バトル・オブ・シティ

如月久

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セントラル・シティ

1.ジャニスの説教

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「ゲーム? 1週間以上も講義をさぼった理由が、オンライン・ゲームだって言うの。あきれた」
 リョウは、ヨッシーとの電話を切った後、すぐにジャニスに電話して、24時間営業のファミレスに呼び出した。午後10時を過ぎていたので、ジャニスは、リョウの誘いにちょっと躊躇した様子だったが、「分かった、30分後に行く」と返事した。
 ジャニスはいつも学校で見るよりも、マシな服装をしていた。ポロシャツにデニムという普通の大学生の恰好だ。ヘアバンドもなかった。化粧は薄めで、黒く長い髪の毛はきちんと梳かれていた。
「さっきはごめん」
 リョウはまず謝ってから、ヨッシーと一緒にハマっている「シティ」のことを説明したのだった。
「とにかく設定が細かくてリアルなんだ。街を大きくするためには、いろんなアイデアが必要で、うまく組み合わせないと、すぐに財政が破綻したり、人口流出したりしてゲームオーバーになる。子供だましのゲームじゃないよ。社会学や経済学の勉強をしているような気分だよ」
「でも、ゲームなんでしょう?」
「そうだよ。でも、かなり難解なゲームだ。これまでも似たような種類のものが発売されているけど、大事なところの設定に微妙な甘さがあって、少々失敗しても、結局は誰もがある程度の街が作れるようになっている。抜け道や裏技も用意されていて、ここをこうやれば必ずできる、みたいな安易な解決法があるけど、これは違うんだ。設定はシビアだし、たとえ裏技のような道を選んでも、その後の対応をきちんと取らなきゃ最後には必ず破綻するようになっている」
 ジャニスは半ばあきれた表情をしながらも、根気強くリョウの話しを聞いていた。
「ゲームの凄さはある程度理解したわ。なかなか知的で、ハマるのも分かるような気がする。でもね、それで講義をサボるのはないんじゃない? 1回や2回ならまだしも、1週間以上全部よ。こんなことしてたら、本当に留年するわよ」
 ジャニスは一生懸命、リョウを説得した。テーブルの上のミルクティーはとうになくなり、水だけをちびちびとなめながら、2人は話し込んだ。時計の針はとっくに午前零時を回っていた。リョウは最初にゲームのことを話し始めたときから、自分の分の悪さに痛いほど気付いていた。ゲームに取りつかれてからは、学校だけでなく、他の全てをうっちゃってきたのだ。どんな言い訳も通用しない。真剣な表情で学校に来るように説得するジャニスに、ついにリョウは根負けした。
「分かったよ。明日は必ず講義にでる」
 ジャニスは驚いた表情をした。そして、すぐに少しだけ目を細めた。
「みんな心配してるわよ。リョウとヨッシーはおかしくなったんじゃないかってね。実は、その『シティ』ってゲームのこと、少しだけ聞いたことあるのよ」
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