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第2章 閃火に狂い舞う

居心地のいい場所へ

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 目覚めはあまりよいとはいえなかった。
 気怠さが全身に絡みつく。
 サラはひじを使って半身を起こす。

 ゆっくりと部屋を見渡す。
 屋敷ではないことはすぐに分かった。
 ここは見慣れた部屋。大好きな場所。

 清潔で真っ白な壁と必要最低限の家財道具。
 かすかに漂う消毒液の匂い。
 人はこの匂いを嫌がるらしいが、サラはこの鼻につんとくる匂いがけっこう好きだった。
 安堵の息が唇からもれる。

 無事に、ベゼレート先生の所に運び込まれたのだ。
 緩やかな笑みを口元に浮かべ、視線を窓の方へと移す。
 出窓に飾られた白く可憐な花が心を和ませた。
 かすかな水滴に濡れる花弁、ぴんとたった茎。おそらく、テオが目覚めたサラのために買い求めたものであろう。
 テオのさり気ない心遣いに、サラは感謝の言葉を胸中に述べた。

「気分はどう?」

 そこへ、まるでサラの目覚めを予知したかの絶妙さで、テオが姿を現した。
 手には湯気がたつ深皿が乗った盆。
 中身はスープだった。
 テオはその盆をサラの前へ差し出した。

「あまり食欲はないだろうけど、少しでも口にしたほうがいい。それから、今日一日はおとなしく寝ていること。これは約束だよ。いいね?」
「テオ……ごめんなさい」
「うん?」
「薬のこと……」

 テオは困った顔で苦笑した。
 ちょっとやそっとの発熱では、トランティア家の医師たちもあまり深刻にはならなかったであろう。高熱と胃の腑に刺激を与えることで嘔吐を引き起こさせ、苦痛を訴えるという症状を作りだして医師たちを混乱させる、という荒技であった。と、テオは語ってくれた。

「おかげで、僕は先生にひどく怒られたよ。責任として、サラの手伝いをすることだって」

 私の手伝い? と、サラは首を傾げた。

「あいつを探すんだろう? 僕も協力するよ」
「テオ……」

 心強いテオの言葉にようやく満面の笑みを浮かべ、サラは大きく頷いた。
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