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5:選ばれた男の噂

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「オリオン=イーダ男爵子息様ですね? お初にお目にかかります。わたくし、スペルビエ伯爵家長女オーロラと申します。ふつつかながら、異世界の勇者をこの身に降ろす大役を承っておりますわ」

 応接室に入った私が一礼し、ソファに腰を下ろして自己紹介すると、対面にいる少年が気だるげにこちらを見た。
 知ってはいたけれど、やはり若い……と言うより幼い。年齢からして弟よりも年下だし、背丈だって私の方が高いかもしれない。

 オリオン=イーダ――最近爵位を賜ったピエール=イーダ男爵の養子で、元々は孤児だった。貴族間の中では侮られる経歴だが、王家は養父のピエール=イーダを貴族にする事こそ長年の悲願としていた。何故なら彼こそが伝説の勇者の直系であり、大賢者と言われる存在だから。
 晩年は俗世を嫌い、権力から程遠いところに身を置いた勇者様の行方は、数々の逸話はあれど分からず仕舞いで、子孫を自称する者たちを大量に生み出した。私の元婚約者だったルクセリン侯爵家もそうだ。
 だから養子を学園に通わせるためとは言え、大賢者ピエールを手元に囲えるという手柄一つだけでも、オリオンは【勇者の父】の称号に相応しいと言えた。

 その当人は、私の挨拶にボサボサの黒髪の間からジロッと視線だけ返す。

「あんたが? 勇者の子を俺と?」
「はい」
「王女の恋人を自分のものだって纏わりついて、嫌がらせしたり『王族なんて政略結婚の駒』とか言ってたんだって?」

 オリオンが言っているのは、アエス殿下とビスケット様による印象操作だ。彼は元々私の婚約者なのだし、アエス殿下には王家の義務として国が定めた婚約者と結婚しなければならない。その辺のあれこれをすっ飛ばすために悪役にされたものの、もう王都に戻るつもりもなかったので放置していたのだけれど……

「そちらに関しては事実無根だと、陛下は新聞各社にそう伝えられています。彼との婚約も穏便に解消されていますし、今回の『計画』には何の関係もない事です」
「計画ねぇ……それって、あんたじゃなきゃダメなのか? 白髪で老眼のババアじゃん」

 ……は?

 突然の暴言に、理解が遅れてぽかんとする。
 ビスケット様からは『華のない地味な女』、アエス殿下からは『堅苦しくて女捨ててる』とまで容姿を貶された事はある。生まれつきの髪色ではなく、近眼で黒縁眼鏡をかけているので、美しくない自覚も確かにあったが……

(本気で老人と間違われるとは思わなかったわ)

 神官として向き合うため、きっちりと髪をまとめ上げ礼服で来たのが間違いだったのだろうか。


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※五話以降、不定期更新予定。
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