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悪役令嬢は押しかけ女房なんです!

第7話 悪役令嬢の使い道ですわ!

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 リコネルは部屋にいないらしく、書斎で仕事をしていると聞き向かうと、ゆったりとした服装でなにやら構想を練っていたようで、私が来ると慌てて立ち上がり淑女の礼をなさいました。


「気を楽にしてくださって結構ですよ」
「そうは言っても、将来の旦那様に礼を尽くすのは当然の事ですわ」
「フフ、貴方らしいですね。今日は少々込み入った話がまた出てきてしまいまして、お話をと思ってきたのです」
「まぁ、国王から何か言ってこられましたの?」


 流石の洞察力、私が頷くと呆れた表情を少しした後、互いに椅子に腰掛けました。
 彼女に話すのは少々躊躇してしまいますが、これから夫婦となるのですから、そして、私の妻と言う特殊な地位につくのですから……と気持ちを引き締め、向かい合いました。


「今回、色々調べさせて頂きました事を先に謝罪しておきます。貴方は悪役令嬢などと言う存在ではなかったのですね」
「当たり前ですわ。けれど、そちらのほうが都合が良かったのもご理解頂いているのではなくて?」
「だからこそ、噂雀たちを放置させていたのですね?」


 私の言葉にリコネルは笑顔で「勿論」と答え、紅茶を一口飲むと私に向き合いました。


「このお屋敷に来たときに申した通り、わたくし、チャーリー王子と結婚する気なんて微塵もありませんでしたの。あんな浅慮な方に嫁ぐなんてまっぴらごめんですわ」
「それはそうかも知れませんが。では何故悪役令嬢のままの情報を放置しているのです?我が家の雀を使えば王都での悪評など消し去るだけの能力はありますよ」
「わたくし、悪役令嬢と言う名を有効活用しておりますの」
「有効活用?」


 思わぬ言葉に目を見開くと、彼女はにこやかに言葉にしました。
 例え悪役令嬢の行う商売であっても、どんな嫌がらせを受けようとも耐えてみせると言う気概のある職人が欲しい、根性のある人物、また、やる気のある人材が欲しい。それこそが彼女が言う【悪役令嬢の使い道】なのだと口にしました。


 確かに、悪評高い場所への就職とは難しいものです。
 出来ればしたく等無いでしょう。
 ですが、あえてそれを、悪役令嬢が営む商店、と言うものを売りにしているのだと彼女は言ってのけたのです。


「その上で働き方改革や、給料の良さ、待遇のよさが解れば、自然に悪役令嬢の名は払拭されていきますわ。わたくしが王都から店を移したのは、理由は簡単、王都に金を落としたくなかったからですの」
「な、なるほど」
「確かに結婚相手に苦労するであろう悪役令嬢と言う汚名ですけど、商売には打ってつけ、その上、好いた殿方に嫁ぐことが出来たわたくしは幸せ者ですわね!」


 そう言って高笑いする将来の妻に、最早脱力してしまいました。
 悪評を売りにする、利用するとは考えもつかなかったからです。


「それから、ジュリアス様のご様子ですと……雀を使った相手もお解りではなくて?」
「ええ、王太子に引っ付いていた金魚の糞のような男とアルジェナですね」
「その通りですわ。アルジェナ様ったら王太子とお付き合いしながらその糞ともお付き合いなさっていたのはご存知?」


 思わぬ爆弾に私は持っていたカップを落としそうになりましたが、リコネルはクスクスと笑うだけで「知らなかったのですね」と口にしました。


「今でこそ王太子とくっついてますけど、スリルを味わいたいと言う理由で二人は合意の下でお付き合いなさってたようですわよ。既に体も綺麗では無いはずですわ」
「そんな、はしたない真似までなさっていたのですか? そのアルジェナと言う女は」
「ええ、わたくしにとってはどうでもいい事でしたので、それとも、この話……雀にでも王都で囀らせて見ます?」


 悪戯を思いついたかのような表情で、それでいて本当に悪役のような姿で口にしたリコネルに、私は生唾を思わず飲み込んでしまいましたが、それはそれで王都に、そして国王に打撃を与えるには充分でしょう。


「ですが、そうなれば貴方を妻に返せというのではないのですか?」
「ええ、そうなってしまっては元も子もありませんもの。ですので、早い内に、近い内に結婚してくださらない?」


 まさかの逆プロポーズ。
 いえ、婚約しているのですからいつかは結婚しますけれど、早い内に、近い内に結婚をと言われるとは思っておらず、耳まで真っ赤に染まり禿げた頭からは湯気が出てしまいました。


「ああん、もう、可愛らしいお方!」
「こらこら、私をそう困らせてはいけません」
「お困りですの?」
「恥ずかしいのです……今までその様に女性から言われることが無かったので」
「これからは、わたくしが毎日のようにジュリアス様を口説いて見せますわ」


 ウットリするような表情で口にするリコネルに、私は耐え切れず残っていた紅茶を飲み干し、深呼吸すると「ではそれ以上に口説いて見せましょう」と言い返しました。
 するとリコネルはキョトンとした表情をした後、本当に嬉しそうに……嬉しそうに微笑みました。


「では、わたくしの溜飲が少しでも下がるように、早めに結婚して先ほどの噂を流せば宜しいですわ。優秀なのでしょう? ジュリアス様のお抱えする噂雀さん」
「折り紙つきですよ」
「楽しみが増えましたわ! 俄然執筆の熱も上がりましてよ! あ、結婚式には仕方なく陛下も呼ぶでしょうけど、わたくし、婚約破棄された身ですから小規模で宜しいですわ」
「ある程度、私と仲良くしている者達、そして一応国王夫妻にも連絡だけはしましょう。来るか来ないかは別ですが」
「そうですわね。ふふ! 早く結婚して愛しいジュリアス様のお子が産みたいですわ!」


 その言葉に顔を真っ赤にすると、リコネルは美しい笑顔のまま、それでも頬を少しだけ赤くして微笑み「それではわたくし、仕事が残ってますの」と言われ、私とサリラー執事は部屋を後にしました。


 さぁ、今日からやることが沢山です。
 頑張りましょう。

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