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3:勇者の父の噂

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「お待ちしておりました、オーロラ姉妹。さぁこちらへ」

 神殿に到着した私は、神官長の下へと案内される。姉妹というのは神官への敬称で、私も追放されたとは言え修道院預かりとなっているのでそう呼ばれているのだった。

「お久しぶりです、神官長」
「そうね、もう一年になるわ。王女はもちろんだけれど、陛下の甘やかしにも困ったものだわ。娘可愛さのあまり、貴女ほどの敬虔な信者に汚名を被せるなんて」
「ふふ……【真実の探求者】たる私だからこそ、何とも思いませんよ。神は全てをご存じなのですから」

 憤る神官長に余裕の笑顔を返しておく。
 この国の決まりで、十五になった貴族の子息子女は神殿から称号が授けられる。別に新しいスキルに目覚めるわけではないが、自分の中で一番秀でた才能を明らかにする事で、最も相応しい生き方が提示される。従う従わないは自由……と言いつつも家族からは大いに期待されるし楽なのは確かだ。
 そして三年前、学園に入学したばかりの私も神殿で用意された水晶に触れ、称号【真実の探求者】を与えられた。婚約者の浮気の常套句に『真実』が使われたのは皮肉としか言いようがないが。

「それで、現れたのですね? 【勇者の父】が」
「ええ。召喚が失敗した時のために王家が用意した『計画』の要となる者よ。世界の希望の芽は、潰えさせてはなりません」

 魔王が復活する時、勇者もまた現れる。
 神託によれば、その出現は今の時点からあと二年以内との事だった。
 魔王側によって召喚はできなくなってしまったが……ギフトを持った勇者を呼び寄せる方法は、まだある。

 異世界転生――亡くなった異世界人を、命が生まれる瞬間の器に宿らせる。
 母体に最適なのは、剥き出しの魂を守るために加護の力を持った神官。
 勇者を人工的に『造る』のだ。

 現在、【勇者の父】は十五歳。神職でつり合いが取れるのは、自分だけだった。修道院での修業はたった一年だったけれど、幼い頃は病弱だったため、健康を祈願して神殿に通い祈り続けた年月は長い。
 あと必要なのは、覚悟だけだった。

 思わず、自嘲の笑みが零れる。

(ビスケット様の言う通り、勇者製造機かもしれないわね。人権も何もない、魔王を倒すためだけの存在を産み落とすのが役目……だけど)

 それが、何?

 平和とは、誰かの犠牲の上で成り立っているんじゃないか。
 ただ祈っていても、誰も救えない。
 武器を持てないなら、私はできる事をするだけ。
 これは、魔王との戦いだ。

「機械だとバカにするなら……貴方は勇者にはなれないわ」

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