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第3章 罪火、戸惑いに揺れる心
戸惑う心
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互いに見つめあう二人の間に、沈黙が落ちる。
皮むきをしていたサラの手も、ぴたりと止まったまま。
シンの真剣な眼差しに縛られたかのように、そのまま硬直している。
本当はどうしようか迷っている。
自分の心に正直になるべきか、抑えるべきか。
この迷いを吹っ切り、サラを自分のものにしたいと思ったその瞬間から、俺は間違いなく止まらなくなる。
どんなことをしてでも、サラの心を手に入れようとする。
たとえ、彼女を困らせるようなことになったとしても。
さあ、サラどうする?
俺の思いをどうやって受け止める?
あるいは、どうやってかわす?
答えてみせて。
よもや、告白されるとは、思ってもいなかったのだろう。いまだ、呆然としているサラを見つめ、シンは彼女が口を開くのを待ち続けた。
「私……」
ようやくサラが声を発したその時。
「おい、ちゃんと仕事しているだろうな? じゃがいもの次は……」
不意にテオが現れ、台所の入り口から顔をのぞかせた。
「やってるよ!」
テーブルをばんと叩いて、シンは怒鳴り返す。そんなシンの心情も知らず、テオは眉根を寄せた。
「居候のくせに態度がでかいな。って、何だよこのじゃがいも! ほとんど実がないじゃないか。もったいない皮の剥き方するな」
テオはいびつに剥かれたじゃがいもの一つを手に取り、じろりとシンを睨みつける。
「テオ、それ私が剥いたじゃがいもなの」
サラがごめんなさい、と落ち込んだように手元にある剥きかけのじゃがいもに視線を落とす。
途端、テオの顔つきが変わった。
「え? あ、そ、そうだったんだ……サラだったんだね。いやいや、こういうこと慣れてないんだから仕方がないさ。でも、サラはこんなことしなくても、お部屋で好きなことしていて」
「私も何かお手伝いしたいと思って……」
「そうか……サラは偉いね。ナイフには気をつけて、指を切らないようにね」
「ごめんね」
「いいんだよ。あ、僕はまだ仕事があるから。サラもほどほどにね」
テオは引きつった笑いを浮かべ、台所から去っていってしまった。
最後にもう一度、ちゃんとやれよ、といわんばかりの冷ややかな視線をシンに向けて。
何なんだよ、あいつは!
殺気のこもった目でシンは入り口を睨みつけるが、すでにそこにテオの姿はない。そして、テオの出現により、それまで支配していた空気ががらりと変わってしまった。
「ありがとう。私もシンが好きよ!」
サラはこれ以上はないというくらい、満面の笑みを浮かべ無邪気に答える。
シンの肩頬がぴくりと動いた。
「そう返されるかなと、想像はしていたけど……」
予想通りの反応に、シンはこめかみに指先をあてた。
軽くため息を落とし、がくりと肩を落とす。
「少しは俺を男として見てくれないわけ?」
「あら、もちろんシンを男だと思ってるわ。だって、男でしょう?」
変なのと、サラはおかしそうにくすくすと笑った。
そうじゃなくて……と、シンはナイフをテーブルに置き、頬杖をついてサラを見る。
「俺のこと、まったく男として意識してない?」
「意識? 分からないけれど、昨日の怒ったシンは怖くて心臓が破裂するかと思った。私二度とあなたを怒らせないわ」
サラは再びじゃがいもの皮むきを始めた。
つまり、自分は恋愛の対象として見られてはいないということだ。
まあ、いいや。
焦ることもないか。
頬杖をついたまま、シンは口元に笑みを浮かべ、必死に皮むきをしているサラを見つめる。
「手、切るなよ」
「わ、分かってる」
「ほんと不器用だな」
「うう……それは言わないで。これでも頑張ってるのよ」
「で? 俺のところに来た本当の理由は何? 何か言いたいことがあって来たんだろ? いや、もしくは聞きたいことか」
なかなか切り出せずにいるサラにきっかけを与える。
どうせ、あいつのことだろうことは分かっているけど。
そして、サラはうん……とうなずいた。
皮むきをしていたサラの手も、ぴたりと止まったまま。
シンの真剣な眼差しに縛られたかのように、そのまま硬直している。
本当はどうしようか迷っている。
自分の心に正直になるべきか、抑えるべきか。
この迷いを吹っ切り、サラを自分のものにしたいと思ったその瞬間から、俺は間違いなく止まらなくなる。
どんなことをしてでも、サラの心を手に入れようとする。
たとえ、彼女を困らせるようなことになったとしても。
さあ、サラどうする?
俺の思いをどうやって受け止める?
あるいは、どうやってかわす?
答えてみせて。
よもや、告白されるとは、思ってもいなかったのだろう。いまだ、呆然としているサラを見つめ、シンは彼女が口を開くのを待ち続けた。
「私……」
ようやくサラが声を発したその時。
「おい、ちゃんと仕事しているだろうな? じゃがいもの次は……」
不意にテオが現れ、台所の入り口から顔をのぞかせた。
「やってるよ!」
テーブルをばんと叩いて、シンは怒鳴り返す。そんなシンの心情も知らず、テオは眉根を寄せた。
「居候のくせに態度がでかいな。って、何だよこのじゃがいも! ほとんど実がないじゃないか。もったいない皮の剥き方するな」
テオはいびつに剥かれたじゃがいもの一つを手に取り、じろりとシンを睨みつける。
「テオ、それ私が剥いたじゃがいもなの」
サラがごめんなさい、と落ち込んだように手元にある剥きかけのじゃがいもに視線を落とす。
途端、テオの顔つきが変わった。
「え? あ、そ、そうだったんだ……サラだったんだね。いやいや、こういうこと慣れてないんだから仕方がないさ。でも、サラはこんなことしなくても、お部屋で好きなことしていて」
「私も何かお手伝いしたいと思って……」
「そうか……サラは偉いね。ナイフには気をつけて、指を切らないようにね」
「ごめんね」
「いいんだよ。あ、僕はまだ仕事があるから。サラもほどほどにね」
テオは引きつった笑いを浮かべ、台所から去っていってしまった。
最後にもう一度、ちゃんとやれよ、といわんばかりの冷ややかな視線をシンに向けて。
何なんだよ、あいつは!
殺気のこもった目でシンは入り口を睨みつけるが、すでにそこにテオの姿はない。そして、テオの出現により、それまで支配していた空気ががらりと変わってしまった。
「ありがとう。私もシンが好きよ!」
サラはこれ以上はないというくらい、満面の笑みを浮かべ無邪気に答える。
シンの肩頬がぴくりと動いた。
「そう返されるかなと、想像はしていたけど……」
予想通りの反応に、シンはこめかみに指先をあてた。
軽くため息を落とし、がくりと肩を落とす。
「少しは俺を男として見てくれないわけ?」
「あら、もちろんシンを男だと思ってるわ。だって、男でしょう?」
変なのと、サラはおかしそうにくすくすと笑った。
そうじゃなくて……と、シンはナイフをテーブルに置き、頬杖をついてサラを見る。
「俺のこと、まったく男として意識してない?」
「意識? 分からないけれど、昨日の怒ったシンは怖くて心臓が破裂するかと思った。私二度とあなたを怒らせないわ」
サラは再びじゃがいもの皮むきを始めた。
つまり、自分は恋愛の対象として見られてはいないということだ。
まあ、いいや。
焦ることもないか。
頬杖をついたまま、シンは口元に笑みを浮かべ、必死に皮むきをしているサラを見つめる。
「手、切るなよ」
「わ、分かってる」
「ほんと不器用だな」
「うう……それは言わないで。これでも頑張ってるのよ」
「で? 俺のところに来た本当の理由は何? 何か言いたいことがあって来たんだろ? いや、もしくは聞きたいことか」
なかなか切り出せずにいるサラにきっかけを与える。
どうせ、あいつのことだろうことは分かっているけど。
そして、サラはうん……とうなずいた。
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