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ラストノート

Grand Finale

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それから、幾年いくとせも過ぎた。




アタシのブログ【強引g 真唯道ゴーイング・マイウェイ】を個人的に出版して下さった、誰よりもアタシの気持ちを理解してくれてる最愛の旦那さまにアタシは出版許可のGoサインを出した。

ここまでされてしまっては、グズグズ言ってる方が余程みっともないだろうから。



 「そんな心算ではなかったんです!」
 恐縮しきりの貴志さんと。

 「そーくると思ってたんだよ。」
ニマニマしてる岩屋さんは、正に正反対だった。


 【岩ちゃん】さんの面目躍如と言ったところだろう。




それに激怒した貴志さんは、即刻、退任を表明した。
 「元々、真唯さんの本を出版する為に、引き受けた社長業だったんです。
 貴女の為だけに。」
と。
 何の未練も残さずに。

 退職する。
その心算だった、らしい。
 後任も指名してたし、後進も育てていたから。

けれど、全社員から大顰蹙ブーイングを喰らったのだ。
そして、かつてアタシに出版の勧誘をしてた岩屋さんは、今度は貴志さんの慰留の説得の為に日参する事となった。貴志さんにではなく、アタシにだ。
 「頼む! 真唯さんの言う事しか聞かない奴なんだ!! この通りだっ!!!」
 土下座せんばかりの勢いだったのだが、実際やられた時にはひたすらオロオロするばかりだった。その後も岩屋さんは諦めずに通い続け、山中さんを始めとする色んな社員さんたちも連日入れ代わり立ち代わり訪れるようになったのには、ホントに参った。そして、いかに貴志さんが会社にとって必要であるか、切々と訴えられたのである。ここまできてようやく、アタシは貴志さんを説得する気になったのだ。そしたら、アタシに甘い旦那さまはコロリと機嫌を直されて、続投を決意されたのだった。これには「アイ’s_Books」の全社員から、畏怖の目で見られるようになってしまい。『愛妻家』と云う別名と共に、『恐妻家』などと云う有り難くもない称号を貴志社長が賜る事になってしまうのは、アタシにとってはかなり不名誉な余談である(笑…えない)。
やがて、出版社「アイ’s_Books」は、数々のベストセラーを世に送り出す事になるのだが。その中に「強引g 真唯道ゴーイング・マイウェイ」が堂々と入っていたのは、貴志さんに言わせれば当然の結果であったらしい(照)。そして自社ビルを建てるまでになり、六十五歳の定年まで勤め上げる事となったのであった。

 定年退職の日。
 『是非、会長就任を!』との更なる続投の要望をキッチリ断り、大きな花束を社員さんたちの代表者さんから頂いて、貴志さんは帰宅された。相変わらず格好良いアタシの自慢の旦那さまは、すっかり渋いロマンスグレーにおなりだ。戦闘服スーツは脱ぐ事になったが、定期的にジムに通って鍛えてらっしゃる身体は、四十代の肉体年齢を誇ってる。アタシの心尽くしの手料理での晩餐になった夜、シャンパンのグラスを片手におっしゃった。
 「お待たせしました。これからは、どこにでもお付き合いしますよ。」
と。
そして、アタシの念願だった、四国八十八ヶ所のお遍路さんに連れて行って下さった。現代いまではバスやタクシー、自転車チャリンコなどを使ったりする事も出来るのだが、アタシたちは勿論『歩き遍路』だ。こう云う事は自分の足で歩いてナンボなのだ。幸いな事に時間ならたっぷりある。長年の夢だった四国のお遍路さんは、『お接待』を体感出来る貴重で有り難い旅路でもあった。アタシが識ってるホテルの“歓待ホスピタリティ”とは似て非なるサーヴィスは、“お大師さま”への厚い信仰心が根底にある地元の方々の温かな心持ちを感じる、日本が世界に誇っても良い“おもてなし”の精神そのものであった。
やがて迎えた結願の日。高野山にお礼参りに参拝させて頂いた時は、大感激した。奥之院の御廟橋の手前で深々と一礼する。ここからは完全なる聖域だ。燈籠堂の裏に存在している御廟に向かい無事に結願が叶った事をお大師さまにご報告し、ご真言と般若心経を唱え、最後となるお札を納経箱にお納めし。『同行二人』で弘法大師さまとご一緒させて頂いた事を感謝申し上げた。地下法場では、お大師さまの御影に感謝の祈りを捧げた。御廟では、現在いま尚、弘法大師・空海さまが世界の平穏を願って瞑想されていらっしゃるのだ。荘厳で神聖な雰囲気アトモスフィアーを心ゆくまで味わい。御廟橋まで戻ったら、お見送りにいらして下さったお大師さまに深々と感謝の気持ちを込めて拝礼する。納経所と金剛峯寺で御朱印を授与して頂き。根本大塔では仏像群が織り成す濃密な密教空間に圧倒されて、東寺の立体曼荼羅以来の衝撃的感銘を受けた。そして相変わらずアタシの為ならお金に糸目を付けない『困ったチャン』である貴志さんは、持てるコネを使って由緒ある宿坊(一般客お断り)にも泊まらせて下さって。ついでとばかりに温泉宿を取り、熊野三社参りもさせて下さった。これまた『どこの皇族が使うのっ!?』と問いつめたくなるような豪華な旅館だったが、温泉とお料理に罪はないので堪能させて頂いた。特にマッサージは、疲れた身体に何よりのご馳走でありました。
しかァ~し!
ゆっくりまったり疲れを癒した筈だったのに。
それから怒涛のかれの攻勢が開始されたのだった。
 「真唯さんのご希望を叶えた後は、私の希望も叶えて下さいますよね?」
と。

え?
 何をされたのかって?
 世界一周クルージングが序の口だった、とだけ申し上げておきましょう_| ̄|○

そうそう、貴志さんは、夫婦の終の棲家として一軒家を購入されました。松濤に欧州風ヨーロピアンな白亜の豪邸を建てて、内装はアタシの大好きな“新しい芸術アール・ヌーヴォー”風です。そして古美術的アンティーク家具を求めて海外を旅する生活が始まったのでございます。ここまでやられると怒るのも疲れて、呆れ果てるのを通り越して何やら笑いがこみ上げてくるから不思議なものでございます。
おまけに、とうとう河口湖畔に別荘もご購入なさったのです。勿論、絶景な富士山が見放題で、温泉付きでございます。こちらはモロ和風なインテリアです。アール・ヌーヴォーも良いけど、やっぱり日本人は畳だよねェ~~♪ おまけに『いつ枯れてくれるの!?』と問いただしたくなる程の絶倫振りで、既に“お祖母ちゃん”と呼ばれる年齢になってる身体を求めて下さいます(赤面)。そして老いを知らない必殺の低音ヴァリトン・エロ・ヴォイスで今夜も囁いて下さるのです。

 「…私の真唯さん…愛してますよ、永遠に…」
と。




※ ※ ※




「…貴志さん、今年も結婚記念日になりましたよ。
 …お誕生日、おめでとうございます。」

 河口湖畔の別荘の庭の一角。
 藤の樹が植えられてる。
ここは貴志さんの墓標だ。




享年百二歳。
 奇しくも、緋龍院のお祖父さまと同じ年齢としで、貴志さんは帰らぬ人となった。
 病気なんかじゃなくて老衰なんだから、堂々たる立派な大往生だ。無神論者だった故人の為にお葬式は無宗派で戒名もつけなかった。立派な名前があるのだ。へんてこりんな名前などつけたくはなかったから。【上井貴志】と云う仮位牌を【My 神棚】に安置して、毎朝お線香とお灯明とお花と淹れたての珈琲をお供えして。そして般若心経をあげて、かれの冥福を祈っている。今日みたいな特別な日には、お取り寄せした貴志さんの好物の鎌倉の【おざわ】の玉子焼きをお供えする(アタシと食べに行って以来、すっかりハマってしまわれたのだ/笑)。お骨は土に還る特別な骨壺に入れて、眺めの良い別荘の庭に埋葬した。藤の樹を植えたのは貴志さんの遺志であり、アタシの趣味でもある。

 昔は『貴志さんが死んだら、アタシも死ぬ』が口癖だったけど、百を超えるとそれも躊躇われるし。何より。万が一にも、自殺によって輪廻の輪から外れたくはないのだ。死ぬ事など昔から怖くなんかない。もしかしたら、貴志さんはあの世で待ちわびてるかも知れない。けれどもしも、貴志さんが生まれ変わっていたとしたら。アタシも同じ時代ときに、同じ場所ところで生まれ変わりたいのだ。




―――ねえ、貴志さん。


やっぱり、あなたには敵わない。



 貴方には、ちゃんと理解ってたんですね。

アタシが秘かに悩んでた事を。

アール・ヌーヴォーのアンティーク調の家具は大好きだけど、和風小物も大好きでどっちつかずで。結局、どちらも選ぶ事が出来なくて、中途半端になってた事を。だから『贅沢』だと、自らを戒めて我慢してた事を。

それを貴方は、最高の形で叶えて下さった。

 抗議をしても、「…これは、私の我儘なんです…どうか許して下さい、愛しい私の奥方さま…」なんて耳元で甘い低音ヴァリトンで囁かれたら、抵抗なんか出来る筈ないじゃないですか。ホントはメッチャ嬉しかったんだから。



 天之御中主神グレート・サムシング分魂わけみたまとして現世このよに産まれて。

 両親のもとで劣等感を学び。

 貴方と云う男性ひとの下で自分を信じる事と、人間ひとにとって一番大切な愛と云うものを学んだ。

かつて一度だけあった離婚の危機も、真の孤独と絶望と謙虚さを学ぶ事が出来た大切で重要な、そして必要不可欠な出来事であったと信じられる。

 【牧野秀美】として産まれて、【上井真唯】になれたアタシの生に。

 意味のない、無駄な事など何一つ起こりはしなかったのだ。

やはり全ては、アタシの為に用意された、偶然と云う名の必然だったのだ。

アタシの小さな胸に溢れる程の愛を与えて頂いたから。
この小さな両手で、その愛をこの限りなく美しく愛しい世界で分かち合いたい。


ちなみに。
 貴志さんが記憶喪失になってしまった時でさえ、『産まれる前から自分で決めて来た、乗り越えるべき試練』だと納得する事が出来たのに。牧野の両親から植え付けられた劣等感はなかなか癒える事はなかったし、肯定する事も出来なかった。理屈や理性では理解ってる。だが、感情が納得してくれないのだ。本来なら無償の愛を注いで己の絶対的な味方になってくれる筈の両親ひとたちから全存在を否定されて生きて来た事は、我ながら予想以上の精神的苦痛ダメージになっていたらしい。結局、両親を心から許し、両親かれらに感謝出来るまでになったのは、かなり後年になってからであった。その頃にはフルエタニティリングも出来上がってて、アタシと貴志さんの指を華麗に彩ってくれて随分な精神ココロの癒しや慰めになってくれた。


アタシの愛する旦那さまは、アタシの誕生日インティ・ライミには色んな物をプレゼントしてくれたけど。晩年に一番驚かされたのは、何と等身大の弁財天坐像だ。しかも、現代の大仏師が造った本格的な仏像ものだ。かなり以前から依頼していたらしいが、こう云うものは時間が掛かるのが常だ。それにあんなに美麗なお像を彫って頂いたのだから、文句なんかない。だけど、困ったのは安置場所だ。嬉しいが、こう云うものは、清浄な場所に安置したい。余程、どこかの美術館か博物館に寄託か寄贈しようかと思ったが、それも貴志さんに悪い気がして躊躇われた。
けれど、貴志さんが亡くなって、その莫大な遺産を手にして考えた。弁財天像を安置する為の御堂を建立する事にしたのだ。そうして、そのお像を旗印シンボルにして、芸術振興を目的とする財団法人を設立したのだ。勿論、そんな財団の運営がアタシに出来る筈がない。だからこんな時こそ、澤木さんの名刺を最大限に利用させて頂いた。お陰様で財団法人運営に必要な人材は勿論、協賛者や後援者が山のように現れ、僅か数年でかなりの規模にする事が出来た。澤木さんご本人も協力して下さってるのだから、これ以上頼もしい味方はいない。色んな素晴らしい外国のバレエ団やパフォーマンス集団を招聘する事も出来た。何しろ財源は潤沢なのだ。少しでも良いものを安くお客様に提供する為に、じゃんじゃん使って頂きたい。ちなみにその財団の名称は、「T&M Art promotion association」だ。貴志さんとアタシの子供のようなものだから、二人のイニシャルから取らせて頂いた。
個人的にも、色んな舞踊手ダンサー芸術家アーティストたちの支援者パトロンになった。上野で路上ライブをっていた異色の無名アンデス民族音楽フォルクローレグループを世界的に有名な演奏家アーティストにまで育て上げて、後に世界中で彼らのオリジナル曲がカヴァーされるまでになって、その中から高名な舞姫を輩出させたり。真打にまで昇進して、後に女性初の人間国宝にまで昇りつめた落語家の林家亀子さんの落語会を開催したり、その後援もしてた。真打昇進時に寄席のぼりを贈呈した事は、落語ファンの間では有名な語り草になってしまったのだった。



そして、アタシの死後。
 遺言書の通り、遺骨は夫の墓標である藤の下に散骨され。
 自宅と別荘は澤木さんとリザさんに管理をお願いしていた。
 四国のお遍路で白い着物に御朱印を授与して頂いてる方々を沢山お見掛けした。その白い着物を遺体に着せて焼いてもらうと極楽往生出来ると信じられてるからだけど、アタシはそもそも極楽を信じてないから着物は持参しなかった。沢山溜まった御朱印帳はアタシの遺体と一緒に焼いてもらう心算だったが、澤木さんに言われてしまったのだ。
 『真唯ちゃん名義の自宅と別荘は、その中にある物も含めて全部責任を持って保管させてもらうよ。だから、いつか還っておいで。リザと一緒に待ってるよ。何百年でも、何千年でも。いや、何光年でも、この地球ほしが滅びるその瞬間ときまで。』
と。
 思えば、貴志さんの遺骨を埋葬する場所を決める時も、大変お世話になってしまった。有り難い事だ。尚、アタシのブログの収益や書籍の印税を含めた莫大な遺産は、一部は財団の運営にあてられ、残りは『赤十字』を始めとする『セーブ・ザ・チルドレン』や『国境なき医師団』『あしなが育英会』などの団体に全額寄付する事にしたのだった。


やがて「T&M Art promotion association」は順調に発展してゆき、創設者所縁のお堂は無料で公開されて。優美にして流麗な弁財天坐像はいつしか【舞弁天】と呼ばれるようになり、芸事と文筆力の向上と縁結びの御利益があるとして有名になり。参拝者が途絶える事がなかったと伝えられている。




※ ※ ※




アタシは、マイ・香水かすい
 二四××年生まれのルナ在住の女子大生だ。

 人類が地球から飛び出して、もう幾世紀。
 人口が増え過ぎた地球は移民(To他惑星)を積極的に送り出した。
 我が香水家かすいけは、二十一世紀の終盤、月に生活居住区コロニーが出来たごくごく初期の頃に移ってきた古い家系だ。そこの家の一人娘として産まれたアタシは比較的自由にのびのびと育てられた。心配性だが優しい父親と、一見おっとりとしているが実はしっかり者の母親の愛情を一身に受けて。そろそろ縁談が舞い込み始めてるが、『マイちゃんの自由にしなさい』とやんわりと全部断ってくれてて感謝している。

アタシだって年頃の女の子だ。
それなりに夢だってある。
恋愛願望や結婚願望がない訳ではない。
だけど現在いまは、学校が楽しくて仕方がないのだ。
アタシは、地球テラの人文学を学んでいる。
その参考文献を探してた時に出会った「強引g 真唯道ゴーイング・マイウェイ」と云う古典に夢中なのだ。特に【神社仏閣散歩編】と【仏像編】は、アタシのバイブルだ。地球テラ現在いま、簡単に旅行出来る場所ではなくなっている。先ずパスポートの審査がかなり厳しくなってて、おまけに旅費がとんでもない金額になるのだ。現代いま立体映像ホログラフィーで何でも見られる時代だが、やはりいつかは実際にこの目で見てみたいと夢見てる。余談だけど、こんな素敵な文章を書いた女性ひとと同じ名前なのは、秘かな自慢だったりするのだ(照)。

地球テラと云えば。
勿論、 銀河連邦の地球政府はあるのだが、とある一族が実質上の支配者である事は銀河系で暮らす人類なら赤ちゃん以外、子供でも知ってる共通認識だ。そのコングロマリットの一族グループの御曹司が、予定されてる新たな宇宙空港スペース・エアポート建設の責任者としてルナにやって来ると星間ニュースでは連日話題になってるのだ。すっごいイケメンだって噂だけど、正直言うと【東寺】の【帝釈天】や【東大寺】の【広目天】の方に興味があるのって、おかしいのかな?
こんなんだから合コンに行って男の子とお話しても楽しくないのだ。

ま、いっか。

いつかはアタシだって、運命の男性ひとと出会えるに違いない。




現代いまではコンパクトなPCパソコンがあるから、本なんて読む人はまずいない。ああ、『PC』と言ったって、何世紀も昔の物の事じゃない。イヤホンやヘッドホンを装着するだけで、あらゆる情報が映像と共に脳内に流れ込んで来る装置アイテムの事だ。これさえあれば大概の用件は済んでしまうから。けれど同時に『書籍』と云うものに拘る人間ひとも一方では確かに存在する訳で。だからこそ『本屋』や『古本屋』なんて商売が成り立っているのだ。そしてアタシもその稀少な人種の中の一人なのだ。ちなみに例の「強引g 真唯道ゴーイング・マイウェイ」も古本屋で見つけたのだ。合コンに出掛けるよりも、古本屋で過ごす方がアタシにとっては余程有意義だ。
そんな訳で、週末の午後をすっかりお馴染みさんになってる古本屋で立ち読みしてるんだけど。さっき急に騒めいて、それが静かになってしばらくしてから、何かメッチャ視線感じる気がするんですけど……自意識過剰なのかな……
ま、いっか。この本を読む方が先決だ。
そうしてまた、本の世界に没頭していったのだった。

古本屋で本の世界に遊んだら、お気に入りのお店で夕飯を食べて食後の珈琲を楽しんで。その後は、バーやラウンジなどでお酒を飲むのが最近の習慣だ。「強引g 真唯道」は昔の『ブログ』と云うものでもあるから、PCで全て脳内にインプット済みだ。ちょっと前まではお気に入りの喫茶店を開拓するのがマイブームだったのだが、今年お酒が解禁の年齢としになってからは色んなお店に入って様々なお酒にチャレンジしてるのだ。まだお子ちゃま味覚だから、甘いワインやカクテルが好きだけど。【上井真唯】さんに倣って、いつかはお気に入りのバーやカクテルを見つけたいと思ってる。
今夜入ってみたお店は、ちょっとレトロでクラシカルな外観に惹かれたのだ。内装も、その昔、人類が当たり前のように地球テラに住んでた時代のそのままで、ちょっとした時代逆行タイムスリップ気分を味わえた。シックでちょっぴり“大人”な感じがしてすごく良い雰囲気ムードだ。何にしようかとメニューを真剣に吟味してたら。



コトリ



眼の前にカクテルが置かれた。
『…へ…?』
お間抜けな声を出さなかったアタシを、誰か褒めて欲しい。
そのカクテルを作ったのだろう、カウンターの中のバーテンダーさんを見やれば。



 「あちらのお客様からです。」
どこかの小説かドラマの中のような台詞。

 (…ナンパの手段ってのは、いつの時代も変わらないんだなァ…)
なんて、明後日な感想は、相手の男性ひとの姿を見た瞬間、凍結フリーズした。
バーの止まり木のアタシのスツールから二つほど向こうの席。

三十代前半くらいの彫りの深い、整った東洋人イースタンばなれした容貌。
都市伝説レベルで噂されてる地球テラの英国紳士のような貴族的ノーブルな雰囲気の男性ひと
アタシのような小娘から見ても、最高級品と理解るような三つ揃えのスーツ。
静かに微笑むその姿は、女性なら十人中十人が『素敵♡♡♡』と叫びそうだ。
だけど、アタシの眼を奪ったのは、そんな姿ものじゃない。



彼のだ。



薄暗い照明の中でもハッキリと判明わかる。
アタシを惹きつけ魅了する、その焦がれるような熱をたたえた妖しく光る瞳だ。







 「一人で楽しんでいるところを失礼、お嬢さん。
 一杯、おごらせて頂けませんか?」







 運命の舞台の幕が上がり、宿世の輪が回り始め。

 そうして今再び、始まるのだ。



予期せぬ出来事IMprevu】の連続である偶然を装う、必然と云う名の―――宿命の恋が。










FIN


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