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悪役令嬢は押しかけ女房なんです!

第8話 王太子とアルジェナが嫌がらせに来るそうですわ

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 それからの日々は、ある種怒涛の日々でもありました。
 結婚式の準備に始まり、各所への招待状送り、そして問題だったのが、国王を呼ぶか否かの問題。
 ここはリコネルと話し合い、一応招待状を送るのが礼儀であろうと言う事で送ることになりましたが、返事はなんと――リコネルを悪役令嬢だなんだと騒いだ王子とアルジェナまでついてくると言う返事だったのです。


「まぁ、結局あのお二人、ご結婚なさいますの?」
「いいえ、各所からの反対意見が多く、お二人の結婚は許されないそうです。国王があてになら無いので私のほうで調べさせて頂きましたが――」


 王子の態度は昔から変わらず、何かあれば癇癪を起こし国王夫妻を困らせるのは日常茶飯事。
 そんな頭痛の種に、更にアルジェナと言う毒婦がついたことで、城は混乱の渦に巻き込まれていたそうです。
 朝から酒を飲み、昼には眠り、夜には王子の部屋へ忍び込もうとする。
 無論、王子の部屋の前には護衛騎士が常にいる為、結局二人は扉越しに会話をするだけで会う事はできないのだとか。
 更にいうなれば、そんなアルジェナの横暴な態度に、何時まで城にいさせるつもりだと言う意見も多数出たそうで、アルジェナは屋敷に帰されたのだとか。


 そこまでなら納得行くでしょうが、アルジェナは屋敷に戻るや否や、火遊びしていた金魚の糞と密かに会うようになり、スリルを楽しんでいるらしい。
 この事は既に国王の耳にも入っているにもかかわらず、今回王太子とアルジェナが私達の結婚式に参列するというのは、嫌がらせ以外の何者でも無いでしょう。

 折角の晴れの舞台。
 そこにケチをつけようというのですから器が知れています。

 近い内に、城に行き、王家に伝わるクリスタルをみなくてはなりませんね……。



「つまり、嫌がらせの為に来たいと言う事は理解出来ましたわ」
「そうですね、何か問題を起こした場合直ぐに取り押さえ、別室に移動して貰うことにしていますが宜しいでしょうか?」
「仕方ありませんわね……構いませんわ」
「あなたは何も悪くないのに……苦労をさせてしまい申し訳ありません」


 そう言って深々と頭を下げると、リコネルは慌てた様子で「顔をお上げになって!」と私に駆け寄ってくださりました。


「宜しいじゃありませんの」
「何がです?」
「わたくしたちがラブラブであることをシッカリと見せ付けてやればいいんですもの。何を言われようと幸せオーラで跳ね飛ばしてしまえば良いのですわ!」
「リコネル……」
「わたくし、ジュリアス様とならそれが出来ると信じておりますもの!」


 そう言って私を励まし、微笑むリコネルに「貴女には敵いませんね」と口にすると、襟を正して前を向きました。

 そうです、彼女が私を愛してくれているのです。
 見目麗しくないと言う理由だけで、国から追い出された私を。
 本来なら国王になるべき器だと王家のクリスタルが示していたのに……。
 けれど、そんな私を、わずか5歳の時からひとめぼれし、押しかけ女房でやってきたリコネル。
 私とは違い、流石公爵家令嬢であり、あの王太子の元婚約者……見目麗しい姿は太陽の女神のようです。


「どうかなさいました?」
「いえ、貴女は私にとって女神のような存在だと、しみじみ思ったのです」
「まぁ!」
「私の心を照らす太陽、癒す時は美しい月のような方ですね」
「……恥ずかしいですわっ」


 頬を真っ赤に染めて顔を背けつつも、大きな瞳は私を射止めている。
 こんな女性が私の将来の妻なのだから、本当に神に感謝したい……今度教会でお祈りしてきましょう。


「他に来るお客様はどの様な方々ですの?」
「ええ、今回国王夫婦が王太子を連れてくると言う話を聴いて、大半の貴族は結婚式へ来ることがなくなってしまいましたので、親しい者を集めた披露宴を屋敷でしようかと思っています」
「解りましたわ」
「結婚指輪も既に頼んでありますから、問題は婚約指輪ですね……どのようなものをお望みでしょう。この間来られた宝石店の方々のモノでは満足できませんでしたか?」
「いえ、憧れの宝石がありますの。その宝石の指輪が無かったから頼まなかっただけですわ」
「では、取扱店を直ぐにでも探しましょう。なんの宝石の指輪が欲しかったのです?」
「ピンクダイヤモンドですわ」
「ピンクダイヤモンド……」


 希少価値が高く、また、この辺境伯爵領でしか取れない、ピンクダイヤモンド。
 直ぐに取り扱っている店が無いか、サリラーに指示を出しました。
 しかし、この領でしか取れないピンクダイヤモンドを婚約指輪にしたいとは……中々、胸にくるものがありますね……。
 ――愛しい。
 そう、思ってしまうのです。


「ピンクダイヤモンドが好きな理由を教えていただいても?」
「一つはこの領でしか取れない、領を象徴するダイヤであること。二つ、わたくしが常に身につけていたい程に好きであること。わたくし、これでもピンクダイヤモンドはそれなりに実家で集めていましたのよ」
「そうでしたか」
「学園でも、ピンクダイヤモンドと言えばリコネル……そう言われていた程ですわ。だって王太子からプレゼントなんて貰ったこと御座いませんもの」


 その言葉に私は眉を寄せました。
 収支計算書には、王太子のものも含まれており、そこにはしっかりと婚約者へのプレゼントと書かれていたのを覚えていたからです。
 つまり……王太子は嘘の報告書を出していたという事になります。
 これは、充分重い罪に問われる問題の一つです。


「どうかなさいまして?」
「いえ、では私が貴女への初めてになるのですね」
「ええ! わたくし嬉しくて嬉しくて!」
「そこまで喜んでいただけると、男冥利につきますよ」


 そう言って彼女の頭を撫でると、うっとりとした表情で微笑まれました。
 さて、再度我が家にある王太子の収支計算書を洗いざらい調べましょうか。
 リコネルへのプレゼントだと、婚約者への贈り物だと書いておきながら、そのプレゼントが誰に渡ったのか……まぁ、あの毒婦でしょうが、これは貴族ではご法度。


 結婚式が終わり、国王夫妻に再度話をしに行く時の土産話の為に、シッカリと証拠を押えて提出しましょう。

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