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悪役令嬢は愛妻なんです!

第27話 リコネル商会は順調ですけど……

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 一週間滞在しなくてはならない王都での生活は、日々刺激に溢れていました。
 毒を仕込んでくるメイド、かれこれ5人。
 彼女達を即解雇するはずも無く、誰の差し金か、それとも逆恨みかと言う事もあり、城下外で忙しく働きまわる兵士さんたちに取調べをして貰い、3人は元王太子からの依頼であったこと、そして2人は私への恨みからと言うものでした。

 いっそ清々しくメイドを入れ替えなくてはリコネルを安心して連れて来れないと判断した私は、それらの報告書をみるや否や、即全員のメイドを解雇しました。
 料理を担当する方々に関しては、お望みであれば辺境領地での仕事の斡旋を用意する事にしましたが、揃って「リコネル商会のどこかに」と言う要望を受け、リコネルと相談し、カフェで働いてもらう事に決まりました。
 カフェでの従業員募集に梃子摺っていたリコネルはホクホクの笑顔で、王都で過ごす間に引越しの準備などを進めてもらうことにし、破格の交渉として、屋敷に備え付けられている領地へと飛ぶことが出来る魔法陣を使っての引越し許可を出すと、料理人の家族も気合を入れて引越しの準備に取り掛かったようです。

 一般的な引越しは、街道を使い護衛を雇い辺境領地まで来なくてはならない為、それらが省かれるのは大変ありがたいことなのです。


 さて、件の元王太子の依頼で私を毒殺しようとしたと言う内容ですが、更に王の頭を悩ませる問題だったらしく、また元王太子も悪びれる様子も無く「邪魔者は死ねば良い」と罪を認めた為、議会は更に白熱し、最早王子としての身分すらも剥奪しなくてはならないと言う意見まで飛び出してきました。

 実に良い方向ですね。

 私が王太子であった頃、毒殺を恐れた母による涙の毒耐性付けが役に立ちました。
 亡き母に感謝しつつ、またこの事を知ったリコネルは怒り狂い、彼女の前では出来るだけアホ王子の事を口にしないように心がけております。


 そんな訳で、元王太子は元王子になり掛けている為、余程忙しいのでしょう。屋敷に来る事も無く一週間が過ぎろうとしたある日、エリオが私の元を尋ねてきました。


「屋敷をそのままにして欲しいとは?」
「はい、メイドを置いて欲しいとも言いません。ただ、王都での活動拠点が無くなると大変なので、出来れば残していただければ幸いかと思いまして」


 そう、王都での諸々な作業拠点の事をスッカリ失念しておりました。
 それならばと言う理由で、必要な人材がいればエリオに任せる事も伝え、屋敷は残しておくことにしたのです。

 確かに、王都から辺境領まで早馬を使って移動しようにも時間が掛かりますからね。
 この屋敷があれば、魔法陣で瞬時に行き来できる事も考えれば維持費も安いものでしょう。
 リコネルにもその事を伝えると「素早い情報伝達は大事ですわ」と口にし、頷いて許可を出して下さいました。


「さて、色々問題が山積みですけど、取りあえず私の商会の話からして宜しいかしら?」
「ええ、構いませんよ」
「本屋に関しては、売り上げは上々ですわ。実はあれからお兄様と相談して、販路を広げてみましたの」
「販路ですか?」
「ええ、王都からもそれなりに近く、他の領地もそれなりに行き来しやすい公爵領での本の販売ですわ。店舗を用意するからと言われて許可を出しましたの」
「なるほど」
「カフェに関してはまだまだコレからと言った感じですわ。調理担当人員が少ないのもありますけれど、リコネル商会に王都の屋敷の調理場で働いていた方々を、全員雇えたのは大きいですわね。今後の売り上げに期待ですわ」
「おおむね本屋関係は順調ですか。問題の花屋のほうは?」


 そう問い掛けると、リコネルはニッコリと微笑んで、やっと昨日キーパーが搬入された事を教えてくださいました。
 働く人員はリコネル園芸店でそれなりに植物に精通している一般部門から数名派遣されるらしく、ついでにその方々に花屋の従業員を育ててもらおうと言う事になったのだとか。


「フラワーアレンジや花束にも精通している方々だそうで、少々お年を召しておられる女性が4人と、若い男性2人が働きに来ますわ。花屋で働く従業員に関しては、実は孤児院から要望があって、孤児院を卒業する子供達が数名いらっしゃるようだから、その子達を雇ってみて欲しいと言われてますの。皆さん魔力持ちらしいので、働きながら魔力操作を習って貰いますわ」
「それは良いですね」
「ついでに、園の説明も軽くしておきましたの。魔力もちの子は魔力が暴走しがちですから、魔力操作を教えてもらえるのはありがたいとのお言葉でしたわ。花屋はその孤児院から卒業した子供達が面接を受けて大丈夫そうなら雇う形にしてますけれど、力がありそうな子ならば園芸店でも働いて貰おうとも思ってますの」


 実際、花屋や園芸店では力仕事が主な場面も多く、女性従業員では動かせない物でも、男性従業員がいれば何とかなる場面は多く見られました。
 その事もあって、花屋と園芸店では、男性も多く雇うように心掛けているようです。


「大まかな花屋スタートは研修が終わり次第となりますわね……せめて一ヶ月くらいは研修して貰おうと思いますの」
「それから花屋はスタートなのですね」
「ええ、子供達には急がせてしまって申し訳ないですけど」


 リコネルはそうは言いますが、実際研修などと言う期間は一般的には存在せず、リコネル商会のみが取り入れているものなのです。
 大抵の働き口では、研修もなく、最初の一日目からビシバシと基礎を叩き込まれながら給料をもらいます。泣き言さえも許されないと言う風潮もあるくらいです。
 ですが、リコネル商会では研修期間と言う期間を設けており、その間にいくら失敗しようと、幾らわからないと言おうと、それを教える期間が存在します。


「一年勤めてやっと一年の花の流れが解る。二年目になると一年の流れが良く解るようになる。三年経って初めて花屋での諸々が分かるようになってくる。それが花屋ですもの、三年も研修期間を設けられませんわ」
「それもそうですね」
「その分、解らない所は噛み砕いてわかりやすく、ソレでいて丁寧に教えられる人材をベアルさんにお願いしましたの」
「それでこの人選なのですね」
「ええ!」


 園芸店から来られる男性二名は力仕事を主に教える方、もしくは、力仕事を任せられる人材であろう事は解りましたが、人当たりがとても良いと評判の2人だそうです。
 そして他4人は子育ても一段落し、第二反抗期もものともしない肝っ玉母さんのような人材でした。
 ベアルさんの人選なら間違いは無いことでしょう。


「一ヶ月後スタート……花屋のオープンにはまだまだ時間が掛かりそうですね」
「構いませんわ。それより成すべき事は多いのですもの。特に――」
「村……ですね?」


 カティラス様が仰っていた村の建設が、我が領でも始まりそうになっていました。

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