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しおりを挟むドーン!!!
始まりの合図の狼煙が学園の真上に上がる。
同時に大歓声が辺りを包み、いよいよ大会の始まりだ。
俺の予選会場は第三鍛錬場。
アルは第二、リースは第一鍛錬場のようだ。
まだ何も始まっていないからか、全く緊張はない。
むしろ楽しみな方が強い。
周りはお祭り騒ぎだし、俺も何か食べたいなあなんて悠長に考える余裕もある。
「随分落ち着いているな」
「なんか全然緊張してないです」
「今日は予選だからな、まだ大丈夫だろう」
「王子は去年緊張しました……って、してないですよね多分」
「……そうだな」
さらっと優勝しちゃった奴に緊張云々を尋ねるのがそもそもの間違いだった。
前にも全く同じ事考えたのに俺はバカか。
「ところで今日は何するんですか?王子暇ですよね?」
「暇……まあそうだが、俺は色々と試合を見て回ろうと思ってる。挨拶にも行かないといけないしな」
前年度優勝者としてもそうだが、学園の代表としての挨拶等色々とあるらしい。
偉い人は偉い人で仕事がたくさんあって大変だな。
「そういえばお父様もいらっしゃるんでしたっけ?ってうちの父さんも来るって言ってましたそういえば」
「代表に選ばれたと聞いてかなり喜んでたみたいだな」
「鳩がすごかったです」
一体何通手紙を出したんだというくらいに鳩の群れがやってきていた。
その中には弟と妹からのもあり、どうやら親子勢揃いでやってくるらしい。
父はともかく弟と妹に会うのは久しぶりだから嬉しい。
「一旦別れるが、エルの試合に間に合うように行くからな」
「別に来なくても良いんですよ?」
「俺が見たいんだ」
「……まあ、頑張ります」
「ああ、頑張れ」
グッと握りしめた拳をぶつけ合いダリアと別れる。
鍛錬場には既に大勢の人が集まっていた。
大会に出る人はもちろん、その家族親戚友人達がこぞって応援に来ているのだ。
屋台の食べ物を食べていたり飲み物を飲んでいたり、はたまた名前入りのうちわやタオルなんかを持ってる人もいる。
アイドルのコンサートかよ。
(さて、俺も向こうに行きますか)
予選参加者の集まる場所へと向かう途中で声を掛けられた。
「エル、来たぞ!」
「父さん」
「兄さーん!」
「久しぶりー!」
「エヴァ、エスト」
手を挙げる父の影から双子が飛び出してきて揃って抱き着いてくる。
五歳違う双子は今11歳。
俺と同じ真っ黒な髪に緑色の瞳、エヴァの方が姉で肩までの髪をハーフアップで纏めており、弟のエストは俺よりも髪が短いので表情が良くわかる。
この二人は前の『エル』の時からすごく懐いてくれていた。
二人にはちゃんとした『お兄ちゃん』してたからな。
「久しぶり、良い子にしてたか?」
「してたわ!」
「今日はしっかり応援するからね!絶対絶対本戦までいってね!」
「ははっ、ありがと。頑張るからな!」
ぎゅぎゅっと抱き着いたままの双子を抱き締め返す。
あー久しぶりだなこの感じ。
「ねえねえ兄さん、その竜がユーン?」
「ん?ああ、そうそう、ユーン、挨拶して」
キューイ!キュイキュイ!
俺の頭の上にいたユーンを見てエストが目を輝かせる。
エヴァも興味津々だ。
手紙でユーンの事は伝えてあったのですぐにわかったのだろう。
挨拶を、と言うとユーンはそのままの体勢で翼を広げて鳴いた。
見ました奥さん!この可愛い挨拶!
双子も一瞬でユーンの虜ですよ、ふふふ。
「可愛いー!」
「本当に真っ赤なんだね」
「触っても良い?」
エヴァがユーンに聞くとこくこくと頷く気配がする。
だが頭の上にいたままでは撫でにくいからと、ユーンは自らエヴァの前に降りた。
飛ぶのも大分安定してきたから、その場でのホバリングくらいは朝飯前だ。
成長したなとしみじみ感じる。
「うわあ、ひんやりしてるのね」
「ほんとだ、色と真逆。気持ち良いー!」
「エル、試合の最中この子はどうするつもりなんだ?」
「その辺で待っててもらおうかなと思ってた」
「え!?一人で置いておくの!?」
「じゃあ俺達が見てる!」
一人と言っても竜だから大丈夫なんだけどな。
でも双子にこんな顔で見上げられては敵わない。
「ユーン、三人と一緒にいるか?」
キュー!
一応聞いてみると元気に返事をされた。
そうかそうか、一緒にいたいのなら止められないな。
「じゃあしっかり面倒見ろよ?」
「「はーい!」」
良いお返事だ。
「じゃあよろしくな」
「ご飯あげても良い?」
「少しならな」
「火吹かせても良い?」
「父さんが結界張ってくれれば良いよ」
「父さんよろしく!」
「え、ええー……良いのかなそれ」
「今日はあちこちで魔法ばっかだからちょっとなら大丈夫」
だと思う。
多分。
ユーンの火よりも更に凄い魔法があちこちでバンバン使われるんだからちょっとくらい平気だろう。
父がしっかりと結界を張ってくれれば全く問題ない。
「おっと、時間だ。じゃあ行ってきます」
「ああ、ちゃんと見てるからな」
「兄さん頑張って!」
「いっぱいいっぱい応援してるからね!」
「ありがとう」
三人と別れいよいよ予選の始まりだ。
当然だが一度負ければその場で終了。
予選はそれぞれ二回ずつ勝負をして、二勝すれば当然本戦へと進める。
一度負けても次に勝てば三回目の試合が出来、そこで勝てば本戦、負ければ敗退。
一度負ければそれで終了、という風にしてしまえば簡単なのだろうが、より公平に本戦出場者を決める為にそんな方式になったらしい。
最初の一回目で勝つか負けるかで二度目の試合の重要度が変わってくる。
勝敗の決定は場外に出るか、一方が参ったと言うまで。
(せっかく魔力の調節も上手くなったんだから、どうせなら本戦に行きたいよな)
どうせなら、なんて予防線を張っているが実際は本戦に進みたくて堪らない。
自分の実力がどの程度なのかを測りたい。
握った拳に力を込め、いざ戦いの舞台へと立った。
「次はダニエラ・ドール対エル・クレイグ」
第一回戦の相手は一学年上の女の先輩だ。
女の人が相手だと少しやり難いような気がするけれど、剣術よりはマシか。
魔法のぶつけ合いだから遠慮は無用だ。
むしろ遠慮なんてしようものなら大勢の観客から大顰蹙に違いない。
正面に立ち、互いに魔法具を構える。
代表に選ばれるくらいだから強いに違いないけど、いつも練習していたダリア達が強すぎるせいもあるのだろうか、何となく勝てそうな予感がする。
伝わる魔力も当然ながらダリアの方が格段に多い。
「では、始め!」
開始の合図と共に揃って魔法を繰り出す。
俺は雷、相手は氷の魔法だ。
しめた、氷の魔法はリースが散々使っていたから躱す方法も防ぐ方法も学習済み。
ダリアやアルと戦っている所も見て、客観的な立場でも見れていたからラッキーだ。
火の魔法で溶かしてしまうのが一番楽だけど、そんな暇はない。
ちなみに雷はあっさり避けられた。
まっすぐこちらに向かってくる氷を地面に向けるようにして避け、その上を滑り相手に近付く。
前世でやっていたスケートが役に立った。
「な……っ!?」
「そーれ!」
「きゃあ!」
まさか氷の上を滑ってくるとは思わなかったのだろう。
この国は年中温かくて雪なんか降らないしましてや地面が凍る事もないからこんな遊びもしないだろうし。
驚き次の魔法に手間取っている間に彼女に円形の魔法をかけ、それを浮かせた。
しゃぼん玉をイメージしたんだけど良い感じだな。
「ちょっ、やだ、何で壊れないの!?」
中から魔法を使うが俺のしゃぼん玉は破れない。
イメージはしゃぼん玉だけど強度はがっちがちにしてあるからな。
そう簡単には壊せない。
俺は中で焦っている彼女ににこやかに手を振り、そのまましゃぼん玉を場外へと移動させる。
そして中で暴れている彼女をゆっくりと地面に下ろしてしゃぼん玉を壊す。
「勝者、エル・クレイグ!」
その瞬間、俺の勝利が確定。
辺りには歓声が鳴り響いた。
うん、我ながら好調な出だしだ。
あっさりと決まった勝利に、まずは一勝と拳を握りしめた。
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