は次第に解けていった。
自分にとっては見慣れた風景でも、アドニス様には見るものすべてが新鮮で、どこを見ても感嘆の声を漏らしていた。
蜂蜜色の瞳を月明かりで輝かせ、キョロキョロと辺りを見回すお姿は楽しげで、微笑ましく思うと同時に、自分の中で燻っていた寂しさも僅かに和らいだ。

(…大丈夫だ)

未だにお側を離れたくないという気持ちは強い。というより、恐らくこの感情が消えることはないだろう。
それでも、その気持ちを表に出さない程度には、精神的な余裕もできたはず───二人きりの夜の散策に思わぬ邪魔が入ったのは、そう思い始めた矢先の出来事だった。




「下がりなさい」

アドニス様を凝視する不躾な視線から守るように、一歩前に進み出る。
アドニス様を背に隠し、絡んでいた視線を無理やり断ち切ると、立ち尽くす宮廷仕えの天使達を睨み返した。
我に返ったのか、彼らはハッとすると、慌てて元来た道を戻っていった。

「アドニス様! 大丈夫ですか?」
「…あ……うん…」

即座に後ろを振り返り、アドニス様の様子を確認すれば、その顔に恐怖の色はなく、ホッとした。
とはいえ、他の者達が出歩いている宮廷内を、アドニス様と共に行動するのは危険すぎる。少しばかり急いた気持ちでその手を握ると、アドニス様のお部屋へと足早に向かった。
途中、「怒ってる?」とアドニス様に聞かれたが、怒っている訳ではなかった。…ただ少し、苛ついていた。
アドニス様から見えないのをいいことに、表情が盛大に歪んでいたが、直後にアドニス様から「かっこよかったよ」と褒められ、ザラついていた胸の中で、ぽわりと花が咲いた。

「……ありがとうございます」

ニコニコと嬉しそうに微笑むお姿に、胸のザラつきが嘘のように消えていく。
我ながら単純なものだと思いながら、アドニス様の前で感情を露わにする前に落ち着けて良かったと、人知れず胸を撫で下ろした。


無事アドニス様のお部屋まで帰ってくると、安堵から互いに笑い合った。
落ち着いていらっしゃるように見えたが、ミルクを飲み終えたアドニス様の纏う空気は格段に柔らかくなり、明らかに緊張が解けたのが見て取れた。

「ゆっくりお休み下さい。おやすみなさいませ、アドニス様」
「おやすみ、エルダ」

まだ少し心配だったが、その穏やかな表情に不安定さはなく、案じる言葉をあえて飲み込むと、静かにお部屋を後にした。
そのまま自室に戻り、入れ替えたばかりの大きなベッドにボフリと横になれば、アドニス様のお側を離れた途端に溢れ出した苛立ちに、顔を顰めた。

(他の者達と会わせるつもりはなかったのに…)

アドニス様の安全の為、事前に宮廷内を見て周り、その夜に誰かが出歩く予定がないか、確認してから散策に望んでいたのだが、どうやら下調べが甘かったらしい。
己の不甲斐なさと、アドニス様と鉢合わせた者達の態度から苦い気持ちは募り、堪らず零れた溜め息に、ゆっくりと目を閉じた。

使葬斂そうれんの儀を終えた後から、宮廷の側仕え達の間では、アドニス様のことが噂になっていた。
バルドル様から大天使へと告げられたの最期と誕生は、大天使から天使達へと瞬く間に広がった。
最初こそ誰もが半信半疑であったが、イヴァニエ様とルカーシュカ様の従者達を中心に、それが真実であるという話が浸透し、疑う者は徐々に減っていった。

アドニス様に疑いの眼差しが向かないのならなんでもいい。
この時はその程度の認識だったが、話が広まるのと一緒に、『エルダ自分』という大天使がアドニス様の元で誕生したことが知れ渡り、緊張感が一気に増した。

『新たなアドニス様は、その魂も、在り方も特別な、大変稀有なお力を持った御方らしい』
『バルドル様のお許しを得て、大天使様を側付きとしてお側に置いているらしい』

そんな噂話が広まるのと同時に、アドニス様の従者として仕えたいという希望を持つ者達がじわりと増え始めた。
仕えるべき主を選ぶ基準は、憧憬や羨望、尊敬といった感情を抱くことがキッカケとなりやすい。
勿論それが全てではないが、多くの場合は、その力に惹かれるからこそお仕えしたいと思うのだ。

咎人として裁かれた大天使アドニスの肉体の中で生まれた魂───それだけでも、アドニス様に多くの関心が向くのは充分だった。
そこに積み重なるように、フォルセの果実という特別な役目を賜ったこと、大天使を従者として側に置いていることが加わり、アドニス様の現状を知らぬ者からは、一際特別な存在として認識されるようになってしまった。

(…確かに、特別な御方だ)

優れた能力や、強大な力を持っているという意味ではない。
純天使と変わらぬほど無垢で、どこまでも純粋で、愛情深く美しい魂を持った存在。
愛らしく、優しく、清らかな微笑みは、多くの者を魅了するだろう───そういう意味で、きっと誰よりも特別だ。

(……嫌だな)

アドニス様の素晴らしさが、多くの者に認知されるのは喜ばしいことだが、それが元でアドニス様に群がるような者が増えるのは許せない。

(…お側にいるのは、私だけがいい)

今の務めを、アドニス様のお側でそのお姿を見守る役目を、他の誰かに奪われたくない。
アドニス様の日々のお世話をするのも、プティ達と楽しげに戯れるお姿を間近で眺められるのも、頼って下さる嬉しさも、与えられる温かな情も、二人だけで過ごす愛しい時間も、全部全部、自分だけでいい。

アドニス様と自分の間に、余計なものを混ぜたくない───呆れるほどの独占欲は、アドニス様に向けられる憧憬にすら嫌悪感を抱いた。

これまでも他の従者を迎えたくないという気持ちはあったが、それがどれほど幼稚な感情だったか、嫌というほど思い知った。

(…自分も大概だな)

脳裏に浮かんだのは、元の主であるイヴァニエ様だ。
あの方の独占欲や束縛気質にも驚かされるが、自分も似たようなものだと気づかされる。

アドニス様の自由を奪いたい訳じゃない。
ただ側に仕える者としての欲望と独占欲だけは、どうにも抑えられなかった。
今夜出会った者達の、食い入るようにアドニス様を見つめる眼差し。驚愕に見開かれたその瞳に、アドニス様はどのように映ったか…それを想像するだけで、薄暗い感情が渦巻いた。
幸いなのは、大天使である自分がアドニス様のお側に控えている為、不用意に誰彼と側に寄ってこないことだろう。

(…大天使であることを、こんなに喜ばしいと思ったのは初めてだな)

大天使という地位に、さして喜びも感動も覚えたことはなかったが、これほど有り難いと思ったのは初めてだった。
恐らく自分が側にいる限りは、アドニス様の従者になろうとする者が寄ってくることはないだろう。

(お側を離れないようにしないと…)

ただ自分がそう在りたいからという欲と、アドニス様をお守りする為。
その上で、他の者達を寄せつけない壁となる為、今後はより一層、お側を離れないようにしよう───そう強く決意した数日後、その願望は、アドニス様自身のお言葉で呆気なく砕かれた。




「あの、大丈夫だよ…! エルダが戻ってくるまで、一人でお留守番してる…!」
「………え…?」

直前まで、アドニス様と和やかに言葉を交わし、穏やかな一時ひとときを楽しんでいたのだが、そこに現れたバルドル様の使いに、空気が一変した。
オリヴィアの能力から生まれた報せの鳥と、空を泳ぐ水の魚。楽しそうに笑うアドニス様とプティ達を横目に、青い小鳥に渋々片手を差し出せば、「バルドル様がお呼びです」というオリヴィアの声が、赤子達のはしゃぐ声に混じって聞こえた。

(なぜ、このタイミングで…)

急な呼び出しに、顔が歪んだ。
アドニス様のお側を離れなければいけないことと、フォルセの果実としての役目を中断しなければいけないこと、そのどちらもが嫌で溜め息を吐くも、流石にバルドル様の命に背く訳にはいかない。
諦めを滲ませながら、お部屋に戻って頂く為、アドニス様に片手を差し出したのだが、そこに温かな手の平が重なることはなかった。
突然、やる気に満ちたように両手の拳を握り締め、「お留守番する」と言い出したアドニス様に、心臓がドクリと嫌な音を立てた。

「…ア、アドニス様……その、アドニス様をこの場に残してお側を離れるのは、まだ不安です。すぐに戻って参りますので、どうかお部屋でお待ち下さい」

半分は本心。もう半分は、猛烈な寂しさから溢れた言葉だった。

「…イヴや、ルカは、お外歩く時、従者の子を連れて歩いてないでしょう? 自分も、そうやって歩けるように、練習しなきゃ…!」
「ッ…!」

なんとかお部屋に戻ってもらおうとするも、返ってきた返答に喉奥が戦慄き、ヒュッとか細い悲鳴が漏れた。

(……嫌だ)

その言葉は、まるで『いつかそうなりたい』と言っているようで、怖くて、寂しくて、堪らなかった。

「……アドニス様は、そう…なさりたいのですか?」
「? …なさりたい、訳じゃないけど…ずっと、エルダに頼りっぱなしじゃ、ダメだから…、だから、今は一人で、お留守番頑張るよ…!」

頑張らなくてもいいのに───アドニス様の意思を蔑ろにするつもりはないのに、浮かんだ考えは酷く自分勝手で、項垂れた。
アドニス様が、純粋にご自身の成長を望んでいらっしゃるのは痛いほど理解している。
それでも、それでもアドニス様が離れていってしまうような感覚に襲われ、それを嫌だと拒絶する自分がいた。

(……だからと言って、我が儘は言えない…)

なによりアドニス様の望みを否定するようなことを、成長の妨げとなるようなことを、従者である自分が願ってはいけない。
差し出したまま、行き場を無くした片手を握り締め、コテリと首を傾げるアドニス様に、苦渋の思いで了承の意を伝えれば、パァッと花が咲くような笑顔が返ってきた。

(……ああ…)

分かっている。アドニス様の「一人でも行動できるようにならなければ」というお考えや、自立を望むお気持ちは分かっているのだ。
それでも「一人でも大丈夫」と言われると「自分エルダは必要ない」と言われているように錯覚してしまう。
アドニス様にそんなお気持ちが無いことは百も承知だが、怖くて、寂しくて、悲しくて、泣いてしまいそうだった。

(…ダメだ。ここで表情を崩す訳にはいかない)

やる気に満ちている御心に、余計な翳りを落とす訳にはいかない。
アドニス様に見送られ、断腸の思いでフレールの庭から飛び立てば、赤子達に囲まれた中で、愛しい人が笑顔で手を振ってくれた。

「いってらっしゃい」
「ばっばぁ~」
「ばぁ~」

心配と寂しさが綯い交ぜになり、つい眉を下げてしまいそうになるが、「まかせて!」と言わんばかりの勢いで手を振るプティの姿に、情けなく笑い返すことしかできなかった。
アドニス様と共に残れる彼らを心底羨ましく思いながら、どうしようもない羨望を振り払うように深く息を吸い込むと、翼を広げ、バルドル様の元へと向かった。
ふと後ろを見れば、魚の群れが後をついてきているのが見え、眉間にグッと皺が寄った。

(やはり見張りだったか…)

大方、自分がバルドル様の命を無視してアドニス様を優先させないか、確認の為に遣わされたのだろう。

(…何を言われるのか、予想ができるのが嫌だな)

わざわざアドニス様のお務め中に呼び出されたのだ。向かった先で何を言われるのかを想像し、モヤモヤと複雑な感情が渦巻く胸に、溜め息を零した。




「エルダが参りました」
「ああ、入っておいで」

宮廷の中に構えられたバルドル様の私室。その扉の前で元の姿に戻ると、部屋の外からお声を掛けた。
中から返ってきた返事と共に扉が開き、部屋の奥でゆるりと寛ぐバルドル様が見えた。
広い室内には花を咲かす植物がそこかしこで蕾を膨らませ、水のせせらぎがどこからともなく聞こえてくる。
支柱が並ぶ部屋の中を進めば、水の鱗をシャラシャラと鳴らす魚の群れが背を追い越し、そのままバルドル様の周りをぐるりと泳ぎ回った。
その様子を楽しげに眺めるバルドル様の傍らにはオリヴィアが控え、目が合うと静かな目礼が返ってきた。

「急に呼び出して、悪かったな」
「いいえ。急ぎのご用でしょうか?」
「いいや、特に用事はないよ」
「………」

予想通りの、それでいて非常に面白くない返答に瞳を細めれば、オリヴィアが小さく溜め息を吐いた。

「バルドル様、お言葉が足りません」
「おや、エルダは呼ばれた理由が分かっているのだろう?」
「……いいえ、分かりません。恐れながら、ご用がないのであれば、私はこれで失礼致しま───」
「お前達は、をずっと鳥籠の中に閉じ込めておくつもりかい?」

穏やかな微笑みを浮かべたまま、なんの前触れもなく飛んできた鋭い言葉に、ピクリと肩が揺れた。

「……閉じ込めているつもりはありません」
「そうだな。よく守ってくれている。あの子が傷つかないように、怖い思いをしないように、部屋の中で大事に大事に、皆で愛でているのだろう?」
「………」
「それを悪いとは言わないぞ。今のあの子には、それがなによりの癒しになるだろう」

その声音は優しく、責めるような響きは無い。
それなのに、肌に感じる微弱な圧はじんわりと重く、無意識の内に拳を握り締めた。

「まだまだか弱いあの子が傷つかない様、大事に守ってくれているお前達には感謝している。あの子が愛らしく笑っていられるのも、エルダ達のおかげだ」

恐らくはオリヴィアの生んだ魚の目を通して、フレールの庭で過ごすアドニス様をご覧になったのだろう。その表情は慈愛に満ちていて、心から喜んでいるのが分かった。

「だが、今のまま、お前達が用意した安全な鳥籠の中で、永遠に過ごさせる訳にもいくまい。まさかこの先もずっと、他の者達の目から隠したまま、アドニスの自由を奪うつもりじゃないだろう?」
「っ…」

アドニス様の自由を奪うつもりなどない───そう言い返そうとするも、心のどこかで疾しい気持ちを恥じる自分がいて、喉が詰まった。

「……自由を奪うつもりなど、毛頭ございません。…ただ、アドニス様のお気持ちを一番に優先したいのです」
「それは大切なことだな。だから今も、アドニスの気持ちを優先させたのだろう?」
「……アドニス様をお一人にするのが目的で、私をお呼びになったのですか?」
「少し違うな。あの子がどんな反応をするのか確認するのが目的だった、というのが正しいな。…アドニスは偉い子だな。自分の現状を把握した上で、己の意思をエルダに伝え、それを実行しようという気概がある。お前達に守られてばかりではいけない、と幼な子ながらに考えたのだろう」
「………」
「エルダも偉かったぞ。あの子の気持ちを優先させ、よくあの場を離れたね」

褒められてこれほど嬉しくないと思うことがあるのだろうかというくらい嬉しくない。
何も言えず、口を閉じていると、バルドル様がふっと笑った。

「あの子が心配なのは分かる。お前達の作った安全な檻の中で過ごさせたい気持ちも分かる。可愛い子を外に出すのは、さぞ心配だろう。だがだからと言って、今のままではいけない。それは分かるね?」

悠然と微笑む仕草はとても穏やかなのに、その声には反発できない強さがあった。

「あの子はこれからも少しずつ成長していくだろう。例えその本質は変わらずとも、意識はお前達により近づこうと、成長を望むはずだ。守ってやりたくなる気持ちは分かるが、時には一歩引いて、見守ってやるのも大切だ。でなければ、あの子は一人では何もできない子になってしまう」
「……だからと言って、突然このような…」
「唐突だったのは謝るよ。すまないね。でも事前に伝えていたのでは、アドニスがどの程度成長したのか、分からなかったからな。それに、こうでもしないと、はアドニスから離れないだろう?」
「ッ…」

『お前達』という単語に、眉間に皺が寄った。

(…イヴァニエ様とルカーシュカ様がいらっしゃらなかったのは、そういうことか)

お二人の都合が合わないことはままある。珍しいことではあるが、まったく無い訳ではない。
だからこそ、今日もお二人がフレールの庭に来れないことに対し、疑問を抱いていなかったのだが…どうやらバルドル様の采配で、こうなるように仕組まれていたらしい。

「エルダ」

顔つきが険しくなっていたのか、オリヴィアからたしなめるように名を呼ばれたが、その表情に咎めるような鋭さはなく、軽く肩を竦めるだけだった。

「ですから言いましたでしょう。先にエルダ達にお話ししてから事に移して下さいと」
「だがそれではあの子の素直な反応が見れないだろう?」
「皆様に一芝居打って頂くことぐらいできたはずです」

「やれやれ」と言いたげなオリヴィアの様子から、バルドル様の突発的な思いつきで、今のこの状況になっているのだと知る。
正直、今すぐにでもアドニス様の元に帰りたかったが、バルドル様の言いたいことが多少なりとも理解できるだけに、その場から動くことができなかった。

「エルダ、アドニスの守りを緩めろというのではないよ。ただもう少し、選択肢の幅を広げて、あの子の望むことを叶えてやりなさい。お前達から与えられるものを享受するばかりでは、あの子の世界はお前達が創り上げたものの中だけで完結してしまう。いつまで経っても、鳥籠から出られないよ」
「……はい」

我が子の成長を望むの想いに、静かに首を垂れた。

(……ああ、嫌だ)


叶うことならば、安全な鳥籠部屋の中から出てほしくないのに───自由を奪うつもりはないと言いながら、そう思わずにはいられない自分にも、嫌気が差した。
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