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番外編
性急なゴンドラ(R18)
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※エタニティサイトで公開されている書籍版『Mon favori』の番外編「緩慢なアクアリウム」の続きとなっておりますが、単体でも読んでいただけます。
忍と綾子が水族館を出た頃には、もう午後四時を回っていた。
観覧中ずっと繋いでいてと願った綾子の手は、まだ忍に握られたままだ。
そんな二人の足は、併設されている遊園地の方へと向かう。
遊園地と言っても、水族館やそれに連なるショッピングモールにぐるりと囲われた大きな広場に、いくつか遊具が設置されているだけの簡素なものだ。
ジェットコースターなどはなく、大人が乗れるものと言ったら中央にそびえ立つ観覧車くらい。
「綾子、高いところは?」
「あ、平気です」
せっかくだからと、忍と綾子はその観覧車に乗ることにした。
少しだけ並んで順番を待つ。
周囲は家族連れがほとんどだったが、中には忍と綾子同様水族館から流れてきた様子のカップルの姿もあった。
十分ほどして、ようやく順番が回ってきた。
二人が乗り込んだのは、ペンキを塗り直したばかりのような、鮮やかな赤色のゴンドラ。
それが輪の頂点に到達する頃には、西の空も赤く染まり始めていた。
足元の港には、朝見た外国の大型客船がまだ停まっている。
半日を過ごした水族館の屋根も見下ろせた。
海岸線に沿って視線を上げていけば、はるか遠くには高いビルが立ち並んでいるのが見える。
猪野商事やMon favoriがある、忍と綾子が生活している街だ。
そして、大きな山を挟む形で反対側に見えるのは、一転してなだらかな地形。
こちらは、綾子の実家がある街だ。
綾子はそれを眺め、ふと実家の家族に思いを馳せた。
「――綾子」
そんな綾子の横顔に、忍から声がかかる。
綾子が「はい」と返事をして顔を正面に戻すと、ちょうど彼が立ち上がったところだった。
忍と綾子はバランスをとるために向かい合わせに座っていた。
しかし、忍は向かいの席から移動して綾子の隣に座り直した。
少しだけゴンドラが傾く。
「忍ちゃん?」
綾子は両目をぱちくりさせて、隣の彼を不思議そうに見上げた。
忍も、そんな綾子に顔を近づけてじっと見つめる。
かと思ったら、突然肩を抱き――キスをした。
「んっ……」
二人が乗ったゴンドラは、輪の頂点を過ぎたばかりでまだ地上までは遠い。
とはいえ、角度によっては他のゴンドラに乗っている人達に見られてしまうかもしれない。
そう思った綾子は、ぽぽっと顔を赤らめ身を捩る。
しかし、肩に回った忍の手がそれを押さえ込み、キスがさらに深まった。
戸惑う唇を抉じ開け、忍の舌がぬるり綾子の口内に攻め入る。
それは、奥で縮こまった彼女の舌を捕まえ、ちゅるっと音を立てて絡まり、吸った。
そのまま散々綾子の口内を味わった忍は、地上に着く直前になってようやく彼女を解放した。
観覧車を降りると、忍は綾子の肩を抱いて駐車場に向かった。
二人が車に乗り込んだ時には、もう午後五時を過ぎていた。
忍のマンションまで戻るには、高速道路を使って一時間。
ただし、夕刻は道が混むのでもう少し時間はかかるかもしれない。
まだ少し頬を赤く染めたままの綾子は、助手席でシートベルトをしながらそんなことを考えていた。
だが、車が走り出してしばらくすると、彼女は今度はきょとんとして首を傾げた。
車が、高速道路の乗り口がある市街地に向かわず、海岸沿いを走っていることに気づいたからだ。
「忍ちゃん……?」
てっきりマンションに戻るのだと思っていた綾子は、運転席へと問うような視線を送る。
ハンドルを握る忍は、それににこりと笑い返しただけだった。
ベイエリアには、立派なリゾートホテルがいくつも立ち並んでいた。
忍の運転する車は、そのうちの一軒の敷地に滑り込む。
夕日に照らされて赤く染まる建物に刻まれているのは、全国的に名の通ったホテルグループのロゴマーク。
困惑する綾子をよそに、忍はホテルの正面玄関に車を乗り付ける。
すぐさま年嵩のドアマンが近寄ってきて、忍に笑顔で歓迎の挨拶をした。
そのドアマンに愛車のキーを預けた忍は、運転席を降り、助手席の方に回って扉を開ける。
「し、忍ちゃん、あの……?」
「おいで、綾子」
綾子が降りると、車はドアマンに呼ばれたベルボーイによってホテルの駐車場へと移動させられた。
綾子は戸惑いつつも、忍に促されてホテルの玄関をくぐる。
忍は一瞬フロントに立ち寄って書類にサインをしたようだったが、すぐに綾子の隣に戻ってきた。
二人はベルボーイとともにエレベーターに乗り込む。
そうして案内されたのは、十七階に位置する広い部屋――エグゼクティブフロアーのダブルルーム。
そのランクの価値も値段も、綾子には想像もつかない。思わず足が竦んだ。
ベルボーイを部屋から出した忍は、そんな綾子を振り返って笑う。
「このホテルと猪野商事は長い付き合いでね。役員の保養所として年間契約しているんだ」
「あ、そ、そんなんですか……」
とはいえ、そもそも今日は、出かけ先で泊まる予定ではなかったはずだ。
それを証拠に、忍も綾子も着替えなど、何も持ってきていない。
それなのに、綾子の戸惑いもそのままに、忍は身体を押し付けるようにして彼女を抱き締めた。
「し、忍ちゃん!?」
「うん」
言うまでもなく、そういう直接的な目的のためのホテルではない。
忍も、まさか“休憩”のためにここに入ったわけではないだろう。
しかし、何度か忍と体を重ねた綾子には、さすがに彼が今何を望んでいるのかは分かってしまう。
綾子は何とか忍を宥めすかし、浴室へと飛び込んだ。
そして、シャワーで汗を流しながら、ひとまず自分を落ち着かせる。
ところが、綾子がさっぱりして浴室から出てくると、今日着ていたものが何もかもなくなっていた。
忍も、すっかりバスローブに着替えてしまっている。
「ランドリーサービスに出したよ」
「えっ……し、下着も、全部?」
「ああ、全部」
綺麗に洗ってプレスして、翌朝には新品同様の状態にして部屋まで届けてくれるらしい。
相手はプロだから、と忍は何ごともないように言うが、綾子は赤の他人に下着の洗濯までされてしまうなんて、と恥ずかしくてたまらなかった。
ただし、もう持って行かれてしまったものは仕方がない。
そもそも、今着ているバスローブの下は素っ裸なので、洗濯物を取り返しに部屋を出るのも憚られる。
綾子は諦めのため息をつくと、ソファに腰を下ろして洗い髪を乾かし始めた。
その間に忍もシャワーを浴びに行ったが、彼は綾子の髪が完全に乾き切る前に戻ってきた。
しかも、何ごともきちんとしている彼には珍しく、濡れた髪のまま綾子を抱き締めた。
「わわっ、忍ちゃん……髪乾かさないと、風邪引いちゃいますよ?」
「短いんだから、そのうち乾くよ。それより……もう、待てない」
忍はそう言うと、有無を言わさず綾子を抱き上げ、ベッドへ運んで押し倒した。
そのまま彼の手が、いつになく性急に綾子のバスローブの裾を割る。
「……濡れてないな」
綾子の足の間を指で探った忍が、そうぽつりとこぼした。
彼は少し不満げに続ける。
「俺は、もうこんなだっていうのに……」
綾子の耳に息を吹き込むようにしてそう言うと、忍は彼女の片手を取った。
彼に導かれた綾子の手には、バスローブ越しに熱いものが握らされた。
「――っ!」
それが何なのか――もう知っている綾子の全身が、一瞬にして真っ赤に染まる。
と同時に、綾子はじゅん、と己の身の中から何かが滲むのを感じた。
忍の昂りに触れたとたん、綾子の身体は勝手に彼を受け入れる準備を始めたのだ。
それは、秘所に指を添わせていた忍にも気づかれてしまった。
「……綾子も、その気になった? 嬉しいな」
「そ、そんな」
忍はニヤリと笑うと、綾子の唇に噛み付いた。
そうして音を立てて舌を絡めながら、指では潤い始めた秘所を解そうとする。
スリットに添わせて指を動かすと、やがてくちゅくちゅと粘った音が立ち始めた。
しかし、キスに翻弄されている綾子は、まだそれに気づいていない。
忍はその隙に、無防備な彼女の中へと指を突き立てた。
「んうっ……!」
「……っ……」
忍の長い指が、ぐぐっと一気に奥まで押し入る。
綾子は驚きと衝撃のあまり、思わず口の中にあった忍の舌を噛みそうになった。
忍は、咄嗟に舌を引っ込めて難を逃れる。
「ご、ごめん……な、さい……」
「ん、大丈夫だよ」
おろおろしながら謝る綾子に、忍は目を細めて苦笑した。
その顔が優しかったので、性急すぎる今夜の彼に怯えを感じていた綾子は、少しだけほっとした。
しかし、それの束の間。
「――あ、んっ!」
侵入していた忍の指が、綾子の中で大胆に動き始めた。
指の腹が内壁を擦り、綾子の感じやすい場所を探るように激しく刺激する。
さらには、外では親指が、小さく立ち上がっていた粒をこね回した。
「んっ、ひっ、ん、んうっ……」
忍に与えられる快感に、綾子は必死に耐えようとする。
快感に全てを預けてしまうのは、彼女はまだ恐ろしいのだ。
しかし、そんな綾子を追いつめるかのように指が二本に増やされる。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を響かせて中を掻き回されると、綾子はいよいよ快感に抗えなくなってきた。
頂きは、だんだんと近づいてくる。
綾子はやがて、自分を翻弄する忍の手に全てを任せる覚悟を決めた。
それなのに――
「ん、う……?」
突如、綾子の中を蹂躙していた指が引き抜かれた。
いつの間にか夢中で快感を追っていた綾子は、肩すかしを食らったような感覚に陥る。
しかし、次の瞬間……
「ひあぁっ……!!」
指よりももっと存在感のあるものが、彼女の中に攻め込んできた。
蕩けた内部を、忍が一気に満たす。
やはり、今日の彼は何もかもが性急だ。
いつもなら綾子を先に何度も上り詰めさせ、彼女の入り口をすっかり解れさせてから繋がるというのに。
「あ、あ……は……」
すでに限界が迫っていた綾子は、忍を受け入れたと同時に達してしまった。
綾子の中は自然と収縮を繰り返し、収まった彼自身を食らうような仕草をする。
その刺激に目を細めつつ、忍は熱いため息をついた。
「綾子……俺はおいしい?」
彼はそう囁くと、腰を揺すり上げた。とたんに、綾子の口から甲高い悲鳴が上がる。
「や、ああっ! ま、待ってっ……」
「うん?」
「まだっ、まだ動かない、でえっ……!」
強すぎる快感に怯え、綾子はそう懇願する。
しかし、忍は「ふふ」と楽しそうに笑うばかり。
さらに彼は、綾子の両の膝裏に腕を通し、それを持ち上げるようにして大きく開かせた。
その体勢があまりに恥ずかしくて、綾子は涙に濡れながらも非難の眼差しを向ける。
だが忍は意に介さず、それどころか無防備にさらけ出された彼女の中心に、強く腰を叩き付けた。
「ああっ! ひっ! あ! あっ……!!」
「綾子……」
ずんと奥を突き上げる度に、綾子の口からは嬌声が漏れた。もう、押さえることもできないのか、彼女は切なく何度も鳴いた。
忍は下肢からせり上がる快感に夢中になりながらも、自分に翻弄される綾子の姿に満足感を覚える。
彼女の意識を支配しているのは自分だと思うと、優越感も感じた。
忍が、こんなに性急にも綾子を組み敷いたのには、彼なりの理由があった。
先ほど、二人は観覧車に乗った。
ゴンドラから故郷の街を見つめていた綾子の横顔――そこに郷愁の想いを感じとった時、忍はとてつもないほどの嫉妬を覚えたのだ。
それまで、綾子の心の中は忍で一杯だった。
それなのに、綾子の故郷は――家族は、一瞬にして彼女の意識を全て持って行ってしまった。
家族に嫉妬だなんて、ひどく馬鹿らしいことだ。忍は、自分でもそう思う。
しかし、綾子と出会うまでこんな嫉妬心などとは無縁だった彼には、それをどう扱っていいのか分からなかった。
わき上がった激情のまま、忍はとにかく綾子を征服してしまいたかった。
彼女の心も、身体も、全て――。
「ん、ああっ……!」
忍に容赦なく責め立てられ、綾子はまた呆気なく上り詰めた。
彼女の中が、忍自身をぎゅうっと抱き締める。
その刺激に促されて、忍も薄い膜越しに爆ぜた。
極上の心地良さの後には、背中からどっとのしかかるような濃い疲労感が襲ってくる。
それに押し潰されるようにして、忍は綾子の上に倒れ込んだ。
「綾子……」
息が乱れたまま、彼女の名を呼ぶ。
涙で濡れた瞳が、忍を見つめ返した。
その黒い瞳の中に自分の姿が映っているのを見て、忍はほっと息をついた。
綾子の視界に自分だけがいるのを知って、忍は安堵した。
忍と綾子が水族館を出た頃には、もう午後四時を回っていた。
観覧中ずっと繋いでいてと願った綾子の手は、まだ忍に握られたままだ。
そんな二人の足は、併設されている遊園地の方へと向かう。
遊園地と言っても、水族館やそれに連なるショッピングモールにぐるりと囲われた大きな広場に、いくつか遊具が設置されているだけの簡素なものだ。
ジェットコースターなどはなく、大人が乗れるものと言ったら中央にそびえ立つ観覧車くらい。
「綾子、高いところは?」
「あ、平気です」
せっかくだからと、忍と綾子はその観覧車に乗ることにした。
少しだけ並んで順番を待つ。
周囲は家族連れがほとんどだったが、中には忍と綾子同様水族館から流れてきた様子のカップルの姿もあった。
十分ほどして、ようやく順番が回ってきた。
二人が乗り込んだのは、ペンキを塗り直したばかりのような、鮮やかな赤色のゴンドラ。
それが輪の頂点に到達する頃には、西の空も赤く染まり始めていた。
足元の港には、朝見た外国の大型客船がまだ停まっている。
半日を過ごした水族館の屋根も見下ろせた。
海岸線に沿って視線を上げていけば、はるか遠くには高いビルが立ち並んでいるのが見える。
猪野商事やMon favoriがある、忍と綾子が生活している街だ。
そして、大きな山を挟む形で反対側に見えるのは、一転してなだらかな地形。
こちらは、綾子の実家がある街だ。
綾子はそれを眺め、ふと実家の家族に思いを馳せた。
「――綾子」
そんな綾子の横顔に、忍から声がかかる。
綾子が「はい」と返事をして顔を正面に戻すと、ちょうど彼が立ち上がったところだった。
忍と綾子はバランスをとるために向かい合わせに座っていた。
しかし、忍は向かいの席から移動して綾子の隣に座り直した。
少しだけゴンドラが傾く。
「忍ちゃん?」
綾子は両目をぱちくりさせて、隣の彼を不思議そうに見上げた。
忍も、そんな綾子に顔を近づけてじっと見つめる。
かと思ったら、突然肩を抱き――キスをした。
「んっ……」
二人が乗ったゴンドラは、輪の頂点を過ぎたばかりでまだ地上までは遠い。
とはいえ、角度によっては他のゴンドラに乗っている人達に見られてしまうかもしれない。
そう思った綾子は、ぽぽっと顔を赤らめ身を捩る。
しかし、肩に回った忍の手がそれを押さえ込み、キスがさらに深まった。
戸惑う唇を抉じ開け、忍の舌がぬるり綾子の口内に攻め入る。
それは、奥で縮こまった彼女の舌を捕まえ、ちゅるっと音を立てて絡まり、吸った。
そのまま散々綾子の口内を味わった忍は、地上に着く直前になってようやく彼女を解放した。
観覧車を降りると、忍は綾子の肩を抱いて駐車場に向かった。
二人が車に乗り込んだ時には、もう午後五時を過ぎていた。
忍のマンションまで戻るには、高速道路を使って一時間。
ただし、夕刻は道が混むのでもう少し時間はかかるかもしれない。
まだ少し頬を赤く染めたままの綾子は、助手席でシートベルトをしながらそんなことを考えていた。
だが、車が走り出してしばらくすると、彼女は今度はきょとんとして首を傾げた。
車が、高速道路の乗り口がある市街地に向かわず、海岸沿いを走っていることに気づいたからだ。
「忍ちゃん……?」
てっきりマンションに戻るのだと思っていた綾子は、運転席へと問うような視線を送る。
ハンドルを握る忍は、それににこりと笑い返しただけだった。
ベイエリアには、立派なリゾートホテルがいくつも立ち並んでいた。
忍の運転する車は、そのうちの一軒の敷地に滑り込む。
夕日に照らされて赤く染まる建物に刻まれているのは、全国的に名の通ったホテルグループのロゴマーク。
困惑する綾子をよそに、忍はホテルの正面玄関に車を乗り付ける。
すぐさま年嵩のドアマンが近寄ってきて、忍に笑顔で歓迎の挨拶をした。
そのドアマンに愛車のキーを預けた忍は、運転席を降り、助手席の方に回って扉を開ける。
「し、忍ちゃん、あの……?」
「おいで、綾子」
綾子が降りると、車はドアマンに呼ばれたベルボーイによってホテルの駐車場へと移動させられた。
綾子は戸惑いつつも、忍に促されてホテルの玄関をくぐる。
忍は一瞬フロントに立ち寄って書類にサインをしたようだったが、すぐに綾子の隣に戻ってきた。
二人はベルボーイとともにエレベーターに乗り込む。
そうして案内されたのは、十七階に位置する広い部屋――エグゼクティブフロアーのダブルルーム。
そのランクの価値も値段も、綾子には想像もつかない。思わず足が竦んだ。
ベルボーイを部屋から出した忍は、そんな綾子を振り返って笑う。
「このホテルと猪野商事は長い付き合いでね。役員の保養所として年間契約しているんだ」
「あ、そ、そんなんですか……」
とはいえ、そもそも今日は、出かけ先で泊まる予定ではなかったはずだ。
それを証拠に、忍も綾子も着替えなど、何も持ってきていない。
それなのに、綾子の戸惑いもそのままに、忍は身体を押し付けるようにして彼女を抱き締めた。
「し、忍ちゃん!?」
「うん」
言うまでもなく、そういう直接的な目的のためのホテルではない。
忍も、まさか“休憩”のためにここに入ったわけではないだろう。
しかし、何度か忍と体を重ねた綾子には、さすがに彼が今何を望んでいるのかは分かってしまう。
綾子は何とか忍を宥めすかし、浴室へと飛び込んだ。
そして、シャワーで汗を流しながら、ひとまず自分を落ち着かせる。
ところが、綾子がさっぱりして浴室から出てくると、今日着ていたものが何もかもなくなっていた。
忍も、すっかりバスローブに着替えてしまっている。
「ランドリーサービスに出したよ」
「えっ……し、下着も、全部?」
「ああ、全部」
綺麗に洗ってプレスして、翌朝には新品同様の状態にして部屋まで届けてくれるらしい。
相手はプロだから、と忍は何ごともないように言うが、綾子は赤の他人に下着の洗濯までされてしまうなんて、と恥ずかしくてたまらなかった。
ただし、もう持って行かれてしまったものは仕方がない。
そもそも、今着ているバスローブの下は素っ裸なので、洗濯物を取り返しに部屋を出るのも憚られる。
綾子は諦めのため息をつくと、ソファに腰を下ろして洗い髪を乾かし始めた。
その間に忍もシャワーを浴びに行ったが、彼は綾子の髪が完全に乾き切る前に戻ってきた。
しかも、何ごともきちんとしている彼には珍しく、濡れた髪のまま綾子を抱き締めた。
「わわっ、忍ちゃん……髪乾かさないと、風邪引いちゃいますよ?」
「短いんだから、そのうち乾くよ。それより……もう、待てない」
忍はそう言うと、有無を言わさず綾子を抱き上げ、ベッドへ運んで押し倒した。
そのまま彼の手が、いつになく性急に綾子のバスローブの裾を割る。
「……濡れてないな」
綾子の足の間を指で探った忍が、そうぽつりとこぼした。
彼は少し不満げに続ける。
「俺は、もうこんなだっていうのに……」
綾子の耳に息を吹き込むようにしてそう言うと、忍は彼女の片手を取った。
彼に導かれた綾子の手には、バスローブ越しに熱いものが握らされた。
「――っ!」
それが何なのか――もう知っている綾子の全身が、一瞬にして真っ赤に染まる。
と同時に、綾子はじゅん、と己の身の中から何かが滲むのを感じた。
忍の昂りに触れたとたん、綾子の身体は勝手に彼を受け入れる準備を始めたのだ。
それは、秘所に指を添わせていた忍にも気づかれてしまった。
「……綾子も、その気になった? 嬉しいな」
「そ、そんな」
忍はニヤリと笑うと、綾子の唇に噛み付いた。
そうして音を立てて舌を絡めながら、指では潤い始めた秘所を解そうとする。
スリットに添わせて指を動かすと、やがてくちゅくちゅと粘った音が立ち始めた。
しかし、キスに翻弄されている綾子は、まだそれに気づいていない。
忍はその隙に、無防備な彼女の中へと指を突き立てた。
「んうっ……!」
「……っ……」
忍の長い指が、ぐぐっと一気に奥まで押し入る。
綾子は驚きと衝撃のあまり、思わず口の中にあった忍の舌を噛みそうになった。
忍は、咄嗟に舌を引っ込めて難を逃れる。
「ご、ごめん……な、さい……」
「ん、大丈夫だよ」
おろおろしながら謝る綾子に、忍は目を細めて苦笑した。
その顔が優しかったので、性急すぎる今夜の彼に怯えを感じていた綾子は、少しだけほっとした。
しかし、それの束の間。
「――あ、んっ!」
侵入していた忍の指が、綾子の中で大胆に動き始めた。
指の腹が内壁を擦り、綾子の感じやすい場所を探るように激しく刺激する。
さらには、外では親指が、小さく立ち上がっていた粒をこね回した。
「んっ、ひっ、ん、んうっ……」
忍に与えられる快感に、綾子は必死に耐えようとする。
快感に全てを預けてしまうのは、彼女はまだ恐ろしいのだ。
しかし、そんな綾子を追いつめるかのように指が二本に増やされる。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を響かせて中を掻き回されると、綾子はいよいよ快感に抗えなくなってきた。
頂きは、だんだんと近づいてくる。
綾子はやがて、自分を翻弄する忍の手に全てを任せる覚悟を決めた。
それなのに――
「ん、う……?」
突如、綾子の中を蹂躙していた指が引き抜かれた。
いつの間にか夢中で快感を追っていた綾子は、肩すかしを食らったような感覚に陥る。
しかし、次の瞬間……
「ひあぁっ……!!」
指よりももっと存在感のあるものが、彼女の中に攻め込んできた。
蕩けた内部を、忍が一気に満たす。
やはり、今日の彼は何もかもが性急だ。
いつもなら綾子を先に何度も上り詰めさせ、彼女の入り口をすっかり解れさせてから繋がるというのに。
「あ、あ……は……」
すでに限界が迫っていた綾子は、忍を受け入れたと同時に達してしまった。
綾子の中は自然と収縮を繰り返し、収まった彼自身を食らうような仕草をする。
その刺激に目を細めつつ、忍は熱いため息をついた。
「綾子……俺はおいしい?」
彼はそう囁くと、腰を揺すり上げた。とたんに、綾子の口から甲高い悲鳴が上がる。
「や、ああっ! ま、待ってっ……」
「うん?」
「まだっ、まだ動かない、でえっ……!」
強すぎる快感に怯え、綾子はそう懇願する。
しかし、忍は「ふふ」と楽しそうに笑うばかり。
さらに彼は、綾子の両の膝裏に腕を通し、それを持ち上げるようにして大きく開かせた。
その体勢があまりに恥ずかしくて、綾子は涙に濡れながらも非難の眼差しを向ける。
だが忍は意に介さず、それどころか無防備にさらけ出された彼女の中心に、強く腰を叩き付けた。
「ああっ! ひっ! あ! あっ……!!」
「綾子……」
ずんと奥を突き上げる度に、綾子の口からは嬌声が漏れた。もう、押さえることもできないのか、彼女は切なく何度も鳴いた。
忍は下肢からせり上がる快感に夢中になりながらも、自分に翻弄される綾子の姿に満足感を覚える。
彼女の意識を支配しているのは自分だと思うと、優越感も感じた。
忍が、こんなに性急にも綾子を組み敷いたのには、彼なりの理由があった。
先ほど、二人は観覧車に乗った。
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それまで、綾子の心の中は忍で一杯だった。
それなのに、綾子の故郷は――家族は、一瞬にして彼女の意識を全て持って行ってしまった。
家族に嫉妬だなんて、ひどく馬鹿らしいことだ。忍は、自分でもそう思う。
しかし、綾子と出会うまでこんな嫉妬心などとは無縁だった彼には、それをどう扱っていいのか分からなかった。
わき上がった激情のまま、忍はとにかく綾子を征服してしまいたかった。
彼女の心も、身体も、全て――。
「ん、ああっ……!」
忍に容赦なく責め立てられ、綾子はまた呆気なく上り詰めた。
彼女の中が、忍自身をぎゅうっと抱き締める。
その刺激に促されて、忍も薄い膜越しに爆ぜた。
極上の心地良さの後には、背中からどっとのしかかるような濃い疲労感が襲ってくる。
それに押し潰されるようにして、忍は綾子の上に倒れ込んだ。
「綾子……」
息が乱れたまま、彼女の名を呼ぶ。
涙で濡れた瞳が、忍を見つめ返した。
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楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
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