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032: アリスの騎士①
しおりを挟むリオンとアリスの婚約が結ばれて4日後、二人は揃って馬車に乗っていた。この国の第二王子に会うためだ。
その知らせは昨日、カラバ家にもたらされた。まだ夏季休暇中のアリスと共に自宅で昼食をとっていたところ使者が手紙を持ってきた。王族の蜜蝋で封がなされている。アリスとラブラブ水入らずのところに邪魔が入りリオンは内心ムッとしていた。
「レオナード様からだわ。急にどうしたんだろう?」
「レオナード?」
「うん、この国の第二王子様。学園で仲良くしていただいているの。あ、りおん君と同じ王子様だね、そういえば」
「第二‥王子」
リオンが記憶を探る。確かギードの調査でアリスの恋人とされていた王子だ。消しているはずのしっぽが感情の起伏で毛が逆立って太くなる。
「王子と仲がいいの?」
「えっと‥学園では私、あまり‥友達いないから」
「そう‥なんだ?」
何か言い濁されたようにも感じられた。友達が少ない?それは第二王子の婚約者のいじめのせいだろうか。そしてこの王子はそれを放置して笑っているという。
手紙を読んだアリスが首を傾げる。
「どうしたのかしら。明日会いたいとあるわ」
「王子が?」
あと一週間もすれば学園が始まるだろうに。長い休暇でアリスに会えずに恋焦れたのだろうか。そんな王子とアリスを二人きりになんてできない。王子からの誘いなら断ることもできないだろう。
「ボクも一緒に行ってもいい?」
「あ、いいんじゃないかしら?是非りおん君に会わせてあげたいわ。そうお返事を書くわね」
王子に自分を会わせたい?王子か虐めてくる王子の婚約者から庇って欲しいという意味?それにしてはアリスは満面の笑顔だ。
アリスから告白されアリスは自分を好きだと聞いている。それはアリスの纏う桃色のオーラからもわかる。だがアリスの気持ちは第二王子にないにしても第二王子がどう思っているかわからない。そういう意味でも同伴した方がいいだろう。ここでアリスが誰の婚約者かはっきりさせておかなくてはならない。
そこでふと向かいに腰掛けるアリスに視線を送ったリオンは目を疑った。
「‥‥‥‥え?ありす?」
「りおん君?」
小首を傾げるアリスの頭に黒いものがひょこんと出ている。黒く尖ったそれは感情を伴ってピクピク動いていた。その愛らしい姿にリオンに激震が走った。
「え?ええええ?!なんで?!」
「え?なになに?りおん君どうしたの?ってえ?!なにこれ?!」
腰を浮かせたアリスの背後で黒いものがモゴモゴしている。ついでにピクピク動く耳にも気がついて頭に手を当てているがアリスは満面の笑みだ。
「猫耳にしっぽ?やった!私、猫になれたの?!」
「いやいやいや?ありすは人族だから!」
興奮したアリスがすっ飛んでいった先には姿見、そこに映る自分の姿に歓喜の声をあげる。
「やだ可愛い!猫耳?しっぽも?私猫になれた!りおん君とお揃い!嬉しい!」
「え?落ち着いて!ダメでしょこれじゃ!誰かに見られちゃう!」
「猫耳!私可愛い?りおん君?」
「か、かかかかかわいいけど!めちゃくちゃ可愛いけど今はダメ!」
黄色い声できゃあきゃあ騒ぐアリスを必死で宥め、リオンが耳としっぽを消す要領でアリスに魔力を流してみれば耳としっぽは消すことができた。二人きりの時でよかったとリオンは安堵の息を吐いたがアリスは不満げだ。
「せっかくの可愛い耳としっぽだったのに」
「夜になったら出してあげるから」
「ホントよ?夜はりおん君とお揃いにしようね」
ボクの魔法の暴走?ありすと繋がってるから影響がでちゃった?
原因不明だが大好きな子に自分と同じ猫耳としっぽが生えた。嬉しくないわけがない。リオンは視線を逸らしそっと頬を染めた。
そういうわけで翌日、待ち合わせに指定された公園に向かうべく二人は馬車に乗っていた。馬車の上にはギードが乗っている。出発前、ギードはいつものバルコニーで人形リオンからあらかじめついてくるように命じられていた。
『そういうわけだからお前もついて来い。最悪手が必要になるかもしれない』
『なんの手ですか?』
『ボクがタイマン中のお嬢の護衛』
「えーっと‥‥一体何をなさるおつもりですか?』
『ボクのありすがとられるかどうかの大事なタイマンだろうが!』
『そうだな、男ならツガイはコブシで守べきだ』
やはりバルコニーの下で伏せて目を閉じているドーベルマンが念話で割って入ってくる。口調は落ち着いていたが発言はなかなかに過激だ。
『当然です!差し違えてでもありすは渡しません!』
『妖精族の王族として人族の王族に負けるなよ、存分に意地を見せてこい。負けたら私が骨を拾ってやろう』
『えー、差し違えは困ります。私の首も一緒に飛びますので』
あぁまたこの展開か。なぜこの王子殿下と王弟殿下は普段温厚なのにツガイがからむとケンカっ早いのか。第二王子とはこういうもの?人族の第二王子はこうではないといいのだが。
穏健派なギードがげんなりとため息をついた。
『ケンカになりますか?相手は第二王子と伺いましたが』
『関係ない。横恋慕など邪魔なだけだ。問いただした上でキッチリありすのことを諦めさせてやる!こっちはありすと婚約したんだし!』
『その件ですが、ズバリお嬢さんに聞いてみればいいのでは?王子とどういう関係か』
ギードから正論が出たがリオンがぶすりと頬を染めて俯く。
『聞けるか。なんで王子のこと知ってるってなるだろ?』
『なりますね、ダメですか?』
『ダメだろ!こっそり嗅ぎ回ってたと思われる』
『まあ確かにこっそり嗅ぎ回ったのですが』
『先に素行調査してるとか。嫉妬深いヤな男と思われたくない』
『逆にそれだけお嬢さんに殿下のお気持ちがあるということではないでしょうか』
『ダメだといっただろ!とにかく!ありすに聞くのはダメだ!』
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