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第16話 これから先 ※市本花怜視点
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目の前に座る彼は、注文した料理を次々と口に運んでいく。どれも美味しそうに、そして楽しげな表情を浮かべて食べていた。
何品も注文して、ちゃんと食べ切れるのか心配だったけれど、その心配は無用だったようだ。
「よく食べるね」
「はい。食べるのも、好きなんですよ」
「なるほど。遠慮せず、いっぱい食べな」
「ありがとうございます! 美味しいです!」
普段からよく食べているらしい。ちゃんと食べているからこそ、他の男性に比べて体つきが良いのだろう。
見ているだけで十分に満足するような気持ちの良い食べっぷりだ。もっと美味しい料理を食べさせてあげたい、と思ってしまう。
「ケーキも注文していいですか?」
「いいよ。どんどん食べな」
「ありがとうございます」
笑顔で感謝を告げながら、彼は手を挙げて店員を呼んだ。そして、ケーキを注文する。本当にすごい食欲だ。
カフェでの休憩を兼ねた食事も終わり、観光スポットの散策を再開した。かなりの時間を彼と一緒に歩き回っているうちに、夕方になっていた。そろそろ、七沢くんを自宅に帰さないといけないだろう。
だけど、もう終わってしまうのか。とても楽しい時間だった。夢に見ていた、男性とのデート。その理想が、今まさに実現している。それが終わってしまう。悲しい。けれど、これ以上は無理に引き留めることもできない。
今日という日を忘れることは無いだろう。この思い出があれば、これから先どんなことがあっても耐えられる。それほどの体験ができたのだ。
私は、彼に言う。
「家まで送っていくよ」
「ありがとうございます」
楽しくて幸せな思い出の場所を後にして、再び彼を車に乗せる。そして、彼の自宅まで送り届けた。
「この辺りで、降ろしてくれると大丈夫ですよ」
住宅街に入っていく道路の前で、彼が言った。こんな所で降ろしてほしいと。まだ自宅までは、距離がありそうだけど。
「ここで降りるの? 自宅の前まで送らなくて大丈夫?」
「大丈夫ですよ。実は、この辺には信じられないくらい多くの監視カメラが設置してあるんで」
「そうなんだ」
自宅の場所までは知られたくないのかな。今までずっと女性に対する警戒心が薄い子だと思っていたけれど、やっぱり彼も男性だったということか。
それとも、警戒されているのか。知らないうちに何かやってしまって、七沢くんの気分を害してしまったとか。そんな不安を感じてしまう。そうだとしたら、最悪だ。こんな、別れ際になって。
「それじゃあ、ここでお別れですね」
「そうだね」
次は、無いかもしれない。そう思った時、彼がスマホを取り出して言った。
「連絡先を交換しておきましょう」
「え? 連絡先?」
つまりそれは、次の機会があるということなのか。
「そうです。スマホは持っていますか?」
「あ、うん。スマホは持っているけど……」
「じゃあ、連絡先を交換しましょう」
そう言われて、私は七沢くんと連絡先を交換した。このスマホに、初めて男性の連絡先が記録された瞬間だった。
「これで連絡先の交換は完了です。また、遊びに行きましょう」
「えっと、うん。……また、誘って」
まさか、また会うことができるなんて。嬉しい。嬉しくて泣きそうになる。向こうから誘ってくれたことも嬉しかった。ここは強引に女らしく、私の方から誘うべきなのかもしれないけれど、とにかく嬉しかった。
今日の出会いは奇跡だった。最初から最後まで、とても満足。満ち足りた気分で、彼を見送ろうと思った。
その瞬間、彼の顔が急接近してきた。私は驚いて、何も出来ずに固まっていた。
「え? え!?」
「それじゃあ、また」
頬に、今まで感じたことのない感触があった。何かが触れた。唇? これは……、キスされた? え、なんで。
私が混乱している間に、彼は車から降りて行ってしまった。遠ざかっていく背中を見つめながら、今のは何だったのだろうと必死に考える。そうか、私は彼にキスされたのか。実感した瞬間に、顔が熱くなった。彼にキスされた部分が特に、熱くなっている気がする。とんでもない経験をした。
しばらく、車の中で呆然としていた私。楽しかった一日を振り返って、余韻に浸っていた。
すると、スマホが鳴った。電話ではなく、誰かからのメッセージ。
――――――――――――――――――
七沢です。家まで無事に帰ることができました。
今日は遊んでくれてありがとう! 一緒に見て回れて楽しかったです。花怜さんと一緒に美味しい食事が出来て、家まで送ってくれて嬉しかったです。
また花怜さんとデートに行きたいです。次は、花怜さんの行ってみたい場所に連れて行ってほしいな!
――――――――――――――――――
七沢くんからのメッセージだった。早速、送ってきてくれたらしい。急いで返さないと。だけど、なんて返そうか。
――――――――――――――――――
市川です。私も今日一日、とても楽しかったです。
また、遊びに行きましょう。
――――――――――――――――――
返信の文面を10分ほど悩んで、書いては消し、書いては消しを何度も繰り返していた。結局、無難で面白みのない平凡な返信しか出来なかった。何も返さないのは、もっと駄目だ。だから、こんな平凡なメッセージを送るしかない。今の私は、こんな事しか書けない。余計なことを書いて、嫌われたりしたくないから。でも逆に、印象が悪いかもしれない。いや、でも……。
これぐらいの事で、七沢くんが私のことを嫌いになったりしないだろう、と思えるぐらいには親しくなれたと思う。だけど、ツマラナイ女なんて思われてしまうかも。次は絶対に失敗しないように、もっとちゃんと準備をして。彼を楽しませる。
これから、彼との関係は続いていく。
私は、夢だった素敵な男性と出会うことができた。もっと仲良くなりたいと思っている。そして、いつか彼のパートナーになれるように。
私の次の目標が決まった。
何品も注文して、ちゃんと食べ切れるのか心配だったけれど、その心配は無用だったようだ。
「よく食べるね」
「はい。食べるのも、好きなんですよ」
「なるほど。遠慮せず、いっぱい食べな」
「ありがとうございます! 美味しいです!」
普段からよく食べているらしい。ちゃんと食べているからこそ、他の男性に比べて体つきが良いのだろう。
見ているだけで十分に満足するような気持ちの良い食べっぷりだ。もっと美味しい料理を食べさせてあげたい、と思ってしまう。
「ケーキも注文していいですか?」
「いいよ。どんどん食べな」
「ありがとうございます」
笑顔で感謝を告げながら、彼は手を挙げて店員を呼んだ。そして、ケーキを注文する。本当にすごい食欲だ。
カフェでの休憩を兼ねた食事も終わり、観光スポットの散策を再開した。かなりの時間を彼と一緒に歩き回っているうちに、夕方になっていた。そろそろ、七沢くんを自宅に帰さないといけないだろう。
だけど、もう終わってしまうのか。とても楽しい時間だった。夢に見ていた、男性とのデート。その理想が、今まさに実現している。それが終わってしまう。悲しい。けれど、これ以上は無理に引き留めることもできない。
今日という日を忘れることは無いだろう。この思い出があれば、これから先どんなことがあっても耐えられる。それほどの体験ができたのだ。
私は、彼に言う。
「家まで送っていくよ」
「ありがとうございます」
楽しくて幸せな思い出の場所を後にして、再び彼を車に乗せる。そして、彼の自宅まで送り届けた。
「この辺りで、降ろしてくれると大丈夫ですよ」
住宅街に入っていく道路の前で、彼が言った。こんな所で降ろしてほしいと。まだ自宅までは、距離がありそうだけど。
「ここで降りるの? 自宅の前まで送らなくて大丈夫?」
「大丈夫ですよ。実は、この辺には信じられないくらい多くの監視カメラが設置してあるんで」
「そうなんだ」
自宅の場所までは知られたくないのかな。今までずっと女性に対する警戒心が薄い子だと思っていたけれど、やっぱり彼も男性だったということか。
それとも、警戒されているのか。知らないうちに何かやってしまって、七沢くんの気分を害してしまったとか。そんな不安を感じてしまう。そうだとしたら、最悪だ。こんな、別れ際になって。
「それじゃあ、ここでお別れですね」
「そうだね」
次は、無いかもしれない。そう思った時、彼がスマホを取り出して言った。
「連絡先を交換しておきましょう」
「え? 連絡先?」
つまりそれは、次の機会があるということなのか。
「そうです。スマホは持っていますか?」
「あ、うん。スマホは持っているけど……」
「じゃあ、連絡先を交換しましょう」
そう言われて、私は七沢くんと連絡先を交換した。このスマホに、初めて男性の連絡先が記録された瞬間だった。
「これで連絡先の交換は完了です。また、遊びに行きましょう」
「えっと、うん。……また、誘って」
まさか、また会うことができるなんて。嬉しい。嬉しくて泣きそうになる。向こうから誘ってくれたことも嬉しかった。ここは強引に女らしく、私の方から誘うべきなのかもしれないけれど、とにかく嬉しかった。
今日の出会いは奇跡だった。最初から最後まで、とても満足。満ち足りた気分で、彼を見送ろうと思った。
その瞬間、彼の顔が急接近してきた。私は驚いて、何も出来ずに固まっていた。
「え? え!?」
「それじゃあ、また」
頬に、今まで感じたことのない感触があった。何かが触れた。唇? これは……、キスされた? え、なんで。
私が混乱している間に、彼は車から降りて行ってしまった。遠ざかっていく背中を見つめながら、今のは何だったのだろうと必死に考える。そうか、私は彼にキスされたのか。実感した瞬間に、顔が熱くなった。彼にキスされた部分が特に、熱くなっている気がする。とんでもない経験をした。
しばらく、車の中で呆然としていた私。楽しかった一日を振り返って、余韻に浸っていた。
すると、スマホが鳴った。電話ではなく、誰かからのメッセージ。
――――――――――――――――――
七沢です。家まで無事に帰ることができました。
今日は遊んでくれてありがとう! 一緒に見て回れて楽しかったです。花怜さんと一緒に美味しい食事が出来て、家まで送ってくれて嬉しかったです。
また花怜さんとデートに行きたいです。次は、花怜さんの行ってみたい場所に連れて行ってほしいな!
――――――――――――――――――
七沢くんからのメッセージだった。早速、送ってきてくれたらしい。急いで返さないと。だけど、なんて返そうか。
――――――――――――――――――
市川です。私も今日一日、とても楽しかったです。
また、遊びに行きましょう。
――――――――――――――――――
返信の文面を10分ほど悩んで、書いては消し、書いては消しを何度も繰り返していた。結局、無難で面白みのない平凡な返信しか出来なかった。何も返さないのは、もっと駄目だ。だから、こんな平凡なメッセージを送るしかない。今の私は、こんな事しか書けない。余計なことを書いて、嫌われたりしたくないから。でも逆に、印象が悪いかもしれない。いや、でも……。
これぐらいの事で、七沢くんが私のことを嫌いになったりしないだろう、と思えるぐらいには親しくなれたと思う。だけど、ツマラナイ女なんて思われてしまうかも。次は絶対に失敗しないように、もっとちゃんと準備をして。彼を楽しませる。
これから、彼との関係は続いていく。
私は、夢だった素敵な男性と出会うことができた。もっと仲良くなりたいと思っている。そして、いつか彼のパートナーになれるように。
私の次の目標が決まった。
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