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6章 居場所
64.2人の長が追い詰められた先 03
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闇に包まれ、呻き、叫ぶ長二人。
「うるさいぞ」
静かに。 だが、
強さを持つ声でヴェルが言う。
長達の叫びが、闇に吸収されたように聞こえなくなった。
ヴェルが何をしたのか気にならないかと言えば気になるのだけど。 それよりも私は出入口へと走った。 扉の外に幾人もの魔導師と騎士が護衛よろしく控えている。 2人の叫びを聞き乗り込んでくるのではと私は警戒したが、助けに来る様子はなく、私は勢いよく扉を開いた。
椅子に座り、長い脚を組んだヴェルは呆れたように言う。
「もう少し警戒をしてはどうだ?」
「警戒が必要なら、あんたが何とかするでしょう!! 眠れ!!」
私は、人の背に向かって簡単だが、濃厚な魔力を乗せて叫んだ。
扉の外にいた者達は走り逃げ出し、もう何メートルも進んでいたのだ。
高い魔術素養を持つ魔導師と言っても私の魔術に適うわけがなく。 対魔導師用に置かれた騎士は、その身軽さゆえに私を攻撃するには離れすぎ、私の攻撃から逃げるには近すぎ、そしてバタリと床に顔面をぶつけて倒れた。
私は、何をしているのか分からないままに、それでも物理結界を張り人の出入りを禁じ、そして後ろ手に扉を閉めた。
「ふぅ……それで、何をしたの?」
ヴェルを見てもそこに感情らしきものは無かった。
「何も……この程度の事等、なんでもない」
「言いなさい」
命令として言えば、ふっと薄く笑われた。
「奪われている目を、耳を、思考を、追い払い食らってやっただけだ」
少し時間はかかったが、彼が言っている言葉の意味を理解した。 ジュリアンが過去の記憶に誤差が出始めた。 真実が見え始めた。 それと同じ状況を作り上げていると言う事だろう。
「ずいぶんと念入りだね」
「魔力耐性が強い分、念入りに手を加えられている」
「今も、彼等を通して見られていたと言う事?」
「私は寛容ではないし、精霊と言うものはそういう者だ。 私も、ソレも、そういう者だ」
精霊ではなく、両方とも魔人だけどね。
そして私はまた考え……そして、父様の面影を思い出す。
その瞬間に、彼等の嫉妬深さを欠片なりと理解した。 父様の中にアレが入り込み、内側から父様を撫で愛でる様子を想像すれば、吐き気がするほどに気分が悪かった。 まともに視線を交わした事もないのに、アリアメアと言う存在に強い吐き気を覚えた。
むかつく……。
「ヴェル」
そう呼ぶ私は、父様恋しさに女を使う。 それがどれだけ効果があるか? 意味があるかも知らずに、声に甘い含みを乗せ、媚びるような視線を向け、その膝に座り、身体を寄せ、胸元を撫でた。
「くだらない事は止めろ」
冷ややかな視線が向けられ、私は強く恥じてしまうのだ。
「なら、どうしろって言うのよ!! 今も父様がアレに、アレに……嫌なのよ!!」
「子供か?」
そう言えば、馬鹿にするようにヴェルは笑う。
「子供よ!!」
私は叫べば、冷ややかな目線がわずかに緩み優しく笑った。
「泣くな。主」
人とは違う爬虫類のような舌先で、目元から溢れる涙が舐められた。
「嫌なの」
「そうか……。 さて、コレは慰めになるかはわからんが……。 オルコット公爵家は奴の縄張りだ。 時間と空間を使い彼方此方に干渉する奴の。 私とすれば、ソレはソレで気に入らないが……。 まぁ、いい。 お互い見て見ぬふりをしようと言うのが約束だ」
「ロ……」
育ての親であった精霊の名を口にしようとすれば、長い指先が顎に触れ上を向かせられ口づけられ、言葉を塞がれる。
「シー。 名を呼べば気づかれるぞ」
そう、笑って見せる彼は、悪戯な子供のようで……なんだか不思議な感じがした。
「うるさいぞ」
静かに。 だが、
強さを持つ声でヴェルが言う。
長達の叫びが、闇に吸収されたように聞こえなくなった。
ヴェルが何をしたのか気にならないかと言えば気になるのだけど。 それよりも私は出入口へと走った。 扉の外に幾人もの魔導師と騎士が護衛よろしく控えている。 2人の叫びを聞き乗り込んでくるのではと私は警戒したが、助けに来る様子はなく、私は勢いよく扉を開いた。
椅子に座り、長い脚を組んだヴェルは呆れたように言う。
「もう少し警戒をしてはどうだ?」
「警戒が必要なら、あんたが何とかするでしょう!! 眠れ!!」
私は、人の背に向かって簡単だが、濃厚な魔力を乗せて叫んだ。
扉の外にいた者達は走り逃げ出し、もう何メートルも進んでいたのだ。
高い魔術素養を持つ魔導師と言っても私の魔術に適うわけがなく。 対魔導師用に置かれた騎士は、その身軽さゆえに私を攻撃するには離れすぎ、私の攻撃から逃げるには近すぎ、そしてバタリと床に顔面をぶつけて倒れた。
私は、何をしているのか分からないままに、それでも物理結界を張り人の出入りを禁じ、そして後ろ手に扉を閉めた。
「ふぅ……それで、何をしたの?」
ヴェルを見てもそこに感情らしきものは無かった。
「何も……この程度の事等、なんでもない」
「言いなさい」
命令として言えば、ふっと薄く笑われた。
「奪われている目を、耳を、思考を、追い払い食らってやっただけだ」
少し時間はかかったが、彼が言っている言葉の意味を理解した。 ジュリアンが過去の記憶に誤差が出始めた。 真実が見え始めた。 それと同じ状況を作り上げていると言う事だろう。
「ずいぶんと念入りだね」
「魔力耐性が強い分、念入りに手を加えられている」
「今も、彼等を通して見られていたと言う事?」
「私は寛容ではないし、精霊と言うものはそういう者だ。 私も、ソレも、そういう者だ」
精霊ではなく、両方とも魔人だけどね。
そして私はまた考え……そして、父様の面影を思い出す。
その瞬間に、彼等の嫉妬深さを欠片なりと理解した。 父様の中にアレが入り込み、内側から父様を撫で愛でる様子を想像すれば、吐き気がするほどに気分が悪かった。 まともに視線を交わした事もないのに、アリアメアと言う存在に強い吐き気を覚えた。
むかつく……。
「ヴェル」
そう呼ぶ私は、父様恋しさに女を使う。 それがどれだけ効果があるか? 意味があるかも知らずに、声に甘い含みを乗せ、媚びるような視線を向け、その膝に座り、身体を寄せ、胸元を撫でた。
「くだらない事は止めろ」
冷ややかな視線が向けられ、私は強く恥じてしまうのだ。
「なら、どうしろって言うのよ!! 今も父様がアレに、アレに……嫌なのよ!!」
「子供か?」
そう言えば、馬鹿にするようにヴェルは笑う。
「子供よ!!」
私は叫べば、冷ややかな目線がわずかに緩み優しく笑った。
「泣くな。主」
人とは違う爬虫類のような舌先で、目元から溢れる涙が舐められた。
「嫌なの」
「そうか……。 さて、コレは慰めになるかはわからんが……。 オルコット公爵家は奴の縄張りだ。 時間と空間を使い彼方此方に干渉する奴の。 私とすれば、ソレはソレで気に入らないが……。 まぁ、いい。 お互い見て見ぬふりをしようと言うのが約束だ」
「ロ……」
育ての親であった精霊の名を口にしようとすれば、長い指先が顎に触れ上を向かせられ口づけられ、言葉を塞がれる。
「シー。 名を呼べば気づかれるぞ」
そう、笑って見せる彼は、悪戯な子供のようで……なんだか不思議な感じがした。
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