まんぞくできない多々良君〜たのしい羞恥物語〜

桜羽根ねね

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②僕と我慢と羞恥デート

2.たえられない!(飲尿)

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「(……や、やば……い……!!)」

 ……昨日の祈りも空しく、僕は今、膀胱が強烈に訴えてくる尿意を、唇を噛み締めながら必死に堪えていた。

 狩屋と一緒に、映画が始まる時間までぶらりと辺りを散策している間は、まだよかった。

 いざ映画のチケットを購入して席に座った瞬間、今までなかった衝動が湯水のごとくごぽごぽと湧いてきたのだ。

 映画が始まってしまったらスマホを確認することが出来ない。つまり「ご主人様」からの許可が来ているかどうか見ることが出来なくなってしまう。
 まだ動ける今の内にトイレに行っておかないと……最悪なことになってしまいそうだ。

「……多々良ちゃん?スマホ睨んでどうしたん?」
「べ、別に……、何でもない」
「ふうん?あ、そろそろ始まるっぽいし、電源切っときなよ~」

 最後列のど真ん中なこの席は、映画を観るのにベストな位置だ。
 他にもちらほら客はいるが、皆前の方に固まっている。どちらかといえばマイナーな映画だから客自体が少ないけれど、それでも……こんな公共の場所で、大の大人が漏らすなんて。

「(それだけは……絶対嫌だ……!)」

 照明がどんどん暗くなっていく。電源を切ったスマホは鞄の中。
 後には引けない状態で、僕と尿意との戦いが幕を開けた。


*****


 ──そうして、映画も中盤に差し掛かった頃。

 僕はもう我慢の限界まで達していた。

 なりふり構わず股間を手で押さえて、内腿にぎゅっと力を入れて前屈みになって……それでどうにか最後の堤防を守っているような状況だ。
 もう映画の内容なんて頭に入っていない。今はただ、早くトイレに行きたいという思いでいっぱいだった。

「……ね、大丈夫?」

 隣から小さく声をかけられて、はっと意識がクリアになる。
 ちらりと横を見ると、不安そうに眉間に皺を寄せている狩屋とばっちり目が合った。薄暗い映画館の中でも、これだけ至近距離だと嫌でも相手の表情が分かってしまう。

 表情どころか僕の様子がおかしいということは丸分かりだから、きっと心配してくれたんだろう。
 折角のデートなのに、狩屋の前で恥ずかしい姿は晒したくない。でも、積もり積もった尿意は少しも静かになってくれなくて。

「……か、かり、や。……おしっ……こ、したぃ……っ」

 気がついた時には、蚊の鳴くような声でそんなことを口走ってしまっていた。
 さぞ幻滅して呆れた目を向けられるだろうと思ったのに……何故か狩屋は席を離れてあろうことか僕の前にしゃがんできた。

 ただでさえ狭い通路に無理矢理割り入ってきた形になるから、狩屋と僕の距離は物凄く近い。正確に言うなら、狩屋の顔と、僕の股間が。

「もー……、何で始まる前に行っとかないわけ?」
「うぅ……」
「その様子だと立つのも難しそーだね?ジュースの容器でもあればよかったけど……ないならしょうがないか」
「か、狩屋……?」
「ほらほら、ちょっと手ぇどけて」

 まさか、という思いが胸を過ぎる。狩屋は僕と違ってノーマルで紳士な嗜好の持ち主だ。

 だから、こんなこと、させるわけにはいかないのに。
 早くこの苦痛から解放されたい身体は、勝手に狩屋の言葉に従ってしまう。

 性急にジッパーが下ろされて下着の中から性器が取り出されるのを、僕はどこか他人事のように見つめていた。あまりにも現実味が、なかったから。

 少しだけ先端が濡れているそれを、迷うことなく狩屋がはむりと咥えた瞬間、……張り詰めていた糸がぷちっと途切れた。

「っ、ん……、っあ……!!」

 しょろしょろと溢れ出したおしっこが、狩屋の咥内に注ぎ込まれていく。館内に響く激しいBGMによって、僕の排泄音も狩屋の嚥下の音も他の客に届くことなくかき消されるのが唯一の救いだ。

 いくら客が少なくて暗い場所とはいえ、こんな公共の場所で恋人の口の中に放尿しているだなんて……、あまりの変態さにぞくぞくと快楽が押し寄せてくる。

 温かいモノに包まれておしっこをするのが、こんなに気持ちいいことだなんて思わなかった。時々竿や先端に這わされる舌も、たまらなく気持ちいい。
 完全に弛緩した身体で、喘ぎ声を我慢しながらショロロロとおしっこを漏らす。美味しくないそれをごくごく飲み下していく狩屋が、愛おしくてたまらない。

 以前、ベッドの上でお漏らししたところも見られているから……、今度こそきっと軽蔑されるだろう。蔑んだ目で僕を射抜いて、気が済むまでとことん苛め抜いてほしい。狩屋から与えられる刺激になら何でも感じてしまいそうだ。痛すぎるのは苦手だけど、粗相をしたことを罵りながらお尻を叩かれるのはいいかもしれない。ああ、ナカに玩具を挿れた状態で叩かれたらもっと気持ちいいだろうなぁ。

 ……そんな風に自らの末路を妄想している内に、長く感じた放尿がようやく終わりを告げた。

 まるで清めるかのようにぺろぺろと先端を舐めてくる狩屋にきゅうっと胸が苦しくなって、自分からもちんこを押し付けてしまった。ぬるりとした熱が敏感な先っぽに当たってすごく気持ちい──……。

「っ!!?ごっ、ごめん狩屋……っ!!」
「ちょっ、声おっきいってば!」

 ちゅぱ、とちんこから唇を離した狩屋が、大きな手で僕の口を塞ぐ。丁度映画の音が大きかったのと最後列だったこともあって、幸いにも前の方まで聞こえなかったようだ。二人してほっと肩を撫で下ろす。

 狩屋の手がどけられるのと同時に、僕はいそいそとちんこをしまって頭をばっと下げた。

「……本当に、ごめん。こんな……汚いことを、させてしまって」
「あー……、そんな顔しないでよ。寧ろ勝手に飲んじゃってごめんね?」

 俯く僕を下から覗き込むように見上げてくる狩屋からは、軽蔑も呆れの色も感じられない。

「それに、生理現象は仕方ないでしょ。……ま、次からはちゃんと危なくなる前にトイレ行っときなよ?」
「う、うん……」

 僕の恋人は、どれだけ僕に甘いんだ。

 ……だけど、嬉しくて胸が高まる反面、物足りないと思ってしまう自分がいる。
 もっと馬鹿にしてくれてもよかったのに、自分から腰を押し付けるような淫乱だと嘲笑してくれてもよかったのに、おしっこを漏らしながら感じている変態だと冷めた目で見てくれてもよかったのに。


 ……ああ、本当に、末期だ。
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