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4章
ラースのアトリエ③
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「そろそろ仕事の本題に入ろうか。」
「あっ、はい! 自分なりに個展のテーマを考えてきました」
(そうだった、そうだった…… 今日もかっこいいなとか、ぼんやり眺めてる場合じゃなかった!)
「ありがとう。どんなものか聞かせて?」
ラースはほほえみながら、コーヒーカップに口をつける。
「テーマは『暮らしの調和、安らぎのデンマークデザイン』です」
「ふーん、そのこころは?」
「ラースさんは誰よりも、自然を大切にしていると思うんです。 そこがすごいなと感じていて。 作品は、陶芸作品もテキスタイルデザインも、自然の草木のモチーフが多いですよね」
「そうだね、振り返ってみれば、自然をモチーフにした作品が多いね。そして、それを評価してもらえていると自負しているよ」
「今思ったのですが、机にあるスケッチラフを見ていると、その作品が誰かの生活になじむのかを第一に考えてるのかなって。例えば、ひとり暮らしの男性のリビングに飾られるとしたらどうなのかなとか、ファミリーならどうかとか。お皿だと、飾るよりも使って欲しいじゃないですか。じゃあ、どんな人がこれを使うのかとか。それを何よりも誰よりも一番考えてるのは、ラースさんだと思います。その気持ちを表現できる個展にしたいんです」
「なるほどね。郁が今までにないくらい、饒舌に話してるなんて驚きだ」
「もー、からかわないでくださいよ! 以前、ラースさんは自分のデザインのことを、 使いやすさとか機能美を重視しているって言ってましたよね? それって心地よく使って欲しいって、一番思っているからだと思うんです。その思いがデザインに凄く表れていると思っているし、それを全面に押し出した個展にしたいんです。見に来た人が癒されるような。来てよかったって思ってもらえるような。そんな個展にしたいんです。」
「ふーん。たしかに、使いやすさ、機能美を大切にしているよ。今までの僕の個展とは毛色が違うね。それで?」
「と、当然ラースさんの作品を、日本でもっともっと広めていきたいという気持ちもありますけれど。個展を見に来てくれた人が癒されてくれて、リラックスしてくれて…… 。欲を言えば、今使っているお皿やものたちを丁寧に使っていこう!大事にしていこう!って思ってくれるような。そんな空間を俺は作りたいんです」
「なるほどね。」
ラースは出窓から差し込む陽の光をジーっと眺めながら、なにか考えているようだ。
(怒ってる……?あれこれ直球で言い過ぎたかな……)
長く感じる無言の空気を、じっと耐える。
「 郁の気持ちはわかったよ。今まで開いた僕の個展はどちらかと言うと、デザイン性が強くて、僕の真骨頂はこれだ! っていう作品を展示していることが多かったんだ。個展のためにつくったようなね。それも間違いじゃないんだけどね」
「ええ、今までのどの個展も素晴らしかったです!」
「郁は、僕のことなんでも知ってるね~ それと、僕のアトリエに来るのは初めてなのに、ざっくばらんに書いたスケッチラフとか、目ざとく見てるよね?」
「えへへ、そうですか? コーヒー淹れてもらってる間、スケッチブックが視界に入って、思わず覗いちゃいました」
「やっぱり目ざといな。 そうさ、僕が大切にしているのは、 その人の生活にとって日常生活に馴染むもの 。使いやすいもの。手にしっくり馴染むもの。華美なものじゃなくていいんだ。見に来てくれた人が、リラックスした気分で帰っていく個展は、そうそうないよね。」
「 はい。俺もそう思います。奇をてらったテーマじゃなくて、今回は『ナチュラルで安らげる』 そんな空間作りが僕はしたいんです。ラースさんはどうですか? そして、できればなんですが、この個展で陶芸作品とテキスタイルともに、新シリーズを発表できたらなとも思うんです。大それた無茶なお願いではあるんですが、いかがでしょう?」
「 んーいいよ。それでいこうか。方向性は…… そうだね、僕は最近まで ニューヨークに行っていたんだけど、その間考えていたことがあるんだ。新シリーズね…… テキスタイルも陶芸もそうだけど、まだ思案中だから、多くは語れないんだけど、ぼんやりとした考えはある。 それを発表できるといいね」
(やった! 個展の会期終了まで、表現者としてのラースさんの側にいられるんだ……)
なぜか分からないが、胸がツキンと痛くて苦しい。それでも、一緒にいられる喜びがまさる。
「 わあ、ありがとうございます! 多分ファンの誰よりも、僕が一番楽しみにしている気がします。 ラースさんの大ファンですから」
「 ありがとう。郁からこんなに熱烈なラブコールをもらえるなんて思っても見なかったよ」
「ラブコールだなんて! そんなんじゃないですよ!ただ、僕の気持ちを伝えたくて」
ラブコールと言われると、ますます恥ずかしさが込み上げてくる。ラースにも伝わるくらい、顔が真っ赤になっている自覚はある。
「その言葉を僕はラブコールと受け取ったの。郁はいつだって、昔から変わらないね。いつも勉強熱心で、前を向いてて。真っ直ぐに相手と向き合って…… そんな姿を見てると、僕まで頑張ってやろう!って気持ちになるよ。学生時代、初めて会った時から、僕はそう思ってたよ。カオル?」
「あっ、はい! 自分なりに個展のテーマを考えてきました」
(そうだった、そうだった…… 今日もかっこいいなとか、ぼんやり眺めてる場合じゃなかった!)
「ありがとう。どんなものか聞かせて?」
ラースはほほえみながら、コーヒーカップに口をつける。
「テーマは『暮らしの調和、安らぎのデンマークデザイン』です」
「ふーん、そのこころは?」
「ラースさんは誰よりも、自然を大切にしていると思うんです。 そこがすごいなと感じていて。 作品は、陶芸作品もテキスタイルデザインも、自然の草木のモチーフが多いですよね」
「そうだね、振り返ってみれば、自然をモチーフにした作品が多いね。そして、それを評価してもらえていると自負しているよ」
「今思ったのですが、机にあるスケッチラフを見ていると、その作品が誰かの生活になじむのかを第一に考えてるのかなって。例えば、ひとり暮らしの男性のリビングに飾られるとしたらどうなのかなとか、ファミリーならどうかとか。お皿だと、飾るよりも使って欲しいじゃないですか。じゃあ、どんな人がこれを使うのかとか。それを何よりも誰よりも一番考えてるのは、ラースさんだと思います。その気持ちを表現できる個展にしたいんです」
「なるほどね。郁が今までにないくらい、饒舌に話してるなんて驚きだ」
「もー、からかわないでくださいよ! 以前、ラースさんは自分のデザインのことを、 使いやすさとか機能美を重視しているって言ってましたよね? それって心地よく使って欲しいって、一番思っているからだと思うんです。その思いがデザインに凄く表れていると思っているし、それを全面に押し出した個展にしたいんです。見に来た人が癒されるような。来てよかったって思ってもらえるような。そんな個展にしたいんです。」
「ふーん。たしかに、使いやすさ、機能美を大切にしているよ。今までの僕の個展とは毛色が違うね。それで?」
「と、当然ラースさんの作品を、日本でもっともっと広めていきたいという気持ちもありますけれど。個展を見に来てくれた人が癒されてくれて、リラックスしてくれて…… 。欲を言えば、今使っているお皿やものたちを丁寧に使っていこう!大事にしていこう!って思ってくれるような。そんな空間を俺は作りたいんです」
「なるほどね。」
ラースは出窓から差し込む陽の光をジーっと眺めながら、なにか考えているようだ。
(怒ってる……?あれこれ直球で言い過ぎたかな……)
長く感じる無言の空気を、じっと耐える。
「 郁の気持ちはわかったよ。今まで開いた僕の個展はどちらかと言うと、デザイン性が強くて、僕の真骨頂はこれだ! っていう作品を展示していることが多かったんだ。個展のためにつくったようなね。それも間違いじゃないんだけどね」
「ええ、今までのどの個展も素晴らしかったです!」
「郁は、僕のことなんでも知ってるね~ それと、僕のアトリエに来るのは初めてなのに、ざっくばらんに書いたスケッチラフとか、目ざとく見てるよね?」
「えへへ、そうですか? コーヒー淹れてもらってる間、スケッチブックが視界に入って、思わず覗いちゃいました」
「やっぱり目ざといな。 そうさ、僕が大切にしているのは、 その人の生活にとって日常生活に馴染むもの 。使いやすいもの。手にしっくり馴染むもの。華美なものじゃなくていいんだ。見に来てくれた人が、リラックスした気分で帰っていく個展は、そうそうないよね。」
「 はい。俺もそう思います。奇をてらったテーマじゃなくて、今回は『ナチュラルで安らげる』 そんな空間作りが僕はしたいんです。ラースさんはどうですか? そして、できればなんですが、この個展で陶芸作品とテキスタイルともに、新シリーズを発表できたらなとも思うんです。大それた無茶なお願いではあるんですが、いかがでしょう?」
「 んーいいよ。それでいこうか。方向性は…… そうだね、僕は最近まで ニューヨークに行っていたんだけど、その間考えていたことがあるんだ。新シリーズね…… テキスタイルも陶芸もそうだけど、まだ思案中だから、多くは語れないんだけど、ぼんやりとした考えはある。 それを発表できるといいね」
(やった! 個展の会期終了まで、表現者としてのラースさんの側にいられるんだ……)
なぜか分からないが、胸がツキンと痛くて苦しい。それでも、一緒にいられる喜びがまさる。
「 わあ、ありがとうございます! 多分ファンの誰よりも、僕が一番楽しみにしている気がします。 ラースさんの大ファンですから」
「 ありがとう。郁からこんなに熱烈なラブコールをもらえるなんて思っても見なかったよ」
「ラブコールだなんて! そんなんじゃないですよ!ただ、僕の気持ちを伝えたくて」
ラブコールと言われると、ますます恥ずかしさが込み上げてくる。ラースにも伝わるくらい、顔が真っ赤になっている自覚はある。
「その言葉を僕はラブコールと受け取ったの。郁はいつだって、昔から変わらないね。いつも勉強熱心で、前を向いてて。真っ直ぐに相手と向き合って…… そんな姿を見てると、僕まで頑張ってやろう!って気持ちになるよ。学生時代、初めて会った時から、僕はそう思ってたよ。カオル?」
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