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6章 居場所
61.元王子の苦悩 02
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私がサンドイッチを食べ、淹れたての紅茶を飲み、口元についたソースをヴェルに舐められ、ついでにイチャイチャされ。 それを終えた頃、別の意味で話し難そうに顔を逸らしているジュリアンがいた。
社交界など公の場に代わる代わる違った女性を連れ歩いてはいたが、特別な女性を作る様子はなく、むしろ特別な女性を作らないために毎回違った女性を誘っていた彼は、実は口先だけの初心な男だ。
もう26にもなるのに……。
まぁ、流石にコレは彼の沽券にかかわる事だから、声に出す事はしませんが? タイミング良くヴェルが、くっくくくと怪しく笑うから私はドキッとするし、ジュリアンは先ほどとは別の意味で顔を向けられなくなっていた。
よし、話を進めよう。
「で、まとまった?」
「あぁ」
それでも、まだ少し、ほんの少しだが間をもってジュリアンは説明を始めた。
「例えば、木の枝、綿で人形を作るとしよう」
「うん」
「顔、手、身体、足、この部分があれば何となく人に見えるし、なんだと思う? と聞かれたら人だと答えるけれど。 当たり前のように、問われなくても、人形を人だと認識させるにはどうすればいいと思う?」
私は、手の平サイズの人形を最初考えていたから、
「へっ? 人?」
なんて間抜けな声を出す羽目にあった。 人間サイズの人形へと想像しなおすために少しだけ間が必要であり、木と綿で想像したのがカカシで……。
「人間の服を着せる?」
「主よ。 小僧が聞いているのは、そんなオママゴトレベルの話ではない」
そう言ってヴェルが笑いながら、言葉を続けた。
「簡単だ。 人の皮を剥いで被せればいい」
言われて私は声もなく、眉間を寄せてしまった。
「見せてやっただろう? 人の死体に取りついたケガレた精霊を」
「アレは人間には見えなかったけど?」
ケガレているとはいえ、魂を失った肉の器に入った精霊だ。 彼等が器に入った途端に精霊の属性に強く引かれるために、人の形はこそ留めているが、人間として生活できない程度に変化していた。
「いや、最初の質問を忘れたのか?」
「そうだった。 アリアメアが人形に見えたの人形ね。 でも、私には……あ、れ?」
考えてみれば、アリアメアは時間を定めるための目安にしていただけで、彼女を長く凝視したことは無かった。 私が見ていたのは何時もアリアメアに王妃教育を施す教師の方。 それも編集済みの映像。
なにしろ、アリアメアは何時も授業を放棄するため、彼女の授業を見ていても一向に必要な学習ができない。 だからロノスは、王妃教育を行う講師が別の人間に授業を行っている姿や、講師がその知識を日常に取り入れている様子をデータとして残し、編集し、私に見て学ぶようにと与えていた。
ロノス自身はアリアメアを見ていたけれど、私がソレを一緒に見る等あるわけがない。 楽しそうに嬉しそうに他の子を見る姿は嬉しくなかったし?
そして、唯一、直接遭遇していた時。 私は体の急成長を促され、同時に増加した魔力に苦しみ、力を操作することができずぼこぼこと溢れる魔力の塊のおかげで溶岩人形のようになっていた時。 出会ったと言うより、私と言う物体を通り過ぎて行ったに過ぎない。
「思い出してみたのだけど、私、彼女と面識が無かった。 あれ? でも……ヴェルも面識ないよね?」
「そうだな」
その割に、微妙な反応と言うか……。
「ヴェル、アリアメアは何?」
「それを知ってどうする?」
言われて首を傾げてしまう。 そして私はジュリアンに聞く。
「どうする?」
「ぇ、いや。 聞いてくれただけで十分だ。 そこの魔人の機嫌を損ねてはお前も大変だろう」
「そう言えば……なら、うん、とりあえず場所を借りた分の対価に残りの手足を治しておくよ」
「まて、話は終わってない」
と言ったのはヴェルで、私を腕の中に抱え込むように抱きしめ、そしてジュリアンへの言葉が続いた。
「小僧、お前が見て思ったのはソレだけか?」
「……」
問われたジュリアンの顔色は、まだ悪くなりようがあったのか? と言うほどに変色する。
「あんなもの信じてくれと言う方が間違っている。 誰もがアリアメアを愛らしいと、可愛らしいと、天使のようだと言っているのに……、今の私の記憶の中の彼女は、鮮やかな赤色をしたアメフラシの一面に無数の目があるような……そんな生き物を背後に従えた、人形……」
私は理解できずに首を傾げる。
「なるほど、そうか、そういう生き物か」
そう言って楽しそうに笑っている。
「確かにソレは、あの男も面白がると言うもの」
「どういう事?」
「それは質問か、なぜ知りたい? 知ってどうする」
「これ見よがしに語られれば、気になるのは当然でしょう」
「人の踏み入る領域ではないぞ」
「私は!! 聞きたくない……。 聞いてくれた事には感謝するが、アレは嫌だ……嫌だ。 怖い……」
震えるジュリアン。
「そうだ、それが正しい。 それでいい。 人は知らぬ方が良い事もこの世界には多くある。 だが、小僧、お前は目をつけられている。 目を付けられるだけの素質があった。 良かったな。 お前はただ人ではないぞ」
「ぁ、い、やだ……嫌だ。 嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ、アレは怖い!!」
ひきつった顔と声が訴える。
「ソレは魔人に近しい存在。 それもかなり人に近い思考を持ち、姿は人の姿を与えられなかった。 見た目も能力も中途半端な出来損ない。 それでも、人が対峙するには厄介な存在だろう。 どうする? 小僧」
「ぁああああああ、た、た、助けて……くれ。 いや、助けて下さい!! 死なら覚悟が出来ます。 ですが、アレは嫌だ。 アレはこわ……」
そう震えるジュリアンと私の視線が合った。
「ぁっ……」
呼吸を大きく吸い、それでも震えを止めることは無く右手の拳を強く握りながら……ジュリアンはヴェルに問うた。
「アレは、話し合いが可能な存在でしょうか?」
「自分の中にある二重の記憶を思い返し、自分で考えるがいい。 会話が通じる相手か、思い出し、思考し、どうするか結論を出すのはお前だ」
それは悪魔との取引のように、甘い声だった。
浮気?!
社交界など公の場に代わる代わる違った女性を連れ歩いてはいたが、特別な女性を作る様子はなく、むしろ特別な女性を作らないために毎回違った女性を誘っていた彼は、実は口先だけの初心な男だ。
もう26にもなるのに……。
まぁ、流石にコレは彼の沽券にかかわる事だから、声に出す事はしませんが? タイミング良くヴェルが、くっくくくと怪しく笑うから私はドキッとするし、ジュリアンは先ほどとは別の意味で顔を向けられなくなっていた。
よし、話を進めよう。
「で、まとまった?」
「あぁ」
それでも、まだ少し、ほんの少しだが間をもってジュリアンは説明を始めた。
「例えば、木の枝、綿で人形を作るとしよう」
「うん」
「顔、手、身体、足、この部分があれば何となく人に見えるし、なんだと思う? と聞かれたら人だと答えるけれど。 当たり前のように、問われなくても、人形を人だと認識させるにはどうすればいいと思う?」
私は、手の平サイズの人形を最初考えていたから、
「へっ? 人?」
なんて間抜けな声を出す羽目にあった。 人間サイズの人形へと想像しなおすために少しだけ間が必要であり、木と綿で想像したのがカカシで……。
「人間の服を着せる?」
「主よ。 小僧が聞いているのは、そんなオママゴトレベルの話ではない」
そう言ってヴェルが笑いながら、言葉を続けた。
「簡単だ。 人の皮を剥いで被せればいい」
言われて私は声もなく、眉間を寄せてしまった。
「見せてやっただろう? 人の死体に取りついたケガレた精霊を」
「アレは人間には見えなかったけど?」
ケガレているとはいえ、魂を失った肉の器に入った精霊だ。 彼等が器に入った途端に精霊の属性に強く引かれるために、人の形はこそ留めているが、人間として生活できない程度に変化していた。
「いや、最初の質問を忘れたのか?」
「そうだった。 アリアメアが人形に見えたの人形ね。 でも、私には……あ、れ?」
考えてみれば、アリアメアは時間を定めるための目安にしていただけで、彼女を長く凝視したことは無かった。 私が見ていたのは何時もアリアメアに王妃教育を施す教師の方。 それも編集済みの映像。
なにしろ、アリアメアは何時も授業を放棄するため、彼女の授業を見ていても一向に必要な学習ができない。 だからロノスは、王妃教育を行う講師が別の人間に授業を行っている姿や、講師がその知識を日常に取り入れている様子をデータとして残し、編集し、私に見て学ぶようにと与えていた。
ロノス自身はアリアメアを見ていたけれど、私がソレを一緒に見る等あるわけがない。 楽しそうに嬉しそうに他の子を見る姿は嬉しくなかったし?
そして、唯一、直接遭遇していた時。 私は体の急成長を促され、同時に増加した魔力に苦しみ、力を操作することができずぼこぼこと溢れる魔力の塊のおかげで溶岩人形のようになっていた時。 出会ったと言うより、私と言う物体を通り過ぎて行ったに過ぎない。
「思い出してみたのだけど、私、彼女と面識が無かった。 あれ? でも……ヴェルも面識ないよね?」
「そうだな」
その割に、微妙な反応と言うか……。
「ヴェル、アリアメアは何?」
「それを知ってどうする?」
言われて首を傾げてしまう。 そして私はジュリアンに聞く。
「どうする?」
「ぇ、いや。 聞いてくれただけで十分だ。 そこの魔人の機嫌を損ねてはお前も大変だろう」
「そう言えば……なら、うん、とりあえず場所を借りた分の対価に残りの手足を治しておくよ」
「まて、話は終わってない」
と言ったのはヴェルで、私を腕の中に抱え込むように抱きしめ、そしてジュリアンへの言葉が続いた。
「小僧、お前が見て思ったのはソレだけか?」
「……」
問われたジュリアンの顔色は、まだ悪くなりようがあったのか? と言うほどに変色する。
「あんなもの信じてくれと言う方が間違っている。 誰もがアリアメアを愛らしいと、可愛らしいと、天使のようだと言っているのに……、今の私の記憶の中の彼女は、鮮やかな赤色をしたアメフラシの一面に無数の目があるような……そんな生き物を背後に従えた、人形……」
私は理解できずに首を傾げる。
「なるほど、そうか、そういう生き物か」
そう言って楽しそうに笑っている。
「確かにソレは、あの男も面白がると言うもの」
「どういう事?」
「それは質問か、なぜ知りたい? 知ってどうする」
「これ見よがしに語られれば、気になるのは当然でしょう」
「人の踏み入る領域ではないぞ」
「私は!! 聞きたくない……。 聞いてくれた事には感謝するが、アレは嫌だ……嫌だ。 怖い……」
震えるジュリアン。
「そうだ、それが正しい。 それでいい。 人は知らぬ方が良い事もこの世界には多くある。 だが、小僧、お前は目をつけられている。 目を付けられるだけの素質があった。 良かったな。 お前はただ人ではないぞ」
「ぁ、い、やだ……嫌だ。 嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ、アレは怖い!!」
ひきつった顔と声が訴える。
「ソレは魔人に近しい存在。 それもかなり人に近い思考を持ち、姿は人の姿を与えられなかった。 見た目も能力も中途半端な出来損ない。 それでも、人が対峙するには厄介な存在だろう。 どうする? 小僧」
「ぁああああああ、た、た、助けて……くれ。 いや、助けて下さい!! 死なら覚悟が出来ます。 ですが、アレは嫌だ。 アレはこわ……」
そう震えるジュリアンと私の視線が合った。
「ぁっ……」
呼吸を大きく吸い、それでも震えを止めることは無く右手の拳を強く握りながら……ジュリアンはヴェルに問うた。
「アレは、話し合いが可能な存在でしょうか?」
「自分の中にある二重の記憶を思い返し、自分で考えるがいい。 会話が通じる相手か、思い出し、思考し、どうするか結論を出すのはお前だ」
それは悪魔との取引のように、甘い声だった。
浮気?!
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