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25.

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 ロイと向かったのは、馬車で30分ほど走ったところにある植物公園だった。

 誰もいない植物公園は広かった。
 ウィンタースィートの黄色い花が茶色くなりその中央に小さな膨らみができている。カメリアの赤と芯の黄色が鮮やかに緑の葉っぱに映えている。スノードロップの白い3枚の花びらは小さな羽を広げているように見える。カレンデュラのオレンジ色、ナルキッソスの白色が風に揺れていた。

 いつの間にか冬は終わりをみせていた。刺すような寒さも柔らかな日差しに温めてられ、木々には小さな新緑の芽や花芽をつけていた。北風は東風に変わり、柔らかな花の匂いを運んでいた。

 季節が変わっていることさえ気付かないでいた自分がもったいなくて思えた。

 

 こうして連れ出してくれたのが嬉しくなる。

「もう少しすれば、ここは花一面になるよ」 

 パンジーやビオラの小さな花がかわいらしい。
 短い緑の葉っぱが申し訳なさそうに生えている花壇を見やる。もう少し暖かくなれば色とりどりの春の花がいっぱいさくのだろう。そうなれば、綺麗な景色が広がるに違いない。

「見てみたいな」
「見にこよう。また二人で」
「ロイ」

 ゆっくりと二人で探索をする。
 こうやって、穏やかな時を楽しむのは初めてかもしれなかった。

「セシリア。君とはきちんと話をしたかったんだ」

 真剣な眼差し。

 胸がチリリっと痛い。
 
 そうだ。
 今まで、ロイとはゆっくりと話す機会がなかった。
 
 帝国こっちで慣れるの必死だった。
 母が見つかり、一緒に暮らし始めてからはずっと母の事を考えていた。
 そんな時間を作ってくれたのに、きちんと感謝を伝えてもいなかったのでないだろうか?当たり前のように享受していた。

 ロイのも気づかないふりをして、の緩く穏やかな生活をズルズル引き伸ばしてきた。
 
 こんな幸せな時間を壊したくなかった。

 自分の弱さを思い知らされる。

 でも、そろそろ現実に戻る時が来たのだろう。覚悟を決める時がきたのだ。

 どんな結末になろうと受け入れるつもりでいた。

 真っ直ぐにロイを見やる。
 ロイの銀の髪が風になびき、春の日差しを受けてキラキラと輝いていた。

 幼い頃にロイに初めて会った時のことを思い出した。わたしにたくさんのプレゼントをくれる大切な天使様。
 懐かしさとなぜか虚しさが押し寄せてきた。

 震える気持ちを隠し返事を返す。

「はい。

 ロイは透き通るような紫の瞳を細めわたしを見できた。









◇◇◇◇◇
注釈

ウィンタースィート=蝋梅
カメリア=椿
スノードロップ=待雪草(雪のしずく)
カレンデュラ=キンセンカ   
ナルキッソス=水仙     のことです。
開花時期には気をつけましたが、栽培地域などは異世界と言うことで、御了承ください。

 
 
 
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