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2:産む機械の噂
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ビスケット様の言う『産む機械』の概念を持ち込んだのは、以前召喚された勇者と言われている。
我々の世界は勇者様の故郷よりも数段劣った文化であったらしく、特に女性の地位に関してはそれが顕著であった。
『女性は産む機械、なんて言った政治家がいたが、こっちじゃシャレになってないんだな』
この発言については、小難しい歴史書ほど詳細が記されている。勇者様の故郷の国では女性は男性と同等の権利を有しており、失言した政治家は女性蔑視の責任で辞任したとされる。しかし一方で『地域によって子供を産む生産性の高い低いがある』と発言した別の政治家は国のトップになったとか。
思うに一連の発言は人口減少対策の中に挟まれたほんの軽口であり、もちろん女性を蔑視する意図もなかった。辞任に追い込まれたのは、単に情報媒体を牛耳った政敵に潰されたからだろう。
(何故そんな事が分かるかって? ……私も全く同じ手口でやられたからだよ!)
このワガママ王女様は、新聞を使って私の発言を逐一悪意たっぷりに切り取り捻じ曲げた。自分たちの『真実の愛w』を彩るため、記事に書かれた私は笑ってしまうほどに物語上の悪役そのものだった。残念ながら大衆にとっての真実とは、より信じたい方であるため、私は身の安全もあって表向きは勘当という体裁で王都から避難したのだ。
それはさておき、『産む機械』発言は奇しくも異世界と同じく独り歩きしていった。即ち、女性への蔑称として使われ出したのである。『こっちじゃシャレになってない』と言った勇者様は正しかった。異世界に帰らなかったのはこちらの問題が魔王だけではないと気付いたからだろう。
彼は生涯、虐げられる弱者を救う事に尽力した。ただ魔王を倒したから英雄ではないのだ。
「召喚できない勇者のスペアを産まなきゃいけないなんて、屈辱的だよなぁ。まあいざとなれば、勇者の子孫であるこの私が担ぎ出されるだろうから、勇者製造機に出番はないだろうがな」
「きゃーっ、ビスケット素敵よ! 子孫だなんてすごいすごい!」
申し訳程度の肩書きに陶酔するビスケット様と、その周りをぴょんぴょん跳ねながら煽りまくる王女。勇者の血筋自体は今となっては国中に散らばっているため、実はそれほどすごくもなかったりする。
(それでも一応は血を引いているんだから、発言を曲解しちゃダメでしょうに……御先祖様が泣いてるわよ)
ツッコみたくなるも時間の無駄かと溜息を吐き、私は二人に再度頭を下げる。
「ご存じでしょうけれど、『計画』のため神殿に向かわねばなりませんので、これで失礼させていただきます」
「ふふん。まあ頑張れ。私ほどではないが、立派な勇者候補になるといいな」
「お相手とも仲良くね。わたくしたちほどではなくても」
うっざ!!
廊下の角を曲がり、二人の姿が見えなくなったところで私は盛大に鼻を鳴らして足を早めた。
我々の世界は勇者様の故郷よりも数段劣った文化であったらしく、特に女性の地位に関してはそれが顕著であった。
『女性は産む機械、なんて言った政治家がいたが、こっちじゃシャレになってないんだな』
この発言については、小難しい歴史書ほど詳細が記されている。勇者様の故郷の国では女性は男性と同等の権利を有しており、失言した政治家は女性蔑視の責任で辞任したとされる。しかし一方で『地域によって子供を産む生産性の高い低いがある』と発言した別の政治家は国のトップになったとか。
思うに一連の発言は人口減少対策の中に挟まれたほんの軽口であり、もちろん女性を蔑視する意図もなかった。辞任に追い込まれたのは、単に情報媒体を牛耳った政敵に潰されたからだろう。
(何故そんな事が分かるかって? ……私も全く同じ手口でやられたからだよ!)
このワガママ王女様は、新聞を使って私の発言を逐一悪意たっぷりに切り取り捻じ曲げた。自分たちの『真実の愛w』を彩るため、記事に書かれた私は笑ってしまうほどに物語上の悪役そのものだった。残念ながら大衆にとっての真実とは、より信じたい方であるため、私は身の安全もあって表向きは勘当という体裁で王都から避難したのだ。
それはさておき、『産む機械』発言は奇しくも異世界と同じく独り歩きしていった。即ち、女性への蔑称として使われ出したのである。『こっちじゃシャレになってない』と言った勇者様は正しかった。異世界に帰らなかったのはこちらの問題が魔王だけではないと気付いたからだろう。
彼は生涯、虐げられる弱者を救う事に尽力した。ただ魔王を倒したから英雄ではないのだ。
「召喚できない勇者のスペアを産まなきゃいけないなんて、屈辱的だよなぁ。まあいざとなれば、勇者の子孫であるこの私が担ぎ出されるだろうから、勇者製造機に出番はないだろうがな」
「きゃーっ、ビスケット素敵よ! 子孫だなんてすごいすごい!」
申し訳程度の肩書きに陶酔するビスケット様と、その周りをぴょんぴょん跳ねながら煽りまくる王女。勇者の血筋自体は今となっては国中に散らばっているため、実はそれほどすごくもなかったりする。
(それでも一応は血を引いているんだから、発言を曲解しちゃダメでしょうに……御先祖様が泣いてるわよ)
ツッコみたくなるも時間の無駄かと溜息を吐き、私は二人に再度頭を下げる。
「ご存じでしょうけれど、『計画』のため神殿に向かわねばなりませんので、これで失礼させていただきます」
「ふふん。まあ頑張れ。私ほどではないが、立派な勇者候補になるといいな」
「お相手とも仲良くね。わたくしたちほどではなくても」
うっざ!!
廊下の角を曲がり、二人の姿が見えなくなったところで私は盛大に鼻を鳴らして足を早めた。
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