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4章 化け物聖女

23.夕日に溶ける蜂蜜のように

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 応接室へと通された早々に精霊ギルドの長が苦言を呈する。

「あのようなやり方をせずとも……もっと穏便にできんのか。 今は味方を増やすべきだろうが」

 それでも、魔力補給に閉鎖回路の開通、汚れの浄化等の効果がある。

「貴方達を助けさせて下さい、お願いします。 なんて私がお願いしている訳じゃないもん」

「聖女様らしい態度と言うものがございましょう」

「聖女と言うのは、嫌な思いをさせられても耐えるものなの?」

「耐えろとは申しませんが、大きな力を持つものは偉大さを持ち、公平であるべきではありませんか?」

「私に悪意を向けてくる人と、善意を向けてくる人に同じ態度をとる事が公平だとは、私は思いませ~ん!!」

 そう言えば、公爵がだね~とか言ってゆるゆるに微笑んでくる。 お前が、一番最初に私を殺そうとしたんだがな!! と、言う言葉を飲み込み、腕の上に乗せられている私は、その胸元に蹴りを入れて床に降りて振り返れば、やっぱりヘラリと笑っていて、足元をもう一つ蹴っておいた。

「その暴力的なのも印象が良くない」

「私以外にはこんなことしませんよ。 親子だからこそです」

 そう言って得意げに胸を張りだす。

 イラッ。

「まぁ、いいわ。 それで、今日は精霊との会話に付き合うって話じゃなかったの?」

 そう、ロノスの命令により小精霊が私に未だ近寄らない状態。 そしてアリアメアは異常なほどに精霊に愛されていた。 その点をはっきりして欲しいとかどうとか言われたのだ。

 上位精霊のロノスが命じたから。 答えは簡単なのだけど、この国は小精霊の減少、力の減退もまた社会的な問題となっている。 それは魔力自体が多くなく、特殊な目、声を持つ精霊使いにとって大きな問題と言えるだろう。

「確かに、精霊の回復は我々にとって、人生を左右する大問題と言っていい、だが……」

 ちらりと精霊ギルドの長が、神官長へと視線を向けた。

「聖女様の癒しの効果が広まっております」

 昨日まで、同じようにヨボヨボと歩いていた人が、急に娘ほどの見た目にまで若返り、でシャキシャキ働きだせば、広めようと思わずともその恩恵にあずかろうと言う者が出てくるのも仕方がないと言うものだ。

「それこそ、さっきのように水に魔力を注ぎ込み、それを分け与えれば言い訳だから、大した手間はではないのだけど、原因を解決しなければどうにもなりませんよね。 それに、施しも私のこの姿を見れば、魔物が植え付けられているんだとか言って嫌がる者もいるでしょうからね」

「エリアル様は、ユリアに似ていて可愛らしい子だよ。 誰が、こんな可愛い子を魔物だ、化け物だと」

 とりあえず公爵の足を、ベシッと殴っておく。

「そう思うなら、穏便な方法を取ってください」

 言われて私は、はいはいと考え込む。

 正直言えば、公爵家で行ったお菓子作りは何かを意識したわけではなく、単純に私から漏れ出る魔力をお菓子が吸い込んだせいだ。 同様に、私と最も接触率が高い……高い……むぅううううう、公爵が最も体調が良いらしく騎士としての早朝訓練も再開したらしい。

 魔導医師の先生は、魔力コントロールが上手いためそれほど消耗はしていなかったと聞いている。 私の魔力の塊を怪訝な目で見ていた精霊使い達だが、公爵家の使用人等は、私の抜け毛や爪、それこそ風呂に入った後の湯までありがたがっている。 流石に風呂の湯を飲むのはやめて欲しいとは言っているが……。 悪い人間の手に渡れば、どういう使い方をされるか分からない。 公爵には後で話をしないとなぁ……。

 チラチラ見れば、何? 何? 抱っこする? と、きらきらした目で見てきて微笑んで、両手を差し出してきて、私は盛大な溜息をつくのだった。



 まぁ、結局のところ、救済を求める民をどうするか? と言うのが会議の議題らしい。

「そういうのは大人に任せる~」

 私は都合よく公爵の膝の上へと移動すれば、ヘラリと笑って。

「うんうん、任せて任せて~」

 なんて言ってくる。

 とは言え、私もどれだけの魔力でどれだけの影響を与えるか分からない。 そんなことを気にしなくても良い環境で生きてきたから。 それを伝えれば、精霊ギルドの中から魔力を見る事に長けた精霊がシバラク私に就く事となった。

 この場合、個人の意思ではなく、契約者との契約だから私の側にいてもセーフとなる。

 ごちょごちょと、精霊が契約主に何かを頼んでおり、後で聞いたところ『仲良くするように』と契約内容に入れて欲しいと言う事だった。

 聖女は精霊に愛される。

 聖女の定義は分からないけれど、それは不変的なものらしいと本で読んだ。 ニコニコしてまとわりついてくる精霊と、公爵が睨みあってもとりあえず気にしない事にして、話は進める。

「とは言え、その外見は聖女としての説得力が問題となります」

 神官長を睨みつける公爵。

「聖女であるエリアル様に、不敬な事を言う輩など……」

「父様うざい!!」

 公爵と言えば仕事モードで延々と正論でうざがらみされるが、父と呼べばどんな理屈も捻じ曲げて大人しくなるから、時々利用する。

「別に難しく考えなくても、以前言っていた通り代理を立てればいいじゃないですか。 見目の良い女性を」

 出されたお茶は、年寄りたちが集まる場だからか熱くて舌がやけどしそうだった。 そして長達は聞かれていたとは思っておらずバツの悪そうな顔をし、お互いに押し付けられないかと顔を見合わせていた。

「それは……」

「いや」

「その……公爵……」

「代理、良いんじゃないですか? 聖女様は凄く目立つ方ですからねぇ。 有名になると誘拐されてしまうかもしれません。 うんうん、代理、それはいい、私は賛成ですよ」

「なら、魔力は欠片でいいよね。 そちらで濃度調整をして、人に与えてくれれば問題なし!!」

 なんて終わるわけもなく……聖女の扱いに関して沢山沢山話し合いが続いた。 そんな日の帰り道は、馬車を使わず徒歩で歩く。

 公爵はとても目立つ容貌をしている。 なのにまるで夕日に溶けたかのように誰も公爵を気にかけない。 まるで魔法のように。 そんなことを考えながら、手をつないで歩いていれば、転びそうになってしまって慌てて抱き上げられた。

「何? 本当は、人前でチヤホヤされたかった? 甘やかされたいなら私がどんな願いもかなえてあげるよ」

「公爵は……」

 こういえば、静かに苦笑いをする。

「公爵は綺麗だね」

 言えば、複雑そうな顔で笑った。

「ユリアも良くそう言ってくれたよ。 私は、君たちの猫のような瞳と、気まぐれで、大胆で、訳の分からないところが大好きだよ」

「それ、ほめてない」

「そうかなぁ?」

 まるで、目に見えない母でもそこにいるかのように、とても優しく微笑めば、蜂蜜色の髪が夕日の色に溶けそうになっていた。
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