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第捌章:愛を交わす花

04:容花(かおばな)を刻む

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「よーし、それならもっと喰わせてやろうな」

「え?」


突き刺さったまま腰を抱かれ、ぐるんと回転した炉伯の胸の上に頬がぶつかる。
仰向けの炉伯のうえにうつ伏せでまたがった状態だが、腰を抱く力を緩めてくれないその体位にイヤな予感がしてくる。


「ャ゛ぁッ……待っ…ィッ」

「散々待った。胡涅の言い分は聞かない」

「しゅ……ぜ…ンッ…ぅ」

「胡涅、そんなにしめるな。せっかく奥まで注いだものを無駄にする気か?」


お尻の穴に入ってくる朱禅を拒もうと力を込めれば、炉伯に怒られてどうしようもない。
そもそも力がうまく入らない状態で、どう拒めばいいのか。簡単に埋まろうとしてくる朱禅の圧力に、萎えかけた炉伯も復活し始めたらしい。


「……ッ…ァっあ…ァっ…ォ゛ぉ」


苦しさが膨らんで、擦りあわせるように埋まってくる。
ひとりでも圧迫感で星が飛ぶのに、ふたりそろって来るようでは身が持たないと、警戒した本能が拒絶を吐き出す。


「む…り゛ィ゛…ゃだァっぁ」

「無理じゃねぇよ」

「何度も慣らしてきただろう?」


腰を押さえて合致する。
たしかに無理ではなかったが、しばらく動かないでほしいとポロポロこぼれる涙と共に訴えるしかない。


「ぐるじ…ォ゛ッ…ぁ……あぁ」


朱禅に慈悲はないのか。お尻を割り広げる大きな手が、飲み込まれた自身を凝視してからバチンと手形を刻んでくる。


「ィッだ、ぃ……叩いちゃ…ャッ、あ」


病弱を言い訳に、甘やかされ、世間知らずの箱に閉じ込められてきた生涯で、誰かに叩かれたことはない。
皮膚に残る熱も痺れも痛みも知らないで生きてきた。


「ほぅ」


面白いオモチャを見つけたと言わんばかりに、朱禅が叩く手を止めて、赤く色づく臀部を揉んでくる。熱を馴染ませ、叩いた肉を柔らかくするつもりか。
おそらくは、結合部を濡らす蜜の量と締め付けに感嘆と悦びの息を吐いているのか。


「痛みも快楽と結びつけるとは、貪欲だな、胡涅は」

「朱禅、胡涅を早々に果てさせてどうする。微弱に痙攣を続けながら、きつく吸いついてくる」

「我はまだ動いてないぞ?」

「胡涅は、俺たちの与えるものは、何でもうまそうに喰うからな」

「そんなに急いで喰うのもよくない。ゆっくり味わえ」

「………っぐィッ…って、りゅ…やめ゛ッて」


お尻の穴は、元からそういう風に出来ている。ゆっくり引き抜かれる快感は、地獄のように長く、天国のように浮遊する。
対して下から埋まる炉伯の腰は、重力に従って、奥までずっと侵入してくる。


「ンッん……ぁ゛あァッ……ぅ」


目を閉じて絶頂をやり過ごす。けれど、目を開けてもそこには肌色しか存在せず、終わりのない揺らぎが続くだけ。
発狂するほど気持ちよくて、脳まで甘く溶けていく。終わりのない律動は延々と繰り返され、胡涅はにじみ出す汗に髪をまとわりつかせて悶えていた。


「ンッむ…ぅ゛……ぁィ゛ッ」


顔を掴まれて炉伯とキスをする。いや、炉伯に無理やり舌を食べられる。
食いしばっていた歯がこじ開けられて、同時に絶頂が訪れる。


「んィッ、くぃぃグッぅァ、イくゥ」


炉伯が舌を食べたせいで、開くことを覚えた唇が、のどが、絶頂を盛大に叫んでわめき散らす。
二つの穴が交互にこすれあって、終わりのない快楽が打ち付けられる。


「イくッ…ぎもぢぃ…ィッ、止まらなィ゛っ、あァ…ぁ゛…アァア」


背中に胸板を押し付けるくらい身体を折って、腰を打ち付けてくる朱禅の激しさに星が飛ぶ。


「もっと…ッ…ぁ゛、朱禅…しゅ、ぜンッ…もっと」

「胡涅、いくぞ」

「ンッ、ぅん、ちょ…だィ゛…ァッ…朱禅ッ…しゅ、イくッいくっぃくぁ゛ァ」


全身を震わせながら朱禅の熱を受け入れる。
はぁはぁと脱力した息を後方の朱禅に向けて、唾液をむさぼりあう。ぐちゅぐちゅと混ざる音を聞いて、腸が火傷を思うほど熱い精液に痙攣して、胡涅は止まりそうになる心臓を必死でなだめ続ける。


「胡涅、来い」

「………ッ、んァ゛」


朱禅が全部引き抜くのを待たずに、炉伯が身体を起こしてそのまま押し倒してくる。
炉伯も限界なのだろう。
遠慮も容赦もなく押し潰してくる行為に配慮はいらない。


「炉伯…ぅ゛…ろ、はぐッ……ァ、ぎもちぃィッ」

「そうか、ならよかった」

「もっと…ッ…もっと、ほ、しィッぁ゛」


終わりが見えてくると名残惜しくなる。
この温もりのなかで愛される幸せが、永遠に続いてほしくなる。
やめないでほしい。もっとほしい。その気持ちが溢れて、全身で炉伯にしがみついた瞬間、熱さが弾けて炉伯を一緒に連れていきたくなる。
炉伯も同じ気持ちだったらしい。


「胡涅」


そう名前を呼んで口づけを交わしながら、ふたり、いや三人同時にシーツの海に沈んでいった。


「はぁ…ッ…はぁ……っンッ…ぁ」


全力疾走どころではない。
身体がまだ終わりを認識せずに、びくりびくりと打ち上げられた魚のように跳ねている。
倦怠感と浮遊感と脱力感となにとも言えない達成感が、乱れながら襲ってくる。


「……ッ待っ…」


炉伯が抜けるときの引っ掛かりを感じて手を伸ばせば、それは朱禅に受け止められて指先をかじられた。


「胡涅、おはよう」


股を開いて、両手を広げて、胸だけを上下に動かし、ときどき襲ってくる痙攣をやり過ごして小さく震えることしかできない胡涅は、指先から首筋、耳元へと這い上がってきた朱禅の挨拶に「ん」とだけ答える。
大きな手は触れ足りないといわんばかりに頬をなで、髪をなで、自然とこぼれた目尻の涙を吸いとって、唇にキスを送ってくるが、正直、それに答える余力はない。


「胡涅、もういいのか?」


朱禅から施されるキスの嵐の隙間から炉伯を見る。


「腹は膨れたか?」

「……ぁ゛ッ……」


確認するだけなら下腹部から割れ目に手を滑らせないでほしい。


「まだ尖ってるな」

「誘う蜜に濡れて愛らしい」

「しごいてやろう」

「胡涅、ほら炉伯の愛撫の間は我に口を寄越せ」

「こら、胡涅。せっかく喰わせたのを吐き出そうとするな」


散々な言い分で、主張する肉芽を指でもてあそばれる。
やめてほしい。敏感を極めた身体に、太い指の腹で撫でられ、摘まれ、しごかれて、浮いた腰が注がれた精液たちを垂れ流していく。


「胡涅が高みから降りてこない」

「注ぎすぎたようだ」

「少食すぎるだろう。生まれたばかりだ、栄養はきちんと摂らせたほうがいい」

「つってもなぁ。今は時間が限られている」


ムッとした朱禅が胡涅の舌から唇を離すと、困ったような炉伯の声に反応してそこに目を向けた。


「あふれているな。また注ぎ足さねば」

「ま、面倒ごとを片付ければ時間はできる。あとは、長い時間をかけて喰わせばいい。おーい、胡涅。寝るなよ」

「指で弾くだけで果てるか」


何をしても面白いほどに反応するしかない胡涅の目には、そろって股の間を覗き込む二人の背中しか見えない。
叩いても、押しても、どいてくれない二人の背中や腕には、いつか見た朝顔のような花が咲き乱れている。


「花はどこに刻ませる?」

「我に問うか?」


そんなものは決まっていると、朱禅と炉伯はそろって顔を向けてきた。


「……ッ…ぅ?」


それぞれに手首を掴まれて誘導される。何が起こるのか、力の入らない体では従うほかない。開いた手のひらが自分の下腹部の上に、二人の手と一緒に重なり落ちていく。


「胡涅はまだ力の扱いがわからないだろう」

「俺たちが手伝ってやるよ」


力の扱い方は元より、何を手伝うのかと、やけに楽しそうな二人の瞳と目があった瞬間、胡涅は舌を出してのけぞっていた。
言うなら、電流が駆け抜けるような強制的な絶頂に、身体だけが心をおいて反応した結果。


「これでいい」

「ああ、キレイについた」


愛しそうに下腹部を撫で回す二人の手が、異様なほどに熱くて痺れる。
何をしたのかと確認しても、おそらく、表立って見えないものだろう。
それでもわかる。
電熱に痺れる手のひらが触れていた場所を思えば、ひとつしかない。


「やはり子宮に刻んで正解のようだ」

「ああ、胡涅も喜んでいる」

「胡涅も見るか、まだ目が慣れないから見えねぇかも知れねぇけど」

「ここに我らが馴染むごとに花が咲く」


赤と青の蔦が絡む模様だと嬉しそうに教えてくれるが、彼らの身体に刻まれたものを思えば、自然と身体が震えていく。
同じ花が咲くまで、栄養を口実に、甘い蜜を注ぎ続けるに違いない。


「愛交花を刻むは唯一無二の証」

「一度刻めば二度と消せぬ」

「夜叉の愛は深く重い」

「これで胡涅は我らのつがい」

「俺たち以外に刻まれるなよ。ほら、胡涅。もののついでだ、刻んだ場所で喰うことを覚えろ」


ようやく同じ存在になれるのだと、再び左右を陣取って寝転ぶ二人に、何を言えばいいのだろう。それに答える声はなくても、結局、二人のペースに巻き込まれて花を咲かせることは目に見えてわかっている。
競って愛を囁き、全身くまなく自分たちの匂いに塗りかえると決めた赤と青の瞳が、熱をこめて胡涅の肌に唇を押し付けている。刻んだ花に十分な栄養がいきわたるまで、白濁の液を注ぐために。
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