【R18】双子の妹を愛するナルシストな婚約者は、大切な妹の代わりに婚約者である私を悪魔公の元に嫁入りさせる

迷い人

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03.嘘偽りに惑わされるつもりはない

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 広いソファの上で重なり合い、口づけ合い、囁き、そして寝息に語るフランとフレイ。

 そこに居ろと命じられていた私は、テーブルの下にある物置部分から本を1冊取り出し、ページを広げて栞をトップのページに挟む。

 ページが半分を進んだ頃、ユックリとした動きで、妹のフレイが頭を上げて視線を外へと向けた。

「雨が降りそうですわ」

 寝起きだからか? 雨が嫌いなためか? 空は明るいにもかかわらずフレイの声は何処までも不機嫌そうで、兄の身体の上に自らの身体を重ねて眠っていたフレイは、身軽な動きで起き上がり立ち上がる。

「行くのかい?」

 そう聞くのは兄フラン。
 そして、不貞腐れた声で返すのはフレイ。

「えぇ、雨は嫌いだもの」

「そうなんだ」

「知っているでしょう」

「そうだね。 知ってるよ」

 フランは静かに笑いながら答える。

 2人は顔だけでなく声もとても似ている。 今の拗ねたようなフレイの声は、街で理不尽を言っていた時のフランと似ているし。 フランの今の穏やかで甘味のある声は、人前で会話を控えているフレイと似ている。

 初対面の人間が、1日2人と過ごすならきっと困惑してしまうだろう。

 不機嫌そうに、双子の兄フランの上から退いたフレイは、横を通る時チラリと私を見下ろした視線が強く揺らめきフレイは顔をしかめた。

「私がいない時に、色目を使わないでよね。 許さないから」

 強い言葉も聞こえないふりをする。 言う事を聞く気がないからではなく、ずっと、この部屋ではいない振りをしていたから。

 彼女がそこまで言いながら、兄を残し去って行ったのは食欲故。 本人は知られていないと思っているが領地の誰もが知っている事実。 彼女が消して病弱でも食が細い訳ではなく、誰よりも強く、誰よりも多くの食事を必要とする事。

 食い意地が張っているからではなく、そう言う体質なのだから仕方がない。



 フレイが去ったあとも沈黙は続く。
 そして、沈黙を破ったのはフランだった。

「お茶の……お代わりを貰えないだろうか?」

「はい、シバラクお待ちください」

 二杯目は、何時もジンジャーとレモンを加えたものを好む。

「ノエルは、僕を奪おうとは思わないの?」

 どこか甘えた口調で聞いてくる。 ティーポットに向けた視線が軽蔑で歪みそうになるのを必死に耐え微笑んだ。

「お二人が幸福であらせられるなら、それで十分ですわ」

「僕は、結構ノエルのことが……好きなんだけどね」

「嫌いではない。 その同義語が、好きだとは知りませんでした」

 もし、第三者の視線があれば、僕はこんなに愛しているのに!! と空を見上げて声を大に言うだろう。 だけど観客の無い今は、ただニコニコと黙り込む。

「好きだよ」

「いつか、本気でその言葉を言葉にする日が来る事を願っておりますわ」

 そう告げれば、肩を竦めどこか諦めたように甘く囁いてくる。

「騙されてはくれないのかい?」

「その言葉に騙されて、惨めになれと……? その言葉を信じて、フレイ様を恋人のように接するアナタに怒りを覚えろと? フレイ様の怒りを買えとおっしゃるのですか?」

「その時は、フレイよりもノエルを優先させるし、フレイを大人しくさせるよ。 君は僕の婚約者だろう? 僕だって僕を愛さない人間に、優しくする事は難しいんだよ」

「嘘つき」

 そう短く告げて、カップをテーブルに置いた。

 彼は、私を愛していない。
 彼は、私を好きではない。
 好きではないが、好ましくは思っている。

 彼が私を好ましく思う理由は簡単だ。

 弁えているから。

 辺境伯の領地内の娘達、王都の貴族令嬢達は、彼に好意を抱き接してくる。 大抵は、フレイが不機嫌丸出しで排除してしまうが、フランさえその気になればフレイを出し抜き、デートをするぐらいは可能だ。

 そもそも、フレイはフランに対しては忠実なのですから(溢れ出る三大欲求を除く)

「まぁ、愛があろうとなかろうと、ノエルは何れ僕の妻となる予定だし。 僕の子を産むことになるのだから、断れない政略結婚だと諦めるよりも、騙されていた方が気持ちは楽だと思うけど?」

「そうかもしれませんね」

 政略結婚というのは、未だによくある。
 むしろ大半の貴族はそうだろう。
 そう言う意味では、私は往生際が悪い。 いえ……愛することもなく、愛されたいとも思わないのだから往生際が良い?

「ですが……好きでないと、必死にアピールをされて好意的になれるはずもありません」

「そこは、僕の前だけでいいから可愛くアピールすべきではないかな? そうすれば、僕は2人キリの時ぐらいは優しくするよ」

「そろそろ日も落ちますわ。 不毛な会話はお開きにいたしましょう早く帰りやがれ

 幼い頃……美しい婚約者に、必死に好かれようとした。 そのたびに向けられるのは冷ややかで侮蔑の混ざった視線であり、拒絶の言葉だったのだから、今更と言う奴だ。 騙すならその頃から丁寧に騙し上げてくれというものだ。



 こうまで婚約を続ける理由は簡単。
 親の決めた政略的な婚約だから。

 両親が、夜盗に狙われたときに、当主に助けてもらったから。 そして小さいが領地を所有するルーマン子爵領が水害による不作に見舞われた時。 助けてもらった……というか、かなりの借金を築いてしまった。 ソレを返すために売られたのだ。

 私が逃げれば、莫大な利子と共に借金を返済しなければならない。

 何しろ、向こうは前向きに愛し合おうと提案と言う形をとっているのだから……。

「さて、僕も失礼するよ。 夕食をフレイに食べつくされてもイヤだからね」

はい、お気をつけてお戻りくださいませ卑怯者

 そして私は一人残された小ぶりな屋敷で、食事の準備に取り掛かる。





 とても心地よい秋晴れの日。

 フレイの食欲が減っている事を、侍女達がコソコソと話している。

「フレイ様が、食事をお残しになるなんて」
「例年であれば、冬ごもり前の熊のように食べまくるのに」

 揶揄するところがあるのは、声色でわかった。 彼女達は私の敵ではないが味方でもなく、嫌がらせに嘘を付く必要もなければ、喜ばせるために情報を与えに来たわけでもない。 ただ、木の上で林檎を取っている私が見えていないだけ。

 とうとう一線超えてしまったのですか……。

 きっと、私は嫌悪と侮蔑で凄まじく顔をゆがめている事でしょう。

 侍女達は領地のもの。
 この噂は直ぐに広まるだろう。

 私は、何も知らない。 何も聞かない。 そんなふりをして自分の住まいに戻れば、建物の片隅から顔をだすフレイがいた。

「お願い、助けて……殺されてしまう」

 私は侮蔑のこもった視線をフレイに無意識で向けていた。
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