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第34話 どうして ※エライユ侯爵家当主視点

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「今なら、まだ許そう。だから、この縄を解くんだ」
「……」

 パトリック王子は冷静を装いながら、そう言った。しかし、その目は怒りに燃えていた。エライユ侯爵家の当主である男に対して、不遜な態度をとったことを後悔させてやるという強い意志が感じられた。

 そんな感情を隠しきれない王子など無視して、エライユ侯爵家当主は兵士に指示を出していく。

「王宮を制圧して、目的の重要人物達を拘束するんだ」
「はっ!」

 兵士達は頷き、すぐに行動を開始した。事前に計画していた通り、兵士が王宮内に突入していく。

 いつものように王は動かないし、王子も余計なことをする前に取り押さえることが出来た。現在は王都も落ち着いている様子で、まだ混乱は起きていなかった。王都に魔物が到達する前に別の部隊が処理してくれる予定なので、余計な騒ぎを起こさないで済みそうだ。

 パトリック王子の行動が遅かったおかげで、面倒な仕事は増えずに済んだと安堵していた。

「なぜ、こんな事をする! 王国が大変な状況だというのに、お前たちは!」
「はぁ……」

 こうなってしまった理由の大部分は、パトリック王子にある。それなのに、まるで他人事のように語る彼を見て、その場に居た者達全員が大きなため息をついていた。

 そして自分達の行動が正しかったと、確信することが出来た。このような愚か者を、次の王にするべきじゃないと。そのために、エルメノン王国は一度滅びるべきであると。

 

 しばらくして戻ってきた兵士から、王宮の確保が無事完了したという報告を聞いたエライユ侯爵家の当主は、満足そうに頷いた。目的の者達の身柄も全て逃さずに確保出来たようで、一安心だ。

「負傷者は?」
「居ません。予想していたよりも遥かに楽な仕事でした。多少の抵抗はありましたが想定よりも人数は少なかったので。投降する者も多数いますが、そちらには負傷者が居ます」
「投降した者は丁重に扱え。怪我をした者は、治療をするように指示しておけよ」
「了解しました」

 目的は、王族を処理することだけ。一般人や王宮の兵士にも危害を加えるつもりは無かったので、被害を最小限に抑えるため負傷者を治療するように指示していた。

 後は、王都に迫ってきている魔物の処理を頼んでいるソレズテリエ帝国の兵士達と合流して、順番に処理していく必要があるとエライユ侯爵家の当主は考えていた。

 少し前からソレズテリエ帝国とは協力関係だったエライユ侯爵家の当主は、今回の騒動に介入して反乱を起こした。エルメノン王国の貴族にも協力者が多数居て、反乱にも参加している。

 この国はもう終わりだ。王族の身柄を確保した。抵抗する王族派の貴族も居るだろうけれど、もうすでに勝敗は決していた。あとは、どうやって終わらせるかだけだ。

「おい、私の話を聞け!」
「このうるさい男は、牢屋に放り込んでおけ」
「はっ!」

 先程からずっと大声で騒いでいる王子を、牢屋へ連れて行けと指示を出す。計画もほとんど全て完了したので、これ以上の監視は必要なさそうだから。念のため近くに置いていたが、ようやく遠くへ離すことが出来る。

「待て! 私を誰だと……! ぐあっ!?」

 最後まで抵抗をして叫び続けた王子は、兵士に腹を殴られて強制的に黙らされた。そして気絶してしまった彼は、引きずられるようにして連れて行かれるのだった。
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