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第4章 鎮火、その藍の瞳に堕ちて

会いたかった人が

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 ベッドに突っ伏し、サラは枕に顔を押しつけ肩を震わせた。
 私に触れていいのは、ハルだけなんだから。
 あんなやつなんかに!

 あまりの悔しさに心が千切れてしまいそうであった。
 どうにもおさまらない怒りに、サラは血が滲むほど唇を強く噛む。
 結局、自分ひとりの力ではどうにもならないことを、あらためて思い知らされた。
 どんなに抗っても、家というしがらみから逃れることはできないのだと。

 恋愛くらいは自由にという望みすら許されない。
 ならばいっそうのこと、何もかも捨てて逃げるという選択もあるが、何不自由ない環境で育てられた小娘が世間に飛び出して何ができようか。
 どうやって生きていけよう。

 つまり、そんな勇気も度胸も本当はないのだ。
 祖母もそれを見透かしていた。
 テオの家に逃げ込んでいたのも、たわいない抵抗と鼻で笑っていたのかもしれない。

 そんなことも気づかずに、いい気になっていた自分が恥ずかしくさえ思う。
 それが悔しくてたまらない。
 ともすれば落ちてしまいそうになる涙を懸命にこらえる。
 泣かないってシンと約束したから。

「ハル……」

 サラの唇から愛する人の名が呟かれる。

 会いたい。
 ハルに会いたい。

 はたして少女の切実な願いが天に届いたのか。それとも、ただ幸せな夢をみているだけなのか。
 その時、緩やかな風が部屋の中へと流れ、頬をそっとなでる。
 清涼な夜の空気を運ぶ静かな風が……。

 そろりと顔を上げ、サラは身体を起こした。
 ゆっくりと、バルコニーへと視線を移していく。
 窓は閉めておいたはず。
 なのにカーテンのひだが静かに波打って揺れ、そこから射し込む月明かりが磨かれた床に蒼い光を落とす。

 カーテンの向こう、暗がりの中、月の光を受けてたたずむ人影にサラは息を飲む。
 その人物の顔までははっきりとわからなかった。
 だが、その人影は。
 サラは目を見開き、口元に手をあてた。
 ベッドから飛び降りバルコニーへと走る。
 折り重なったカーテンをもどかしいとばかりに一気に開く。

 そこに立っていたのは──。
 闇を照らす皓々と輝く月を背に立つしなやかな姿。

「ハル!」

 顔をほころばせ、その名を呼ぶと同時に、相手の胸に飛び込んだ。
 もう離さないとばかりにその背に両手を回し、きつくしがみつく。

「会いにきてくれたのね! ハル!」

 けれど、喜びにうち震えるサラの両腕にハルの指が強く食い込んだ。
 容赦なく締めつけてくるその痛みに眉をひそめ、サラはハルを見上げる。
 見下ろしてくる瞳の峻烈さに、かすかな怒りと苛立ちを感じるのは気のせいか。

「ハル?」
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