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68.嫉妬と欲望 01

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 唇が触れ合った。

 だけど、ソレは飼い主とペットの戯れのような微かに触れるだけの口づけ。

 泣きたくなるようなシグルドの思いは……遠くにあった。

 抱きしめてくる白く細い腕から逃げるように身を引けば、驚くように緑の瞳が開かれ、長く白い髪が揺れ動く。 

「おいで」

 命令のような甘えのような、シグルド・カール・テン・ホルトに誰が命令できると言うのか? 皇帝であっても許す気はない。

 なのに……シグルドは、逃げた分よりも半歩多くヴェルディに近寄って行く。 唇が触れる。

『どうしたんだ?』

「なら、昨日はどうして、口づけをしたの?」

『昨日は……欲しいと思ったから』

「今はどうして駄目なの?」

『今の君は冷静じゃない』

「私は冷静よ。 ただ……身体が熱いの……。 ねぇ、お願い抱きしめて」

 明らかにどこかオカシイ。

 そんな彼女に、中途半端なこの郷愁と独占と苦しみ、何よりも知り合ったばかりの彼女が愛おしくて……身勝手。 そんな欲望を向けて良い等とは思えなかった。

「ぎゅーってして」

 獣のままで、不器用に、ヴェルディを抱きしめる。 白い肌は想像していたよりも滑らかで、そして熱っぽく、汗をかいていた。 森のような爽やかな香りが彼女の匂い……それが、花開いている。

 はぁ……。

 匂いに敏感だからこそ、匂いに溺れ、堕ちそうになっていた。 縋りつかれて、濃い匂いが鼻孔をくすぐり、頭が痺れてくる。

「触れ合うのが気持ちいい……なのに、ジリジリと肌が痺れるの。 お腹がむずむずするの」

 縋りつくような視線が向けられた。

『薬を、もってこらせよう』

「やだぁ……。 抱っこがいい」

『あぁ、もう……俺も男だぞ?』

「どうして、ダメなの? 昨日は口づけてくれたのに……今日はダメなの?」

 訴えてくる視線が、涙に潤んでいた。

 苦い……思いがあった。
 躊躇いがあった。
 罪悪感があった。

 そして……欲望があった。

 人の姿になり、ヴェルディを抱きしめた。 肌と肌が直接触れ合えば、皮膚に感じる柔らかく滑らかな感触が気持ちいい……気持ちよかった。 触れ合うだけで……。

 はぁ……。

 甘い息を1度吐き、抱き上げて、寝室へと向かう。 しばらくすればクロードは戻ってくる。 止めて欲しいのに、邪魔して欲しくない。

 ベッドの上にそっと寝かせ、その身体の上に四つん這いになり見下ろした。 視線があえば逸らされ、ざわりとした心が揺れた、あぁ、癪に障ったんだ。

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