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第六章 華麗なる暗躍者
第九十七話 仲直りの時間
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「お見事」
これはどことなく嬉しそうなスヲンの声。
「ロイの顔、ぶん殴れるのはアヤくらいだな」
これは、感心しているランディの声。
「どうしてロイは、そんなに無防備なの!?」
これは叫ぶアヤの声。そして、その内容に全員が目を点にしてアヤを凝視していた。
いうなれば無防備の代表選手に、無防備認定される驚きだろうか。
「ボク、無防備なんて生まれて初めて言われた」
呆然と頬を押さえて目を丸くするロイの姿はレアかもしれない。それでもいまは、それにかまっている場合ではない。
「ロイ。勝手に全部ひとりでどうにかしようとしないで」
アヤは憤慨の態度でその瞳に対抗する。
「ハートン家の運命に巻き込まれたってかまわないから、私を守ってくれなくていいから、秘密にしないで」
「今はスヲンとランディがいるから、ひとりで突っ走ったりはしないよ?」
「してるもん。もっと早く教えてくれていたら、私にだってできることいっぱいあったかもしれないのに、あんな形じゃない、別の方法だって出来たかもしれないのに」
実際問題、そんな力はどこにもなかったと知っている。
メリルの存在に嫉妬して、モヤモヤした気持ちと付き合うことしかできなかった。
「私がロイの運命なら、ロイだって私の運命でしょ」
まばたきを忘れるほど睨み付ければ少しは気持ちが伝わるだろうか。口をついて溢れてくる言いたくて言えなかった言葉。
「どんな理由があっても、もう二度と私以外の人に触らせないで」
少しは響いただろうか。
届いただろうか。
「うん、約束するよ」
抱きしめてくれるロイのぬくもりに、耳にかすれたロイの声に止まらない感情があふれてくる。
「約束するから、アヤの独占欲も執着心もボクに全部ちょうだい」
大人にならなければならないと、フタをしてきた感情が開いていく。
花が咲けばきっと、もう後には戻れない。生まれて初めて心から縋り付く相手が、全部受け止めてくれるというなら、醜い感情が湧き出すのを止めることは二度とできない。
「愛してるよ、アヤ」
抱きしめて告げられるその声に、涙がこぼれていたらしい。湧き出す感情の勢いに、抱きしめてキスされるまで気づかなかった。
「ロイ」
「なぁに、アヤ」
「ロイ」
「うん、聞こえてるよ。アヤ」
「ロイ。どこにも行かないで」
「約束するよ」
「ずっと私の傍にいて、私だけを見て」
「うん。ボクの全部はアヤのものだ」
額合わせで見つめあう、吸い込まれそうなほど青い瞳がきれいで、それを永遠に独り占めできるのかと思うと嬉しくてたまらない。
月がキレイですねの返答は、死んでもいいわ。と聞いたことがある。
今ここで、愛を信じながら終わりの一幕を迎えるならその一言が生まれるかもしれない。
「ごめんね、アヤ。あんなに傍にいたのに、痛む?」
スヲンの膝の上でロイに抱きしめられるという奇妙な状態から、ロイの膝の上に移動させられるついでに、左ほほを撫でられる。
思い出した出来事に、素直に痛かったという過去形ではなく「うん。痛い」と現在進行形で告げたのは、甘えたい欲望だと伝えたい。
「何をしたら許してくれる?」
「許さない」
ほほを膨らませて意地悪を言う。向き合う形でロイを見下ろすのは心地よく、自分だけを見てくれている時間がもっともっとほしくなる。
「一生かけて償ってほしい」
涙にぬれた瞳で凛として答えた声に、ロイの顔が蕩ける様な笑みに変わったといえば、この狂った愛の結末も想像がつくだろう。
「ありがとう、ボクの運命の人」
真顔でそう言って、手の甲にキスを落とす金髪の美形は目の前にいる。
「ハートン家に重婚はない。その歴史が終わる。ボクたちとアヤでね」
ロイとスヲンとランディと一緒に、未来を続ける許可は得た。
「ロイ」
「なぁに、アヤ」
「キスして」
「いいよ。おいで」
もうすでに腕の中にいるのに「おいで」と近づける喜びを分かち合う。ぎゅうぎゅうとロイに抱き付いていると、突然べりっと引きはがされたが、この場合は犯人を隣のスヲンというべきか、移動してきたランディというべきか。
「アヤ、贔屓はなし、だ」
「ン……っ……ぅ、んっ」
「アヤ、俺の上に戻っておいで」
「ダメ。スヲンはさっきまで散々アヤを乗せてたでしょ」
「だったらオレの上に来ればいい」
「あ、ランディ。ずるい、今はボクのアヤなのに」
いつもの調子に戻った面々に、ようやく笑みが浮かんでくる。三人の輪の中で、揺れる体が心地よくて、幸せの風を存分に吸い込んだところで、アヤはもうひとつ聞きたいことを思い出した。
「ねえ」
上半身をランディに、下半身をロイに残したアヤの声を三人は拾って耳を傾ける。
「どうしてあの時、エッチしてくれなかったの?」
あの時がどの時を指すのかを瞬時に察してくれるあたり、三人の顔が確信犯だと物語っている。船内のベッドでアヤの渾身のおねだりを拒んだのは、他でもない、ここにいる三人だ。
「あー……あれはヤバかった」
スヲンが口を押えて目をそらしてくる。
「あそこで襲われなかっただけ、アヤはありがたいと思うべきだ」
「だから、どうして?」
スヲンの顔を覗き込んで怒ったように促せば、一周泳いだスヲンの目は何を言うか悩んだ末に「はぁ」と重たい息を吐いた。
「アヤ、シャーリー号は子宝の船だって教えただろ?」
「そうだよ、アヤ。シャーリー号でセックスするってことがどういうことか、ちゃんと知ったうえでおねだりしなきゃ」
なぜかロイまでスヲンの味方をされて、アヤはわかりやすく唇を尖らせた。
「ランディ」
安易に「ランディは私の味方だよね」という目でランディを見つめてみる。
どちらともいえない曖昧な笑みで「んー?」とのどを鳴らしたランディは「そうだな」と、頭を抱き寄せて額にキスを落としてきた。
「オレは、アヤを確実に孕ませるならシャーリー号を選ぶ」
「ん、ぅ?」
「避妊してようがしてなかろうが、百発百中だ」
子供のような笑みを浮かべてこの人は何を言っているのだろうか。などと、思ってはいけない。ランディはそういう冗談を言わないのだから、信憑性がありすぎて怖くなる。
「無知とはいえ、散々煽るだけ煽られたからな。昨晩の無茶は自業自得だとアヤも反省しろ」
「我慢は体に良くない。本当に、アヤにやられた」
「だけどアヤから初めてのキスマークをもらえた」
ロイが体勢を整えたせいで、アヤの体は再びロイの上に舞い戻る。
「じゃあ、もし今、私がしたいって言ったらどうするの?」
なんだか釈然としなくて、そう尋ねてみれば、ロイは「ん?」と可愛らしく首をかしげて微笑んだかと思うと、腰をもって下半身を押し付けてきた。
「したいの?」
「……え、えっと……ッぁ」
「ボクたち、無茶をさせた自覚はあるけど、アヤが大丈夫っていうなら四六時中してたいよ?」
証拠は耳で聞くより明らかで、アヤは布越しに触れるロイの硬さに息をのむ。
体力は確かにすり減って、ベッドから起き上がるのもやっとだったのに、こうしてちらつかされてしまえば、欲しくなってしまうのは仕方がない。
「……するのはちょっと無理だけど、いっぱい触ってほしいって言ったら怒る?」
ロイの手をとって、頬をすり寄せて甘えてみれば、突然圧死する勢いで抱き着かれた。勢いよく匂いをかがれるのも久しぶりな気がするので、しばらくじっとしてみる。
「どうしよう、ボクもう死んだかも」
「え、なんで?」
「アヤが軽率に心臓を止めにくる」
「私?」
私が悪いのかとスヲンとランディを見てみれば、二人ともうんうんと頷いているのだから反応に困る。どさくさにまぎれて胸の谷間に顔を埋めるロイの金髪を撫でてみれば「ん」に濁音がついた変な声がそこから聞こえた。
「アヤ、変態は放っておいて俺のところへ戻っておいで」
「いっぱい触ってやろうな」
「ランディ、それじゃあランディまで変態みたいだよ?」
「そうか?」と言いながら、シーツをはぎ取りに来るランディは変態だとアヤは思う。
抱き着いたまま離れないロイをそのままに、ソファーから降りて後方に回ってきたランディに背中をキスで撫でられる。大きな手で髪を束ねられ、肩から腰に掛けて降ろされると、ぞわぞわと腰が浮いた。
「アヤ」
スヲンに呼ばれてキスをする。
唇と唇を擦り合わせる程度の微笑みがくすぐったい。耳をかじられて、まぶたを撫でられて、また唇に舞い戻る。
触れるだけの優しさに身をゆだねれば、ふわりとロイに抱き上げられて、無言でベッドルームへと連行された。
「っ……ぁ……ふ、ァッ」
「だめ、アヤ。いっぱい触るんでしょ」
「アヤ、もっとこっち」
ただ全裸で絡まりあうだけの時間を過ごす。肌と肌が触れるだけ、重なるキスを落としあうだけ。
ロイとスヲンとランディと。三人の匂いに埋もれて、三人の肌に沈んで、三人の手の中で時間がだらだらと経過していく。
心音と体温が混ざり合うのを感じるだけの正午をまどろむ。
触れられるだけなのに、それが異常なほど多幸感をつれてきて、四人で溶けてしまった錯覚に陥らせてくる。このままどこかに流して固めてしまえば、それこそ永遠に離れない塊になれる気がした。
「アヤに秘密はしないって約束したから言うんだけどさ」
「……ンッ、ぅ、ん?」
今は仰向けのランディの胸板に頬を引っ付けてうつぶせになるアヤの髪をなでて、ロイが忽然と告げてくる。
「ボクたちはあと二週間で向こうに帰らないといけない。もちろんアヤも一緒だよ」
「にしゅ……かん?」
「八月が終わる頃には日本とサヨナラってこと。だから、アヤはのんびりしてるけど、ボクたち三人との仲を公にする前に、ご両親に挨拶に行きたいから早めに連絡をとってほしいんだ」
「あいさ、ちゅ?」
溶けて発言がままならないアヤを放置して、勝手に会話が進んでいくのはいつものこと。ランディが寝返りを打ったのに合わせて、アヤは仰向けにベッドに転がされ、今度はスヲンに体半分を奪われる形でシーツに埋もれる。
「アヤの両親は平日が休みだろ?」
「ぅ、ンッ……そ、ぅ」
「いつが都合いいか聞いてくれるか?」
「……ァッ、にゃ……はぃ」
「ほら、ちゃんと文字を打って、アヤ」
「仕方ない、手伝ってやるか」
「そうそう、アヤ。上手だ」
半分溶けた脳みそで、三人に誘導されるままに携帯に指を滑らせ、両親あてのメッセージグループに「結婚前提でお付き合いしている彼氏たちを紹介したいので、都合の良い日を教えてください」と定型文みたいな文字を送信していたことに気付いた時にはもう遅い。
「はにゃ!?」
瞬時に飛んできたスタンプが「OK」という軽い母親のノリに反して、うんともすんとも言わない父親の返答。既読数は二人分を示しているのに、返答のない時間のせいで、なぜかドキドキと心拍数があがってきた。
「……え、……え?」
夢と現実のはざまで微睡んでいた意識が送られてきた文字を見て、覚醒していく。
「お盆休み最初、来週の月曜日はどうかって」
記憶が正しければ、今日は木曜日のはずなので、金、土、日と四日後を指すのだろう。いくらなんでも急すぎると、心の準備が整わないアヤとは対照的に、彼ら三人は「了解」とばかりに頷きあっている。
「それくらい早いほうがありがたい」
「アヤ、返事は?」
スヲンの命令に、指が勝手に「だいじょうぶです」と返信を送っていく。
そうして次に来たのが『月曜日、朝の十時、実家で待つ』という果たし状みたいな文面だった以上、微睡む時間は終わりを告げるしかなかった。
これはどことなく嬉しそうなスヲンの声。
「ロイの顔、ぶん殴れるのはアヤくらいだな」
これは、感心しているランディの声。
「どうしてロイは、そんなに無防備なの!?」
これは叫ぶアヤの声。そして、その内容に全員が目を点にしてアヤを凝視していた。
いうなれば無防備の代表選手に、無防備認定される驚きだろうか。
「ボク、無防備なんて生まれて初めて言われた」
呆然と頬を押さえて目を丸くするロイの姿はレアかもしれない。それでもいまは、それにかまっている場合ではない。
「ロイ。勝手に全部ひとりでどうにかしようとしないで」
アヤは憤慨の態度でその瞳に対抗する。
「ハートン家の運命に巻き込まれたってかまわないから、私を守ってくれなくていいから、秘密にしないで」
「今はスヲンとランディがいるから、ひとりで突っ走ったりはしないよ?」
「してるもん。もっと早く教えてくれていたら、私にだってできることいっぱいあったかもしれないのに、あんな形じゃない、別の方法だって出来たかもしれないのに」
実際問題、そんな力はどこにもなかったと知っている。
メリルの存在に嫉妬して、モヤモヤした気持ちと付き合うことしかできなかった。
「私がロイの運命なら、ロイだって私の運命でしょ」
まばたきを忘れるほど睨み付ければ少しは気持ちが伝わるだろうか。口をついて溢れてくる言いたくて言えなかった言葉。
「どんな理由があっても、もう二度と私以外の人に触らせないで」
少しは響いただろうか。
届いただろうか。
「うん、約束するよ」
抱きしめてくれるロイのぬくもりに、耳にかすれたロイの声に止まらない感情があふれてくる。
「約束するから、アヤの独占欲も執着心もボクに全部ちょうだい」
大人にならなければならないと、フタをしてきた感情が開いていく。
花が咲けばきっと、もう後には戻れない。生まれて初めて心から縋り付く相手が、全部受け止めてくれるというなら、醜い感情が湧き出すのを止めることは二度とできない。
「愛してるよ、アヤ」
抱きしめて告げられるその声に、涙がこぼれていたらしい。湧き出す感情の勢いに、抱きしめてキスされるまで気づかなかった。
「ロイ」
「なぁに、アヤ」
「ロイ」
「うん、聞こえてるよ。アヤ」
「ロイ。どこにも行かないで」
「約束するよ」
「ずっと私の傍にいて、私だけを見て」
「うん。ボクの全部はアヤのものだ」
額合わせで見つめあう、吸い込まれそうなほど青い瞳がきれいで、それを永遠に独り占めできるのかと思うと嬉しくてたまらない。
月がキレイですねの返答は、死んでもいいわ。と聞いたことがある。
今ここで、愛を信じながら終わりの一幕を迎えるならその一言が生まれるかもしれない。
「ごめんね、アヤ。あんなに傍にいたのに、痛む?」
スヲンの膝の上でロイに抱きしめられるという奇妙な状態から、ロイの膝の上に移動させられるついでに、左ほほを撫でられる。
思い出した出来事に、素直に痛かったという過去形ではなく「うん。痛い」と現在進行形で告げたのは、甘えたい欲望だと伝えたい。
「何をしたら許してくれる?」
「許さない」
ほほを膨らませて意地悪を言う。向き合う形でロイを見下ろすのは心地よく、自分だけを見てくれている時間がもっともっとほしくなる。
「一生かけて償ってほしい」
涙にぬれた瞳で凛として答えた声に、ロイの顔が蕩ける様な笑みに変わったといえば、この狂った愛の結末も想像がつくだろう。
「ありがとう、ボクの運命の人」
真顔でそう言って、手の甲にキスを落とす金髪の美形は目の前にいる。
「ハートン家に重婚はない。その歴史が終わる。ボクたちとアヤでね」
ロイとスヲンとランディと一緒に、未来を続ける許可は得た。
「ロイ」
「なぁに、アヤ」
「キスして」
「いいよ。おいで」
もうすでに腕の中にいるのに「おいで」と近づける喜びを分かち合う。ぎゅうぎゅうとロイに抱き付いていると、突然べりっと引きはがされたが、この場合は犯人を隣のスヲンというべきか、移動してきたランディというべきか。
「アヤ、贔屓はなし、だ」
「ン……っ……ぅ、んっ」
「アヤ、俺の上に戻っておいで」
「ダメ。スヲンはさっきまで散々アヤを乗せてたでしょ」
「だったらオレの上に来ればいい」
「あ、ランディ。ずるい、今はボクのアヤなのに」
いつもの調子に戻った面々に、ようやく笑みが浮かんでくる。三人の輪の中で、揺れる体が心地よくて、幸せの風を存分に吸い込んだところで、アヤはもうひとつ聞きたいことを思い出した。
「ねえ」
上半身をランディに、下半身をロイに残したアヤの声を三人は拾って耳を傾ける。
「どうしてあの時、エッチしてくれなかったの?」
あの時がどの時を指すのかを瞬時に察してくれるあたり、三人の顔が確信犯だと物語っている。船内のベッドでアヤの渾身のおねだりを拒んだのは、他でもない、ここにいる三人だ。
「あー……あれはヤバかった」
スヲンが口を押えて目をそらしてくる。
「あそこで襲われなかっただけ、アヤはありがたいと思うべきだ」
「だから、どうして?」
スヲンの顔を覗き込んで怒ったように促せば、一周泳いだスヲンの目は何を言うか悩んだ末に「はぁ」と重たい息を吐いた。
「アヤ、シャーリー号は子宝の船だって教えただろ?」
「そうだよ、アヤ。シャーリー号でセックスするってことがどういうことか、ちゃんと知ったうえでおねだりしなきゃ」
なぜかロイまでスヲンの味方をされて、アヤはわかりやすく唇を尖らせた。
「ランディ」
安易に「ランディは私の味方だよね」という目でランディを見つめてみる。
どちらともいえない曖昧な笑みで「んー?」とのどを鳴らしたランディは「そうだな」と、頭を抱き寄せて額にキスを落としてきた。
「オレは、アヤを確実に孕ませるならシャーリー号を選ぶ」
「ん、ぅ?」
「避妊してようがしてなかろうが、百発百中だ」
子供のような笑みを浮かべてこの人は何を言っているのだろうか。などと、思ってはいけない。ランディはそういう冗談を言わないのだから、信憑性がありすぎて怖くなる。
「無知とはいえ、散々煽るだけ煽られたからな。昨晩の無茶は自業自得だとアヤも反省しろ」
「我慢は体に良くない。本当に、アヤにやられた」
「だけどアヤから初めてのキスマークをもらえた」
ロイが体勢を整えたせいで、アヤの体は再びロイの上に舞い戻る。
「じゃあ、もし今、私がしたいって言ったらどうするの?」
なんだか釈然としなくて、そう尋ねてみれば、ロイは「ん?」と可愛らしく首をかしげて微笑んだかと思うと、腰をもって下半身を押し付けてきた。
「したいの?」
「……え、えっと……ッぁ」
「ボクたち、無茶をさせた自覚はあるけど、アヤが大丈夫っていうなら四六時中してたいよ?」
証拠は耳で聞くより明らかで、アヤは布越しに触れるロイの硬さに息をのむ。
体力は確かにすり減って、ベッドから起き上がるのもやっとだったのに、こうしてちらつかされてしまえば、欲しくなってしまうのは仕方がない。
「……するのはちょっと無理だけど、いっぱい触ってほしいって言ったら怒る?」
ロイの手をとって、頬をすり寄せて甘えてみれば、突然圧死する勢いで抱き着かれた。勢いよく匂いをかがれるのも久しぶりな気がするので、しばらくじっとしてみる。
「どうしよう、ボクもう死んだかも」
「え、なんで?」
「アヤが軽率に心臓を止めにくる」
「私?」
私が悪いのかとスヲンとランディを見てみれば、二人ともうんうんと頷いているのだから反応に困る。どさくさにまぎれて胸の谷間に顔を埋めるロイの金髪を撫でてみれば「ん」に濁音がついた変な声がそこから聞こえた。
「アヤ、変態は放っておいて俺のところへ戻っておいで」
「いっぱい触ってやろうな」
「ランディ、それじゃあランディまで変態みたいだよ?」
「そうか?」と言いながら、シーツをはぎ取りに来るランディは変態だとアヤは思う。
抱き着いたまま離れないロイをそのままに、ソファーから降りて後方に回ってきたランディに背中をキスで撫でられる。大きな手で髪を束ねられ、肩から腰に掛けて降ろされると、ぞわぞわと腰が浮いた。
「アヤ」
スヲンに呼ばれてキスをする。
唇と唇を擦り合わせる程度の微笑みがくすぐったい。耳をかじられて、まぶたを撫でられて、また唇に舞い戻る。
触れるだけの優しさに身をゆだねれば、ふわりとロイに抱き上げられて、無言でベッドルームへと連行された。
「っ……ぁ……ふ、ァッ」
「だめ、アヤ。いっぱい触るんでしょ」
「アヤ、もっとこっち」
ただ全裸で絡まりあうだけの時間を過ごす。肌と肌が触れるだけ、重なるキスを落としあうだけ。
ロイとスヲンとランディと。三人の匂いに埋もれて、三人の肌に沈んで、三人の手の中で時間がだらだらと経過していく。
心音と体温が混ざり合うのを感じるだけの正午をまどろむ。
触れられるだけなのに、それが異常なほど多幸感をつれてきて、四人で溶けてしまった錯覚に陥らせてくる。このままどこかに流して固めてしまえば、それこそ永遠に離れない塊になれる気がした。
「アヤに秘密はしないって約束したから言うんだけどさ」
「……ンッ、ぅ、ん?」
今は仰向けのランディの胸板に頬を引っ付けてうつぶせになるアヤの髪をなでて、ロイが忽然と告げてくる。
「ボクたちはあと二週間で向こうに帰らないといけない。もちろんアヤも一緒だよ」
「にしゅ……かん?」
「八月が終わる頃には日本とサヨナラってこと。だから、アヤはのんびりしてるけど、ボクたち三人との仲を公にする前に、ご両親に挨拶に行きたいから早めに連絡をとってほしいんだ」
「あいさ、ちゅ?」
溶けて発言がままならないアヤを放置して、勝手に会話が進んでいくのはいつものこと。ランディが寝返りを打ったのに合わせて、アヤは仰向けにベッドに転がされ、今度はスヲンに体半分を奪われる形でシーツに埋もれる。
「アヤの両親は平日が休みだろ?」
「ぅ、ンッ……そ、ぅ」
「いつが都合いいか聞いてくれるか?」
「……ァッ、にゃ……はぃ」
「ほら、ちゃんと文字を打って、アヤ」
「仕方ない、手伝ってやるか」
「そうそう、アヤ。上手だ」
半分溶けた脳みそで、三人に誘導されるままに携帯に指を滑らせ、両親あてのメッセージグループに「結婚前提でお付き合いしている彼氏たちを紹介したいので、都合の良い日を教えてください」と定型文みたいな文字を送信していたことに気付いた時にはもう遅い。
「はにゃ!?」
瞬時に飛んできたスタンプが「OK」という軽い母親のノリに反して、うんともすんとも言わない父親の返答。既読数は二人分を示しているのに、返答のない時間のせいで、なぜかドキドキと心拍数があがってきた。
「……え、……え?」
夢と現実のはざまで微睡んでいた意識が送られてきた文字を見て、覚醒していく。
「お盆休み最初、来週の月曜日はどうかって」
記憶が正しければ、今日は木曜日のはずなので、金、土、日と四日後を指すのだろう。いくらなんでも急すぎると、心の準備が整わないアヤとは対照的に、彼ら三人は「了解」とばかりに頷きあっている。
「それくらい早いほうがありがたい」
「アヤ、返事は?」
スヲンの命令に、指が勝手に「だいじょうぶです」と返信を送っていく。
そうして次に来たのが『月曜日、朝の十時、実家で待つ』という果たし状みたいな文面だった以上、微睡む時間は終わりを告げるしかなかった。
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