Where In The World

天野斜己

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本編

No,9

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あたしは定番のクリスマスソングを口ずさみながら、ひたすら筆を動かした。
 天使や聖母子のイラストを『これでもかっ!』と云うくらいに描いている。
 全ては孤児院の子供達の為に。



※ ※ ※



この世界に勿論、クリスマスなどない。
イエス・キリストが存在しないのだから当たり前だが(苦笑)。
しかし昔、この異世界に転移して来た熱心なクリスチャンの方々がいらっしゃったみたいで。降誕祭クリスマスの概念はそこそこに根付いている。けれども、キリスト教の教義云々ではなくて、『良い子でいたら、プレゼントを貰える日』として民間には定着してしまっている。
“恋人たちの日”などとしてクリスマスイブにホテルが満杯になってしまう故国よりずっと良いと思う(失笑)。


そこで、あたしは考えた。
 孤児院の子供達は、クリスマスプレゼントなど諦めてしまっている。
その孤独な子供達に何かしてあげたい、と。
 去年は財源がないから断念したけど、今回は実現させるぜ!!

 一つは『クリスマス・チャリティーオークション』を開催して、絵画を売る事。
 【レティシア】として、そこそこ名前は売れて来たので、貴族達や金満豪商達からお金をふんだく…せしめ…絵画を売買したお金でささやかで良い。孤児院の子供達に贈り物をしたいと思ったのだ。


親から子への贈り物プレゼント
普通の子供・・・・・なら、当然の権利。
それを、あたしが与えてあげたい。

 彼らに言ってあげたいのだ。



 「あなたたちには、幸せになる権利があるのですよ。」
と。



そうして、もう一つ。
あたしは、懇意にしている孤児院のバルバラ院長先生に相談した。
そうしてGoサインが出たので、アマーリア先生や他の先生達と試行錯誤しながら見本を作ってみた。
え? 何の見本かって?

クリスマスリースです。

そう、良く喫茶店や洒落たお宅の玄関などにクリスマスシーズンになると飾られていた、アレ・・です。
キリスト教圏内では『豊作祈願』『魔除け』『新年の幸福祈願』などの意味があったと記憶しているが、【収穫祭】があったばかりだから『魔除け』と『新年の幸福祈願』に特化してリースを作ろうかと思っている。神子あたしの主催で『クリスマス・バザー』を開いて子供達が作った(勿論、先生の指導付)クリスマスリースを目玉に、大々的に販売しようと目論んでいるのだ。勿論、他のハンドメイドの物も売りますよ。ただ。付加価値を付けようと企んでいる(悪代官の嘲笑)。

 【レヴィの神子・・の、クリスマスリース】
と。

ん? 良いのかって?
 使える権威は喜んで使いますとも(笑)。
それで、一つでもリースが売れてくれるのなら、安いモンです。


 勿論、孤児院はここだけではない。国中なんて言わないけど、せめて王都の七つの孤児院を巻き込んでホールでバザーを開催する予定だ。先ずはアマーリア先生達と作ったクリスマスリースの見本を七つの孤児院の先生達に配って、今回のあたしの目論見を話す。難色を示す先生達もいらっしゃたけど、熱心に口説いて説得して納得してもらった。どこの孤児院も運営には苦労してる。寄付金や孤児院出身の人間ひと達からの仕送りなどではなかなか立ち行かないのが現状だ。あたしはそんな現状を打破したいのだ。デルヴァンクール王国の首都セレスティーノの【収穫祭】では色んなバザールを見て回った事を無駄にはしない。それに来年の【創都祭】にも秘かに企んでいる事があるのだ。

フッフッフ。
 伊達にただ単に、食べて飲んでただけ訳ではないのだ☆


……収穫祭のの事を思い出して、ツキンと傷んだ胸の痛みは無視をした。




 木の実や常緑樹、ベルやリボン。
 柊モドキなどを加えて賑やかで華やかなクリスマスリースを作る。
クリスマスカラーにはこだわらない。
クリスチャンの方々だったら意味を考えて、色にもこだわるのだろうけど。
 生憎あたしは、由緒正しい純日本人だ。お正月には神社やお寺に初詣に行き、バレンタインには友チョコを贈り自分チョコを食べて。お盆にはお世話になった先生の墓参りをして。ハロウィンにパンプキンのプリンやマフィンを食べて、クリスマスにはクリスマスケーキを食べる(ハロウィンの仮装やクリスマスツリーはガン無視/笑)。大晦日には年越しそばをすすって年を越す。そんな平均的な日本人なのだ。特にコレと云う拘りはない。
 子供達は時に独創的だ。
 大人には思いもよらない発想で、色んなリースを作ってゆく。
バルバラ院長のフェデーリ孤児院で、暖炉の周りに陣取ってアレコレと楽しそうに作っている子供達を見ると、心から思う。
 売れて欲しい、と。
そうして。

この子供達に幸あれ、と。



※ ※ ※



讃美歌や楽しいクリスマスソングを歌ってた筈なのに。
 気が付けば、ワムの超有名な切ないクリスマスソングを鼻歌で唄ってた。
 絵画に没頭していた心算でも気が付けば脳裏を過るのは、【収穫祭】の後夜祭のパーティー。
 庭園の隅で二人で寝転がり、満天の星空を見上げて星座や神話の話をした時の事。
そして翌日の温室での出来事。



 陛下とフレド殿下の―――真摯で真剣な声音こえだ。



 帰国してからは、陛下とはまともに話しをしていない。
 何の事はない。以前と変わらない日々に戻っただけだ。
 相変わらず側室さん達の下には通ってる、らしい。

あの花火とおんなじだ。


 淡い。

 淡過ぎる、切ない幻想イリュージョン


まるで。




あたしの、陛下への未練が見せる―――淡雪のような幻想イリュージョン





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