没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

アイアイ式パイルドライバー

文字の大きさ
75 / 111
7章・子の成長

移行

しおりを挟む
 王城で、サーニアと隠密部隊新設の件を、カイエン、ロイバック、ラキーニ、そしてルカオットが話し合っていた。

 隠密部隊の総指揮官はロイバック。
 そして、部隊の隊長はサーニア。

 このサーニアはカイエンの娘サニヤであることを知っているのはこの四人だけに留める。

 ルカオットは「まさか私の知らない所で、かような事態になっているとは」と深く息を吐いて、椅子にもたれた。

 ルカオットが知らないのも無理からぬ。
 誰も彼もが、良かれと思って、個々で勝手に動き回っていたのだから。
 ゆえに、カイエンとロイバックは「勝手な真似をしてすいませんでした」と謝った。

「いや、よい。これもそなたらの忠誠。悪くは思わないさ」

 王らしい態度が板についてきたルカオット。
 しかし、王としてはまだまだ甘い。
 カイエンやロイバックが好き勝手に行動したのに、毅然として態度を取れないのは、やはり王としては良くないだろう。

 だが、ルカオットはカイエンやロイバックを信頼していたので、多少甘かろうがこれで良いと思う。 

 さて、その様子を見ていたラキーニ。
 彼は殆ど喋る事なく、この会議の様子を見ていたのであるが、ついに口を開いた。

 そして、サーニアが暗黒の民に襲われた事を伝える。

 彼女が隠密部隊として動くときの、大きな足枷となるだろう。
 まさに獅子身中の虫だ。

 ルカオットが憤慨し、「カイエンの娘さんと、我が国の兵を傷つけるなんて」と言った。

 しかし、カイエンとロイバックは渋い顔である。

 まず、サーニアは今、カイエンの娘サニヤでは無い。
 あくまでも雇われ傭兵サーニアであるし、その存在も秘匿である。
 サーニアを襲った事を理由に処罰しようにも、ではそもそもサーニアとは何者なのかを公表せねばならぬ。
 そのような事はできない。

 と、なれば、暗黒の民を処罰するなら、兵を傷付けてしまった事だろう。
 しかし、暗黒の民があくまでも兵を傷つけないようにしていた事を現場の兵達も知っている。
 あるいはその指を切断してしまった暗黒の民一人を処断する事は容易い事だ。
 で、あるが、それでは禍根を残すだけである。

 サニヤの件を何とかするなら暗黒の民全体を何とかせねば意味が無い。

「兵を傷つけた事をキツく言っておく事しか出来ないな」

 カイエンは残念そうに言った。

 なまじっか暗黒の民は武功を上げているので、迂闊な処罰も中々出来ない。
 どこの馬の骨とも知れないサーニアと、暗黒の民では、暗黒の民の方に分が上がってしまうのが実情なのであった。

 誰も彼もが、どうしようもない問題に黙りこくってしまう。
 
 静寂。
 天井のシャンデリアに乗せられたロウソクが静かに揺れていた。

 ふと、ロイバックが「話は変わりますが」と静寂を破る。

 彼は言う。
 せっかく隠密部隊を新設するなら、ローリエット騎士団の再設も行わないかと。

 ――ローリエット騎士団。
 ローリエットとは、マルダーク王国建国の歳に活躍した、最も若く、最も勇敢な騎士である。
 彼の名を冠したこの騎士団は、貴族の次男や三男を集めた見習い騎士団だ。

 かつて、カイエンも所属していたし、ルーガも所属していた。
 ロイバックはロイマン家の長男だったので、騎士団に所属していなかったが。

 長男は親を師匠として見習い騎士となるためだ。

 しかし、長男に掛かりきりとなる親の代わりに、次男達を鍛えられるローリエット騎士団は大事である。

 特に、反乱であたら若くて有能な人材が居なくなったのであるから、後進の育成のためにローリエット騎士団の再設は急務だと言った。

 その提案に誰も異論など無く。
 むしろ、もっと早く話し合うべき議題であったと思う。

「ローリエット騎士団再設の折には、宰相様の息子殿を入団してはどうでしょう? 来年に十歳でしたし、ちょうどお二人居りますのですから、片や宰相様が指導して、片やローリエット騎士団へ入れるのはいかがでしょう?」

 ロイバックが言うので、カイエンも「そうだな。それが良い」と言う。

 しかし、二人とも心優しいので、ローリエット騎士団の『しごき』に耐えられるかどうか。
 いや、貴族とは民衆を守るために先んじて戦う存在。
 カイエンの子として生まれた以上、戦いとは避けて通れぬ運命であるからして、彼らを鍛える必要があった。

 その頃、当のそのザインとラジートはというと、いつも通りリーリルと一緒にリビングのソファーに座って本を……読んでいるのはザインしか居ない。

 ラジートはどこであろうか。
 耳を澄ませば、裏庭からバシ、バシっと音が聞こえる。

「もっと腰を入れて下さい!」

 キネットの怒鳴り声。

 相手はラジートである。

 ラジートは訓練用の木剣を手に持ち、キネットと戦っていた。

 ラジートがキネットへ、戦いの稽古を付けて欲しいと言ったのだ。
 戦いが嫌いだったラジートにしては珍しい。

 ラジートは以前、ガゼンを刺し殺した。

 その時、とても恐ろしく、とても誤った事をしたのだと実感した。

 そんな時、カイエンから言われた『よくリーリルを守った。偉いぞ』という言葉がラジートの救いとなったのだ。

 そして、その直後、自分達へ襲い掛かってきたリミエネットをカイエンが投げ、その腕をへし折った時、ラジートは一つの真実を理解する。

 強くなければ誰も守れない。

 だから、強くなろうとキネットに稽古をお願いしたのである。

「姿勢が崩れています! 剣の保持!」
  
 キネットの攻撃を受ける度、少年のラジートは体勢を崩して、二、三歩と後退する。

「下がってはいけません。前へ!」

 そんな事を言われても、攻撃を受けたら下がってしまうのだから仕方ない。

 しばらくラジートが攻撃をしのいでいると、キネットは攻撃を中断して「手合わせはこのくらいに」と言う。
 そして、そのまますぐに素振りをするように言うのだ。

 ラジートは汗まみれでへとへとの体を鞭打ち、姿勢をとる。

「剣先が下がっています。相手を想像して、喉元にむけなさい。
 足の開き。開きすぎです。
 それから顎、苦しいからと顎を上げてはいけません」

 キネットは何かと姿勢にこだわる。
 戦いの姿勢こそ勝ちへ繋がる全てだと信じているのだ。

 だが、ラジートは、姉サニヤの自由奔放な戦い方を見ていたので、どうにも納得できない。
 そもそも、まだ少年のラジートと大人のキネットでは体格もリーチも違うのだから、サニヤのように跳ねたり伏せたりして戦いたく思う。
 正直、姉サニヤの戦い方の方が『格好いい』のだ。

 それでもラジートは嫌な顔をすること無く、キネットの指導に従う。

 強くならなければ何も守れない。

 ラジートの頭に一つの思いが浮かんでいたのである。

 僕が……いや、オレが皆を守るんだ。

 父と姉がなぜ家に居ないのかラジートは考えていた。
 それは戦っているからだ。

 何と戦っているかは分からない。
 しかし、その戦いとは家族を守る為の戦いに違いない。

 ならば、父カイエンと姉サニヤが外で戦っている今、双子の兄弟ザイン、愛する母親リーリルの居る家を誰が守るんだ?

 オレが守るんだ。
 メイドも居るけど、本当はオレが皆を守らなくちゃあいけない。
 だって、オレは男の子なのだから!

 ラジート九歳。
 幼少期から少年期への移行。
 そこには確かに男の姿があった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

騎士団の繕い係

あかね
ファンタジー
クレアは城のお針子だ。そこそこ腕はあると自負しているが、ある日やらかしてしまった。その結果の罰則として針子部屋を出て色々なところの繕い物をすることになった。あちこちをめぐって最終的に行きついたのは騎士団。花形を譲って久しいが消えることもないもの。クレアはそこで繕い物をしている人に出会うのだが。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...