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夏休み編

2.

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「小山田くん、キィちゃんが人見知りでごめんね」
「気にしなくていいよ。それよりも、カズ。俺のことも桜って呼んでよ」
「え?」

 ぼくの心臓が跳ねる。

「いいの?」
「ああ、呼んでほしい」

 うわあ、ほんとにいいのかな?
 小山田くん人気者だし、ファンに後ろから刺されたりしない?

「さく……」
「だが断る」
「キィちゃんッ!!」

 なにがしたいんだ、キィちゃん!?

「オマエに付き合っているヒマはねえ」

 キィちゃんにいきなり腕を引っ張られた。

「行くぞ」
「ちょっ、キイちゃんッ!?」

 ぼくはその場で踏ん張ったけれど、キイちゃんのほうが力が強いので、引きずられていく羽目になる。

「カズ!」
「わあん、小山田くーん! 助けてええふがっ!!」

 べしっと口元をキイちゃんの手のひらでおおわれた。

「カズ――っ!!」

 ぼくたちが離れたとたん、小山田くんが女のコたちに囲まれてしまった。
 その光景はゾンビ映画さながらだった。ゾンビ恐い!! 女子恐い!!



「アイタぁっ!!!」

 ガツンとおでこを壁に打ち付けたぼくの目の前に星が散った。

「キィちゃん! 何すんの!?」

 振り返るとキイちゃんの整った顔が、すぐ近くにある。
 男ふたりで入るにはさすがに狭い。そう、ここは男子トイレの個室の中だった。

 キイちゃんの顔が間近に迫ったので、反射的に目を閉じた。

「っふ、ん……んっ!」

 キイちゃんの舌が、ぼくの口の中をめちゃくちゃに暴れ回る。
 抗議の声を上げようとするけれど、すぐにふさがれて息すらもままならない。

 飲みきれない唾液がぼくのあごを伝い、鎖骨まで流れていく。
 その感触に背筋をぞくぞくさせていると、ようやくキイちゃんがぼくから離れた。

「キイちゃん! なに考えてんのッ!?」
「うるせえよ」

 キイちゃんの言葉に口を閉じると、廊下からざわめきが聞こえてきた。
 みんなが集会のある体育館へと移動を始めたらしい。

 1階のいちばん奥のトイレといえども、だれが通るかわからないので、つい息をひそめてしまう。

 ざわめきはどんどん離れ、静かになっていった。

「……キイちゃん、ぼくらも集会に行かなきゃ」
「ムリ」
「無理って……」

 お腹にかたいモノが当たった。
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