私は認めません~自分の愛を優先して第二王妃へ格下げすると言われたので、婚約を破棄してもらいます~

キョウキョウ

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第16話 疑惑※ケアリオット視点

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 こんな辺鄙な場所にある、みすぼらしい屋敷に王太子だった俺を押し込めるなんて。

 王都から馬車で半日もかかるような田舎に建つこの屋敷に押し込められた屈辱を、俺は毎日毎日噛み締めている。以前は王宮の最高級の調度品に囲まれた豪華絢爛な部屋で暮らしていたのに、今では質素で薄暗い田舎屋敷の一室だ。

 壁に掛けられた絵画は二流品ばかりだし、家具だって王宮のものと比べれば粗末なものばかり。窓から見える景色も、美しく整備された王宮の庭園ではなく、ただの畑と森しかない。

 こんな場所で、一生を過ごさないといけない? とんでもない冗談だ。

 そして何より腹立たしいのは、使用人たちの態度が明らかに変わったことだ。

「おはようございます、ケアリオット様」

 執事が朝の挨拶をしてくる声に、以前のような恭しさがない。形式的で、心がこもっていない。明らかに軽く見られているのを感じる。

「朝食の準備ができております」

 そう告げる女中の表情にも、かつてのような畏敬の念は微塵もない。まるで厄介者を扱うような、事務的な態度だ。

 王太子だった俺に対して、こんな扱いをするなんて許せない。

 いつか必ず、王位を取り戻してやる。ミュリーナとアルディアンには、それ相応の報いを受けてもらう。この屈辱を百倍にして返してやる。

 その気持ちだけは、決して失っていない。今も俺の心に激しく燃え続けている。



 俺は一人で思考を巡らせる時間が増えた。王宮にいた頃は政務や社交で忙しくて、じっくりと考える暇もなかったが、今は嫌になるほど時間がある。

 そして、よく考えてみると、気づくことがあった。

 今のこの状況、アルディアンにとってあまりにも都合が良すぎる展開じゃないか?

 父親の病気の悪化、俺とミュリーナの婚約破棄、そして俺の王位継承権剥奪。全てが重なって、奴の序列が上がった。王位継承順位第二位だったアルディアンが、今や次期国王の座についている。

 俺の代わりに、あいつが王になろうとしている。

 今まで表舞台に興味もないような素振りを見せていたくせに、いざ当事者になったら急に積極的に動き回っている。政務にも熱心に取り組んでいるらしいし、貴族たちとの関係も上手く築いているという話を聞く。

「あいつ、本当は最初から狙っていたんじゃないのか?」

 国王の座を俺から奪い取った。その疑念が頭に浮かんだ瞬間、全てが線で繋がって見えてきた。

 偶然にしては、あまりにも出来すぎている。

 父の病気だって怪しいものだ。以前は元気だったのに、なぜ急に体調を崩したのか? 治療にあたっている医師を選んでいるのはアルディアンだったはず。

「まさか……」

 恐ろしい可能性が脳裏をよぎった。

 父の病気も、アルディアンが仕組んだものなのではないか?

 その疑念がいったん芽生えると、どんどん大きくなっていく。もしかして、ちゃんとした治療を受けられていないのではないか。邪魔者である父を早々に退場させて、少しでも早く自分が権力を握るために。

 毒でも盛られているかもしれない。

「そうだ、俺を王都から遠ざけたのも、邪魔をさせないためだったんだ!」

 思考がどんどん加速していく。アルディアンの狡猾な計画が見えてきた気がした。それだけじゃない。

 婚約破棄を俺に告げてきたミュリーナも、実は裏でアルディアンと繋がっていたのではないか? あの二人は前から知り合いだったに違いない。俺と婚約している間も、密かに会っていたのかもしれない。

 向こうから婚約破棄を告げてきた。第二王妃という提案も拒否をして。そして今、あの女はアルディアンの婚約相手として立場を変えている。やはり、あの女たちにとって都合が良いように事が運んでいるのだ。

「浮気していたということか……?」

 その可能性を考えると、怒りで頭が真っ白になりそうだった。

 それが事実だとしたら、とんでもない裏切りだ。俺を騙して、俺を陥れるために、全てが計画されていたということになる。

 婚約破棄も最初から仕組まれていた。俺を失脚させるために、全てが綿密に計算されていたんだ。

「許せない……絶対に許せない!」

 俺は拳を握りしめた。



 そういう疑念にとらわれていくと、身近な人物さえも疑わしく見えてくる。カーラのことも気になっていた。

 彼女は王都を離れる時、少しだけ不審な動きがあったような気がする。荷物をこっそり整理している場面を見かけたし、何やら手紙を書いている姿も目撃した。

「実家への連絡なのか、それとも……」

 焦ったような様子を見せたり、表情が暗くなった瞬間もあった。あれは一体何だったのだろう?

「まさか、彼女もアルディアン側の人間なのか?」

 流石に、それはないはずだ。カーラは俺を愛してくれている。俺のために王妃になることを決意してくれた女性だ。

 だけど、最近の彼女の様子を見ていると、何か目的を持って動いているような気がしてならない。

 俺に付き合わせて、王都を離れることになってしまったのは申し訳ないと思っている。彼女にとって、この田舎暮らしは退屈で不満だろう。それは理解できる。

 だが、彼女は俺のパートナーなのだ。今まで大事に扱ってきたのに、この土壇場で俺を見捨てて逃げるなんて許されない。

 カーラを監視しろと、俺は屋敷の執事に命令した。

「彼女を逃さないように。彼女の行動を全て報告しろ。外部との連絡も遮断しろ」
「承知いたしました」

 執事は無表情で答えたが、その目には軽蔑の色が浮かんでいたような気がした。だが、今はそんなことはどうでもいい。

 もしカーラが俺の元から逃げ出したら、俺には本当に何も残らない。今の俺に残されているのは、彼女だけなんだ。俺は本気で彼女を愛している。その気持ちは、今まで何度も伝えてきたはずだ。

 彼女だけは、絶対に失うわけにはいかない。もしも彼女が裏切れば、俺は……。



 俺は書斎で一人、これまでの出来事を整理していた。

「俺は何も悪いことをしていないんだ」

 そうだ、全て他人の陰謀のせいなのだ。俺が愛する女性を正妃にしたいと思ったことの、一体何が悪いというのだろう? 自分の人生を自分で決めることの、何がいけないというのだろう?

 真実が明らかになれば、きっと皆がわかってくれるはずだ。俺がいかに理不尽な扱いを受けているかを。今までのことが間違っていた、ということを。

「そうだ、今の俺がやるべきことは決まっている」

 アルディアンの邪悪な思惑をぶち壊すことだ。

 そのためには、協力者が必要だろう。真実を明らかにして、再び俺が正当な王位に戻るために。

 きっとアルディアンに不満を持つ貴族もいるはずだ。急に表舞台に出てきた第二王子を快く思わない者もいるだろう。父の病気を疑問視する医師だっているかもしれない。

「そうだ、俺の味方になってくれる人は必ずいる」

 俺はまだ諦めない。この不当で理不尽な扱いを、黙って受け入れるつもりはない。

 必ず真実を明らかにして、正当な王位を取り戻してやる。俺が歩むべき道が、ようやく明確になった。

 そのために、まずは情報収集から始めよう。アルディアンとミュリーナの動向に、父の病気の真相、全てを暴いてやる。

 俺の逆襲は今、始まったばかりだ。
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