6 / 59
01
06.獣達は都会に憧れる
しおりを挟む
大地の民の恋愛感は多種多様である。
いや、そもそもすべてにおいて自由なのだから、今更かもしれない。
マルスが十二支族の族長と交渉に挑んだ翌日。
朝早くから、婚約者マルスの妹マイルがやってきた。
顔も洗っていなければ、歯も磨いていないと言うのに、ベッドで丸まって眠る私は抱き起され、椅子に座らされた。
「聞いてくれ、大変な事が起こったんだ!!」
大きな欠伸と共に私は応じる。
まぁ、どうせ起きる時間でしたし?
「身支度整えるから、スープを温めておいて……」
文句の1つもなく静かな様子で彼女は承諾した。
おや?
何時もなら、わっくわくした様子で拒絶し、延々と背後に付きまとい、マルスが酒と女に明け暮れていたと、私の不愉快そうな顔を楽しそうに眺め、事細かくマルスがどんな風に女を抱いたかまで報告してくると言うのに、今日はやけに神妙な顔をしている。
「腹でも壊したの?」
「違う」
ボソボソとしながら、温めた昨日の残り物のスープを皿にすくい私に差し出した。
「なら、何よ」
「兄貴が……4の部族の族長の娘を運命のツガイだと言いやがった……」
「珍しいわね」
「何を呑気に飯なんか食っているんだ!!」
「今更、女性の1人や2人増えたところで、なんとも思いませんよ。 だって、貴方達一夫多妻な種族でしょうが……」
ソレを言い訳にマルスは好き放題してきたのだ。
こんな感じで、
『だから、これは本能だ!! 仕方のない事だ!! 女だって強い男の子が欲しいと思うのは当然の事だろう?! 俺はその気持ちに応えているだけで悪くない!!』
「違う!! 運命のツガイだと言いやがったんだ!!」
「だから、貴方達の因子にはツガイと言う概念はないでしょう??」
「ツガイとの出会いは神に定められた運命なんだと兄貴が言っていた……もう、わけわかんねぇよ」
何時もは私の不愉快そうな顔を楽しそうに見ている癖に、今日のマイルは二日酔いで動く事すら面倒臭い朝のような顔をしていた。
「うん、私も訳わかりませんね」
「聞いてくれ……」
そして前日の事が語られた。
マイルが言うには良い感じで酒が回った頃、涙に濡れた今回の問題の張本人が現れたそうだ。
柔らかなオレンジ色の髪は波のように美しく揺らめき、宝石で作られた小花を髪に散りばめられ、ランプの灯りに輝く小花が、憂いを帯び、悲し気にやつれた表情を美しく飾る。
大きな瞳を際立たせるまつ毛は長く、唇はオレンジ色に濡れ輝き、憂いすら際立たせる色香を漂わせていた。
ドレスは2重によって作られ、美しい身体のラインを際立たせる朱色のドレスには金の装飾刺繍がなされ妖艶さを演出し、愛らしさを醸し出すふわりとした半透明の布地が可憐さを演出していたと言う。
「男ばかりじゃない、誰もが彼女の姿に見惚れたさ」
女神が舞い降りた。
誰もがそう言って、羨望のまなざしを向けたらしい。
何しろ大地の民は、動きやすさ重視の服を着る。 花を売る4の部族の住民ですら、着飾る事に無頓着なのだ。
着飾る奴はブース!!
とか日頃から言っているのだから、そんな華美な姿をした女性など誰もが初めて見ただろう。
「美しさを褒め、皇都での苦労話を泣きながらすれば、少し前まで本人に責任を、部族に責任をと言っていたのに、大地の民の団結をみせねば!! なんて言い出したんだ」
「まぁ、各部族が費用負担を約束してくれるなら、こっちは支払い方法の交渉をするだけですね」
「確かに、そこで話が終わればだ……兄貴が、その女にフラフラと近寄ってこう言ったんだ」
「ずっと胸の内に虚しさを感じていた。 感じ続け、虚無に耐えきれず多くの女性を抱いた。 だが、それで解決できるものではなかった事を知りました。 今、貴方に出会って、その理由がわかったんです。 貴方と言う魂の半身、運命のツガイを失っていた事実に、この魂が嘆き苦しんでいたと!! 貴方の幸福が俺の幸福……。 俺が貴方を守りましょう」
そう言って、双子であるマイルは恐ろしく演技が勝った様子で、私に語って見せたのだ。
「……はぁ? 何それ!! 嘘でしょう!!」
「嘘だったら、朝っぱらから押しかけてくるかよ!!」
いや、結構来ていたけど? と言う言葉は飲み込んだ。 今はそんな事よりもマルスの事だ。
「マジかぁ、全く、何をしてくれやがりますの。 各部族が分担で収まったところを……」
なんとかしてマルスの話をなかたことに出来ないかと、マイル他数名を使い各部族に接触させれば、割とすんなりと部族でその負担を分割しても良いと言う言葉を得られた。
だが、マルスはソレを良しとしなかったのだ。
甲斐性の見せ所。
他の野郎の力を借りては、彼女を俺のモノにできない。
そんな事を言いながら、
そして、遊び相手だった大勢の女達とは関係を清算し、私に押し付けてばかりだった業務に口出しをするようになったのだ。
そして、マルスを目的に顔を出すキャノ。 2人は仲良く、会計に口出しをするだけではなく、十二支族の族長からツガイ様費用等と言う予算を組むよう署名を集めてしまったのだった。
普通なら、こう1人の女性に対する贔屓は、他の女性達によって叩かれるものなのだろうが、誰もが皇都に染まり切ったキャノに憧れを持ち、皇帝の愛妾に立候補する者まで出始めたのだから笑えない……。
愛妾様担当の役人は変わり、新しい担当にマルスは積極的に交渉を持ちかけていた。
「代理の女をくれてやるのだから、慰謝料は無しにしろ……。 むしろ健康な綺麗どころを複数提供するんだ。 新たな支度金を貰いたいくらいだな」
「あぁ、いやだいやだ、狂暴な蛮族の娘を容易に受け入れる訳等ないでしょう!! 皇都の民が震えあがると言うもの。 皇都に相応しい品格と礼儀作法を身に着けなければ、陛下に交渉を持ちかける事を考えてみようかしら? なんて気になるかもしれないけど。 む・り・ね!! 何しろ、コチラは1度裏切られた身ですもの。 あぁ、そうそう……あの女が、皇都で食い荒らした男達の家から、慰謝料の請求が届いているの。 本当獣っていやよねぇ~」
化粧と美しい衣装で身を飾った……背が高く筋肉質な美丈夫の男性が、ハンカチで鼻と口元を隠しながら挑発すれば、マイルは毛を逆立て怒り出す。
「無礼だぞ!!」
いや、そもそもすべてにおいて自由なのだから、今更かもしれない。
マルスが十二支族の族長と交渉に挑んだ翌日。
朝早くから、婚約者マルスの妹マイルがやってきた。
顔も洗っていなければ、歯も磨いていないと言うのに、ベッドで丸まって眠る私は抱き起され、椅子に座らされた。
「聞いてくれ、大変な事が起こったんだ!!」
大きな欠伸と共に私は応じる。
まぁ、どうせ起きる時間でしたし?
「身支度整えるから、スープを温めておいて……」
文句の1つもなく静かな様子で彼女は承諾した。
おや?
何時もなら、わっくわくした様子で拒絶し、延々と背後に付きまとい、マルスが酒と女に明け暮れていたと、私の不愉快そうな顔を楽しそうに眺め、事細かくマルスがどんな風に女を抱いたかまで報告してくると言うのに、今日はやけに神妙な顔をしている。
「腹でも壊したの?」
「違う」
ボソボソとしながら、温めた昨日の残り物のスープを皿にすくい私に差し出した。
「なら、何よ」
「兄貴が……4の部族の族長の娘を運命のツガイだと言いやがった……」
「珍しいわね」
「何を呑気に飯なんか食っているんだ!!」
「今更、女性の1人や2人増えたところで、なんとも思いませんよ。 だって、貴方達一夫多妻な種族でしょうが……」
ソレを言い訳にマルスは好き放題してきたのだ。
こんな感じで、
『だから、これは本能だ!! 仕方のない事だ!! 女だって強い男の子が欲しいと思うのは当然の事だろう?! 俺はその気持ちに応えているだけで悪くない!!』
「違う!! 運命のツガイだと言いやがったんだ!!」
「だから、貴方達の因子にはツガイと言う概念はないでしょう??」
「ツガイとの出会いは神に定められた運命なんだと兄貴が言っていた……もう、わけわかんねぇよ」
何時もは私の不愉快そうな顔を楽しそうに見ている癖に、今日のマイルは二日酔いで動く事すら面倒臭い朝のような顔をしていた。
「うん、私も訳わかりませんね」
「聞いてくれ……」
そして前日の事が語られた。
マイルが言うには良い感じで酒が回った頃、涙に濡れた今回の問題の張本人が現れたそうだ。
柔らかなオレンジ色の髪は波のように美しく揺らめき、宝石で作られた小花を髪に散りばめられ、ランプの灯りに輝く小花が、憂いを帯び、悲し気にやつれた表情を美しく飾る。
大きな瞳を際立たせるまつ毛は長く、唇はオレンジ色に濡れ輝き、憂いすら際立たせる色香を漂わせていた。
ドレスは2重によって作られ、美しい身体のラインを際立たせる朱色のドレスには金の装飾刺繍がなされ妖艶さを演出し、愛らしさを醸し出すふわりとした半透明の布地が可憐さを演出していたと言う。
「男ばかりじゃない、誰もが彼女の姿に見惚れたさ」
女神が舞い降りた。
誰もがそう言って、羨望のまなざしを向けたらしい。
何しろ大地の民は、動きやすさ重視の服を着る。 花を売る4の部族の住民ですら、着飾る事に無頓着なのだ。
着飾る奴はブース!!
とか日頃から言っているのだから、そんな華美な姿をした女性など誰もが初めて見ただろう。
「美しさを褒め、皇都での苦労話を泣きながらすれば、少し前まで本人に責任を、部族に責任をと言っていたのに、大地の民の団結をみせねば!! なんて言い出したんだ」
「まぁ、各部族が費用負担を約束してくれるなら、こっちは支払い方法の交渉をするだけですね」
「確かに、そこで話が終わればだ……兄貴が、その女にフラフラと近寄ってこう言ったんだ」
「ずっと胸の内に虚しさを感じていた。 感じ続け、虚無に耐えきれず多くの女性を抱いた。 だが、それで解決できるものではなかった事を知りました。 今、貴方に出会って、その理由がわかったんです。 貴方と言う魂の半身、運命のツガイを失っていた事実に、この魂が嘆き苦しんでいたと!! 貴方の幸福が俺の幸福……。 俺が貴方を守りましょう」
そう言って、双子であるマイルは恐ろしく演技が勝った様子で、私に語って見せたのだ。
「……はぁ? 何それ!! 嘘でしょう!!」
「嘘だったら、朝っぱらから押しかけてくるかよ!!」
いや、結構来ていたけど? と言う言葉は飲み込んだ。 今はそんな事よりもマルスの事だ。
「マジかぁ、全く、何をしてくれやがりますの。 各部族が分担で収まったところを……」
なんとかしてマルスの話をなかたことに出来ないかと、マイル他数名を使い各部族に接触させれば、割とすんなりと部族でその負担を分割しても良いと言う言葉を得られた。
だが、マルスはソレを良しとしなかったのだ。
甲斐性の見せ所。
他の野郎の力を借りては、彼女を俺のモノにできない。
そんな事を言いながら、
そして、遊び相手だった大勢の女達とは関係を清算し、私に押し付けてばかりだった業務に口出しをするようになったのだ。
そして、マルスを目的に顔を出すキャノ。 2人は仲良く、会計に口出しをするだけではなく、十二支族の族長からツガイ様費用等と言う予算を組むよう署名を集めてしまったのだった。
普通なら、こう1人の女性に対する贔屓は、他の女性達によって叩かれるものなのだろうが、誰もが皇都に染まり切ったキャノに憧れを持ち、皇帝の愛妾に立候補する者まで出始めたのだから笑えない……。
愛妾様担当の役人は変わり、新しい担当にマルスは積極的に交渉を持ちかけていた。
「代理の女をくれてやるのだから、慰謝料は無しにしろ……。 むしろ健康な綺麗どころを複数提供するんだ。 新たな支度金を貰いたいくらいだな」
「あぁ、いやだいやだ、狂暴な蛮族の娘を容易に受け入れる訳等ないでしょう!! 皇都の民が震えあがると言うもの。 皇都に相応しい品格と礼儀作法を身に着けなければ、陛下に交渉を持ちかける事を考えてみようかしら? なんて気になるかもしれないけど。 む・り・ね!! 何しろ、コチラは1度裏切られた身ですもの。 あぁ、そうそう……あの女が、皇都で食い荒らした男達の家から、慰謝料の請求が届いているの。 本当獣っていやよねぇ~」
化粧と美しい衣装で身を飾った……背が高く筋肉質な美丈夫の男性が、ハンカチで鼻と口元を隠しながら挑発すれば、マイルは毛を逆立て怒り出す。
「無礼だぞ!!」
1
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。
りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~
行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる