【完結】にゃん!てステキなおんがえし!

ユリーカ

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031: ある朝の風景《侍女ケイト》②

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「もう!これじゃずっと起きられないわ!りおん君、起きて!今日はクッキー焼くの手伝ってくれる約束でしょ?」
「ん?クッキー‥?」
「そう!クッキー!今日は二人で焼き立てを一緒に食べよ?」
「あ!そうだった!起きる!」

 青年が嘘のようにがばりと目を覚ます。そして初めてケイトと目があった。青年はこてんと首をかしげるも気がついたのか輝く笑顔で挨拶した。

「あ、おはようございます。昨日からお世話になっているリオンです」
「おはようございます。私は」
「ケイトさんですね。ありすの侍女の。話は伺っています。宜しくお願いします」

 同衾どうきんから照れることなく普通に声をかけられ、リオンにぺこりと頭を下げられる。ここがアリスの寝室ということも気にしていない様だ。
 ケイトは内心反応に困った。礼儀正しく気品がある。言葉の発音も綺麗で所作が優雅。やんごとない位の出の様なのに使用人に対して妙に距離が近い。純粋で気さく、黒髪黒眼でなかなかの美青年だ。距離の近さにケイトはつい普通に挨拶しそうになり我に返る。慌てて客人に膝折礼カーテシーで応じた。

「いえ‥勿体ない‥私のことはただケイトとお呼びください」
「えっと!事情があってりおん君のことは名前で呼ばないであげてね?」
「はい?かしこまりました」
「すみません、ボクの国の風習でして。ボクの名前を呼べるのは女性では自分の婚約者だけなんです」
「私はいいと思うよ?りおん君って呼べるのは私だけなんだよね?」
「そうだね、不便だけど。ありすはそれがいいの?」
「絶対その方がいいわ!私だけって感じ好き!」

 アリスがリオンに抱きついてリオンの胸元で顔をすりすりしている。リオンも嬉しそうだ。あの猫へのラブアタックが人間に炸裂している。

「じゃあボク、着替えてくる。準備ができたらノックしてね。一緒に下に行こう」
「わかったわ」
「じゃあ後でね」

 笑顔でアリスに手を振りリオンが部屋から出ていく。やってることが自然で嫌味じゃない。それをアリスは頬を染めぼぅと見送る。だいぶメロメロなようだ。その表情があの黒猫に見せたものに似ているなとケイトはふと思った。

 猫好きなアリスが異性を好きになれるのか心配だった。猫に見せたあの過剰な愛情が異性に向かえばいいと思った。まさかそれが現実に成就するとは。

「良いご縁だったようですね。お嬢様、ご婚約おめでとうございます」
「うん‥ありがと」

 アリスはぽっと頬を染める。二人の相性も良さそうだ。感じの良さそうな相手だしこれでよかったのだろう。

「ケイトは休暇楽しんだ?」
「はい、それはもう」

 アリスの着替えを手伝いつつ自分の休暇の様子をアリスの伝える。アリスから不在の間の話を聞きたいと思っていたところでケイトはふと五日前のことを思い出した。

「そういえばあの黒猫は‥?」
「あ!そうそう!すごいのよ、あの猫実はね!り‥りり‥」

 そこで笑顔で振り返ったアリスがガチンと固まった。

「りり?」
「えええ、えーっと、えーっと‥‥りりりおん君の猫だったんだ!」
「あぁなるほど!それは素晴らしい偶然ですね」

 二人の馴れ初めがよくわからなかったが、ケイトはそこでやっと納得する。猫の飼い主があの青年。アリスがその猫を保護した。猫が二人を結びつけたわけだ。出会いのきっかけとしては十分だろう。旦那様に馴れ初めを語っていないのはきっかけが隠れて飼っていた猫だったから。

「それでは猫は今ど」
「けけ今朝!そそそ外に出たがってたから出したわ!だだだだ大丈夫よ!」

 アリスがひゃんと飛び上がってどもりながら説明する。なぜか慌てるアリスにケイトははて?と首をかしげた。何が大丈夫?そんなに慌てる話だっただろうか?

「それと!黒猫のことはパパに言わないで!隠れて飼ってたってバレたら」
「かしこまりました。でももう旦那様もお怒りにならないのでは?」
「猫のことは私からパパに言うからもうちょっと待って!ね!」

 アリスの懇願にケイトは頷いてみせた。慶事の中のささやかな隠し事。この程度大したことない。アリスの着替えが終わり隣室の扉をノックすれば着替えたリオンが現れた。見たことのない服。お客様は外国の方だろうか?
 手を取りあって廊下を歩く。その後をケイトがついていくが会話が丸聞こえだ。

「昨日一人でクッキー食べちゃってごめんね」
「ううん、りおん君に食べて欲しかったからいいんだよ。食べてくれて嬉しかった。今日はいっぱい焼くから二人で食べようね」
「うん、ボクも手伝うよ」

 紳士の様にアリスをエスコートする笑顔のリオン。仲睦まじい二人にケイトが笑みを漏らした。

 クッキーも馴れ初め?なんとも可愛らしい。お客様もクッキーが好き。あの猫は飼い主に似たということだろうか。
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