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29.

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 帝国学園の編入日。

 おじいちゃんもお父さんも朝から『大丈夫か?』しか言わなかった。
 そしてマザーに怒られていた。

「何言ってますか?この子はたった一人で学園に行っていたんですよ。あの馬鹿王子に立ち向かっていた子です。この子を馬鹿にするなら、わたしが黙っていませんが?」
「仕事があったな」
「おぉっ、わしも手紙を書かなきゃならん」

 マザーの鋭い目線からそらし、二人はそそくさと部屋に行こうとする。
 だが、わたしに

「気をつけて行っておいで」 
「楽しんで来るといい」

 と言ってくれた。
 
 なんだかんだと過保護で困る。


 学園は2年生のクラスに編入した。
 
 そこで思わぬ人に再会したのだった。
 その方もわたしを見て驚いていた。

「イザベラ様?」
「セシリア?」

 たった半年ほどとはいえ帝国学園こんなところ出会えるとは思わなかった。

 たくさんの感情があふれ返ってしまい、その場で号泣してしまった。
 イザベラ様も、「よかった~」と言いながら抱きついてきたのだった。
 クラスの皆さんはそんなわたしたちを見て、事情を知りもしないのになぜか感動し、つられ泣きまでする者もいたのだった。

 おかげなのか、休み時間にはたくさんの人が声をかけてきてくれた。


 昼食時、わたしたちは庭のカフェテラスでいた。
 イザベラ様が学園に来られなくなってからの話を聞いた。
 オブライド殿下からの精神的なダメージで部屋を出ることさえ出来なくなり、父親から帝国での療養を提案されたのだとおっしゃった。
 

 申し訳なく思い謝ると優しく手を握ってくれた。

「セシリアの所為ではありませんわ。逆にあなたを救えなかった事を悔いておりましたの」
「イザベラ様は最後までわたしの味方でした。どんなに救われたか・・・」
「でも、よかったわ。こうして会う事が出来たのですもの」 

 以前よりにこにこと笑う顔にほっとできた。

 わたしもあれからの話をした。わたしの出生や母さんのことは誤魔化した。重要なところは流石に言えなかった。

 話を聞き終えたイザベラ様は、目を大きくしたと思えば、涙ぐんだ。

「よがっだでずわ」

 ハンカチがズブズブになる程泣いてくれた。
 
 以前より感情を出す姿が生き生きして見えた。

「それで、噂になっていましたのね?」

 涙を拭いながら言ってくる。

「噂、ですか?」
「皇帝陛下が結婚に踏み切らないのは、おなさい頃に想い人に出会ったと言う噂をこちらに来て耳にしましたの。それもやっとその方が見つかったと言う噂がちらほらと。その方まさか、セシリアとは思いませんでしたわ」

 想い人?!

『君を愛している』

 その言葉が脳裏に甦り恥ずかしくなる。
 こんなに、頭の中に残っているとは。
 表情の一つ一つが思い出せてくる。

 イザベラ様はニヤニヤしていた。いつ間にか涙は消えている。

「セシリアはどう思っていますの?」
「あうっ、あのっ・・・」

 自分の気持ちがわからなかった。
 いや、無理だと思った。
 わたしなんかが、ロイド陛下の側でいてはいけない。もっとふさわしい女性がいるのではないだろうか。
 でも、彼のそばに他の女性がいるのを考えようとすると、心が締め付けられる気がした。

 でも・・・。

「わたしは・・・恐れ多くて・・・」

 その答えにイザベラ様は呆れたように見ていた。

「セシリア。あなたに必要なものがあると思いますわ」
「必要なもの?」
「自信を持つ事。正直になる事。自由になる事ですわ。あなたには味方がいるわ。みんなを信じてみて」

 イザベラ様の猫目が優しい星のように輝いた。

 
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