化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

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6章 居場所

37.それは最重要議題とは言えない

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 来訪者は宰相、そして馴染の魔法機関の長達。

「お茶の準備を」

 彼等を案内してきた侍女に言ったつもりだったが、答えたのは魔人だった。 そう言えば、なんて名前なのだろう?

「了解いたしました。 お嬢様」

 恭しく礼をし、お茶の準備を始めるが、さっきのお茶も本人(?)が飲んでしまったため、まともに飲めるものを淹れられるのかと考え込んでしまう。

 私の魔力が常に漏れ出て周囲に影響を与えているように、魔人の魔力が飲食物に影響を与える事があるかもしれない。 そう考えると、少しヤバイような気がしてしまう。

「やっぱり、いいわ……日頃からお世話になっている方々ですもの。 私が淹れましょう」

 お茶を淹れながら、要件を聞く。

 報告と言うほどのものはないけれど、魔人が消えた事による今後の影響をいかに抑えるか? そして、魔人がいなくなった以上、王家をつぶすべきだと言う意見が出ていると言う内容だった。

「私が言うまでもないでしょうけど、次の頭をどうやって決めるかを考えてから行動するよう気遣うべきだと思いますわ」

 宰相へと視線を向けて言う。

「えぇ、分かっております」

 にっこりと胡散臭い笑みを浮かべる。

 エミール・グルゴリエ。

 彼はまだ若い……いえ、私よりは随分と年上ですが、父様と変わらない年齢。 代々、国の政策を総括する宰相を多く出している一族出身ではあるのだけど……先代から強引に宰相の地位を奪い取った事から良く思わない者も多い。

 王族を傀儡として、強硬な政策も多く取ってきた。 現状のような混乱期には、強硬に物事を進められる人は必要なのでしょうが、王位剥奪を勢いのまま動くのは、私は恐ろしいと思ってしまう。

 ……いいわ、どうせ政治は専門外だもの。
宰相と3人の長にお茶を出し、席に座り私は尋ねる。

「それで魔人のいなくなった今後と言う事ですが、私にお答えできることがあるなら、お答えしましょう」

 質問の多くは、宰相からだった。 魔法機関の長3人は、私が聖女の地位につく以前から長を務めており、その3人を伴っている以上、私から聞ける話等限られている……のだ、本来なら……。

「魔人がいなくなった影響、どのように現れますか?」

 私はチラリと、魔導師長を見た。 

 今まで、発生と共に魔人に退治されていた魔物は、そのまま放たれてしまうだろう事。 その魔物を退治した場合、ゴースト系の魔物が殆どのガーランド国では、魔核以外の魔力そして汚れは大気、水、大地に吸収される。 これらの事は、魔人封じの水晶が限界に来ており、新しいものを作るのが不可能と分かった段階で、既に話し合われていた。

「それらの説明は、宰相もご存じだと思いますが?」

 宰相の顔面がピクッと痙攣したが、私はソレを無視する。

「えぇ、魔人封じに限界が訪れる事は想定内。 私が知りたいのは、今後どうするかです!!」

 言葉が責めてくるが私は首を傾げて笑って見せる。

「各地の領主達には、自領地の魔力濃度、汚れの記録を徹底し、万が一の場合の備蓄を増加するようにと、私が聖女の座についた8年前に既に通達済。 同時に、魔物退治専門の魔物狩りの育成が、騎士団により行われておりますわ。 それらをベースに、今後の調整をなさるのがよろしいでしょう」

「そうやって、とぼけるのも大概にして下さい。 私は、貴方がどう責任を取るのかと言っているのです」

「責任とは?」

「婚約者であった王子の暴走を促したのは貴方だ。 そして、これを機会に王が背負うべき業務の代行ではなく、真の王となろうとしているのではありませんか!! だからこそ、王宮に留まり、現国王の対立候補であったユリア殿の支持者だったものをこうやって集めた。 余りにも容易周到過ぎると言っているのですよ!!」

「私が王位を望んでいると?」

 ばかばかしくて笑いそうになるのを堪え。 宰相と睨みあう。

「それを言うなら、ルデルス国の外交遠征は閣下が、王子、王女たちに依頼したものですわよね……。 王子も王女も単独でこのような大それた事は実行できるものではありません。 その点はどう説明なさるつもりですの?」

「王子、王女達にも、何か仕事をしていると言う体裁が必要だと考えたからですよ。 その時に丁度良い、馬鹿でもできる招待がなされた。 それだけの事です」

「確かに彼等が行った行為はおろかですが……言葉をお選びになってはいかがですか? 王家に対して反意があった事が見えましてよ?」

 父様と合流する前に、この混乱時期に、なぜ宰相がわざわざ私に面会を求めたのか……私は馬鹿馬鹿しくなってきた。

 現国王はお飾りの王だった。 実質、国の政策のトップにあったのが宰相エミール。 そして、国の慈悲と力の象徴として存在していたのが私である。 広大な領地を管理する公爵たちが国王に名乗り出る可能性もあるけれど、少なくともこの混乱時に次期国王を名乗り出るには、知名度、実績が十分と言う者は存在しない。

 時間をかけ後ろ盾を得て、自領土を中心に復興を地道に行い、支持を得る必要がある。

 それに比べて私と言えば、最後の最後に、魔人を使い、ルデルス国の戦士を排除し、炎の精霊に命令を下し火災を沈下、そして民に向け復讐を止めるよう訴えた。 過去には魔力欠乏症の解決を行った実績もある。

「私の言動が反意あると言うなら、聖女殿の行動こそ王家を蔑ろにした行為と言えませんかな? 次期王の蛮行と、可愛そうな聖女殿を見せつけられた民はなんと思うでしょう。 全てが、王位を得るためのシナリオだった……」

 ふっふふふと勝ち誇った様子で笑う宰相と、溜息をつく私。

「私、王位等に魅力は感じませんけど、自分がこれ以上不幸になるのは、まっぴらごめんなの。 貴方が次期王になりたいと言うなら勝手にするといいわ。 私を巻き込まないで頂戴」

「そうおっしゃるなら、王宮に陣取るな小娘が」

「私の功績を蔑ろにするな、利己主義者め。 こいつを追い出してくれる? 不愉快だ」

 私は、背後に控えた魔人に告げれば、魔神は笑う。

「了解した。 ところで、追い出すのは、1人か? それとも4人か?」

 そんな風に言うから、私は溜息をついた。

 そんな偉そうな執事があるか……。
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