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策略トリップ★四面楚歌
9:書架の隙間から
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今度こそハッピーエンドを迎えた物語から強制的に排出された瑠璃川と成海は、前と同じく図書館の床で目を覚ました。
むくりと上体を起こしながらお互いの顔を見やる。
「……発情しきった顔してんね、紫苑ちゃん?」
「それは……、お互い様だろう、理玖」
服はきちんと着たままで、バイブが近くに落ちているわけでもないが、二人の身体は完全に火照りきり、出来上がってしまっていた。今すぐ睦み合いたい衝動を、残った理性を総動員してなんとか抑えつける。
「まだ暗くなってないけど……、食べちゃってイイ?」
「……ああ、部屋までちゃんと我慢出来たらな」
「フフ、紫苑ちゃんの方が我慢出来ないって顔してるけどね」
「っ、……ひ、否定は、出来ないが……、あまりはっきり言うな、ばか」
もじもじと照れる瑠璃川が可愛くて、思わずその林檎のような頬に唇を寄せてしまう。ちょん、とリップ音を立てずに触れた成海は、ギラギラと輝く欲を瞳に湛え、愛しい恋人の手を取った。
「イこっか、紫苑ちゃん」
「……うぅ、この状態でいきなりキスするのは、反則だぞ……!」
傍に落ちていた本……白い本から姿を変えたそれを戻すことは忘れずに、瑠璃川は成海に寄り添って閉館の音楽が流れ始めた図書館を後にした。
「──……ええぇ……。瑠璃川先輩が、あんな男と……?」
蜘蛛のように静かに潜む青色の後輩に、気付くことなく。
*****
「先輩……。瑠璃川先輩、どうしてあんな意地悪そうな男と……。先輩のことを高校時代からずっと慕っているのはボクで、先輩の隣に並ぶべきなのもボクなのに……。はじめ先輩もそう思いますよね!?」
「そこで話を振られてもな……。紫苑が選んだんだから、お前が今更どうこう言っても変わらないだろう?」
「辛辣……! ……そうですけど、そうなんですけど、たかだか一年入学が違っただけで、あんなポッと出の間男に……っ!」
「どちらかといえば間男はお前だな、朝陽」
「先輩~……、正論やめてください……ぐさぐさ刺さります……」
「二人の仲を邪魔するような野暮なことはしないようにな」
「うぅ……」
告白する前に玉砕してしまった神宮寺朝陽は、しょぼしょぼと項垂れてベッドにぼすんとダイブした。自分のベッドではなく、二つ歳上の同室者……郷秋はじめのベッドである。
「こら、枕を濡らそうとするな」
「いいじゃないですか。ボクは失恋して傷心中なんです。甘やかしてください」
完全にむすくれている神宮寺は、じわりと溢れた涙を枕に擦り付けた。
瑠璃川が幸せならそれでいい、などというお綺麗な気分にはなれない。奪ってやりたい、手に入れたい、キスしたい、抱きたい……、そんな直情的な想いばかりが溢れてしまう。
「っ、わ!?は、はじめ先輩?」
そんな中、うつ伏せになっていた神宮寺に覆い被さるように、郷秋が身を寄せてきた。身長は神宮寺よりも小さいが、重みは男のそれである。
「ちょっ……、何してるんですか」
「いや、甘やかしてやろうかと」
「はい?」
どこまでも真面目な彼は、先程の冗談を本気に取ってきたらしい。体重をかけないよう気をつけつつ密着し、神宮寺の青髪をさらさらと撫でていく。
「せ、せんぱ……っ、こんなこと、しなくていいですから」
「朝陽。お前の頑張りはよく知っている。溜め込まずに吐き出すといい」
「う……」
上からすっぽりと覆われ、耳元で優しく囁かれ、絶妙な力加減でよしよしと頭を撫でられ、悲しみに包まれていた心がほろほろと溶けていく。
「(はじめ先輩、こんな面倒な後輩にも優しいし距離バグりすぎでしょ……。ボクじゃなかったら勘違いしちゃうよ、これ)」
トクトクと速くなっていく単純な鼓動を誤魔化すように、枕に顔を埋める。
涙はもう、出なかった。
むくりと上体を起こしながらお互いの顔を見やる。
「……発情しきった顔してんね、紫苑ちゃん?」
「それは……、お互い様だろう、理玖」
服はきちんと着たままで、バイブが近くに落ちているわけでもないが、二人の身体は完全に火照りきり、出来上がってしまっていた。今すぐ睦み合いたい衝動を、残った理性を総動員してなんとか抑えつける。
「まだ暗くなってないけど……、食べちゃってイイ?」
「……ああ、部屋までちゃんと我慢出来たらな」
「フフ、紫苑ちゃんの方が我慢出来ないって顔してるけどね」
「っ、……ひ、否定は、出来ないが……、あまりはっきり言うな、ばか」
もじもじと照れる瑠璃川が可愛くて、思わずその林檎のような頬に唇を寄せてしまう。ちょん、とリップ音を立てずに触れた成海は、ギラギラと輝く欲を瞳に湛え、愛しい恋人の手を取った。
「イこっか、紫苑ちゃん」
「……うぅ、この状態でいきなりキスするのは、反則だぞ……!」
傍に落ちていた本……白い本から姿を変えたそれを戻すことは忘れずに、瑠璃川は成海に寄り添って閉館の音楽が流れ始めた図書館を後にした。
「──……ええぇ……。瑠璃川先輩が、あんな男と……?」
蜘蛛のように静かに潜む青色の後輩に、気付くことなく。
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「先輩……。瑠璃川先輩、どうしてあんな意地悪そうな男と……。先輩のことを高校時代からずっと慕っているのはボクで、先輩の隣に並ぶべきなのもボクなのに……。はじめ先輩もそう思いますよね!?」
「そこで話を振られてもな……。紫苑が選んだんだから、お前が今更どうこう言っても変わらないだろう?」
「辛辣……! ……そうですけど、そうなんですけど、たかだか一年入学が違っただけで、あんなポッと出の間男に……っ!」
「どちらかといえば間男はお前だな、朝陽」
「先輩~……、正論やめてください……ぐさぐさ刺さります……」
「二人の仲を邪魔するような野暮なことはしないようにな」
「うぅ……」
告白する前に玉砕してしまった神宮寺朝陽は、しょぼしょぼと項垂れてベッドにぼすんとダイブした。自分のベッドではなく、二つ歳上の同室者……郷秋はじめのベッドである。
「こら、枕を濡らそうとするな」
「いいじゃないですか。ボクは失恋して傷心中なんです。甘やかしてください」
完全にむすくれている神宮寺は、じわりと溢れた涙を枕に擦り付けた。
瑠璃川が幸せならそれでいい、などというお綺麗な気分にはなれない。奪ってやりたい、手に入れたい、キスしたい、抱きたい……、そんな直情的な想いばかりが溢れてしまう。
「っ、わ!?は、はじめ先輩?」
そんな中、うつ伏せになっていた神宮寺に覆い被さるように、郷秋が身を寄せてきた。身長は神宮寺よりも小さいが、重みは男のそれである。
「ちょっ……、何してるんですか」
「いや、甘やかしてやろうかと」
「はい?」
どこまでも真面目な彼は、先程の冗談を本気に取ってきたらしい。体重をかけないよう気をつけつつ密着し、神宮寺の青髪をさらさらと撫でていく。
「せ、せんぱ……っ、こんなこと、しなくていいですから」
「朝陽。お前の頑張りはよく知っている。溜め込まずに吐き出すといい」
「う……」
上からすっぽりと覆われ、耳元で優しく囁かれ、絶妙な力加減でよしよしと頭を撫でられ、悲しみに包まれていた心がほろほろと溶けていく。
「(はじめ先輩、こんな面倒な後輩にも優しいし距離バグりすぎでしょ……。ボクじゃなかったら勘違いしちゃうよ、これ)」
トクトクと速くなっていく単純な鼓動を誤魔化すように、枕に顔を埋める。
涙はもう、出なかった。
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