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12.仲良くできるといいな

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 目的地についたのは、赤い血のような夕暮れ時。

 離宮は、夜の闇を切り取って張り付けたような……そんな雰囲気……と言えば少し恰好いいけど、遠くから見ると廃屋を連想させていた。



 屋敷の前で停止する馬車。

「大丈夫、怖くないからね」

 ナルサスが幼い子を宥めるかのように、優しい微笑みを浮かべ手を差し出してきた。

「うん、平気」

「そう、良い子ね」

 ナルサスの笑みがいっそうほころんだ。

 少し遅れて、町で購入した荷物を乗せた馬車がやってきた。 御者はナルサスの部下の魔導師なのだけど、随分と顔色が悪い。

「彼、大丈夫なの?」

 道中、色々と情報交換をした魔導師で、私が気になるのも当然だと思うのだけど、

「大丈夫、大丈夫。 小鳥ちゃんがする事は、お姫様役をちゃんとこなすことよ」

 なんて、フザケタ様子で言う背後では、ヒューゴが御者をしていた魔導師に情けないとブチブチお説教を始めていた。 体調不良に情けないも何も無いと思うのになぁ~。 なんて、思っていれば、屋敷から使用人がわらわらとやってくる。

 10名を超える使用人。 
 そして老紳士風の男は、執事かな?

「ようこそ、おいでくださいました」

 執事と思われる男の言葉に合わせて、使用人達が頭を下げる。 なんか奇妙な迫力に、エスコートとして取られていた手をキュッと握ってしまった。

「あらあら。 どうしたのかしら小鳥ちゃん」

「なんか……びっくり? エイマーズ領では、こんなにきっちりした人達はいなかったから」

 無意識の言葉にナルサスは声を出さずに笑って見せた。

「コチラは、陛下のために来ていただいた。 エリスちゃん。 ずっと大地の民と共に暮らしていたけど、お行儀の良い賢い子よ。 優しくしてあげてねぇ~。 イジメたりしたらお仕置きしちゃうんだから」

 ナルサスの言葉に、奥の方にいる若い女性の侍女達がクスクスと笑い、年配の侍女にしかられていた。 これは、少しばかり私も気合をいれないと、叱られちゃうかもと緊張すれば、未だ繋いだままの手がにぎにぎとされ、ナルサスの顔を見上げれば、声を出さずに『大丈夫よ』と口が動きウィンクされた。

 目の前の老執事と、年配の侍女が一歩前に出る。

「屋敷の管理を預かっておりますへイシオです。 コチラ、モイラでございます。 お嬢様のお世話は、モイラが中心となり行わせて頂きますので、なんなりとご要望を申し付け下さい」

 淡々とした物言いには余り感情は籠っておらず、どちらかと言えば私を見定めていると言うような視線が少しだけ怖い。

 チラリとナルサスへと視線を向け、そして使用人の方達に向かい私はナルサスから習ったばかりのお姫様のような礼をする。

「お招きいただきありがとうございます。 陛下のためになれるよう尽力しますので、よろしくしてください」

 若い侍女達は、目をキラキラさせたり、こそこそと話をしたりしているが、ヘイシオとモイラはと言えばまるで私に興味がないとでもいうように、むしろ隠れて溜息をつきながら、屋敷へと招きいれた。

「わ、私、嫌われてます?」

 不安で横を歩くナルサスに聞けば、頭が撫でられ、少し大きめの声で言う。

「お年寄りはね。 変革を拒むものなの。 後は、陛下を利用しようとか、利用しようとか、利用しようって人が少なくないから、どうしても警戒心が強くなっちゃうのよねぇ~。 私は小鳥ちゃんが良い子だって知っているけど。 屋敷の人はどうなのかなぁ? って、心配なのよ。 だから、良い子の小鳥ちゃんは、普通にしていればいいの。 分かった?」

 私はコクコクと頷いて見せた。

「無駄口が多いですぞ」

 ヘイシオが静かに鋭く言えば、

「あらぁ、若い子を緊張させるより全然いいでしょう?」

 若い侍女が、にっこりと微笑みかけてきて、私もニッコリと笑えば、侍女は言う。

「お部屋にご案内いたします」

 日の差し込まないうっそうとした屋敷だが、離宮と言うにはとても広く……えっと、無駄に広い? でも、屋敷の中はとても手入れが行き届いていた。

 時折置かれている鏡に映る自分の姿を見て、ちょいちょいとナルサスの袖口をつまんだ。 少し身体をかたげてナルサスは聞いてくる。

「なぁに?」

「お洋服ありがとう」

「あら、可愛い」

 そして抱きしめられてしまった。

「ナルサス殿……」

「ごめんなさ~い。 余りにも小鳥ちゃんが可愛くて。 私の大切な小鳥ちゃん、皆も大切にしてねぇ~」

 年若い侍女達に言えば、クスクス笑いながらハーイと言う声が上がり、ヘイシオはやれやれと肩を竦めていた。 かなり雰囲気の良い人達だと思う。

 でも……皆、生気が薄い。
 疲れたような表情を必死に隠している。
 時折、隠れてつかれる溜息とかも気になる。

 皆、大丈夫なのかな?

 そう思ったが、余りナルサスに話しかけると、またナルサスが怒られてしまうかもと、口を閉ざした。

 遠くから獣の叫ぶような声が聞こえた。

 ビクッと心臓が跳ねるような感じで、そして私は目を丸くしてオドオドしてしまう。

 おほほほほとモイラが目を細めて笑った。

「怖がる事は何もございません。 森の住人達がお嬢様の来訪を喜んでいるのでしょう。 屋敷周辺には騎士と魔導師が警備しております。 屋敷にいる限りは安全ですのでご心配なさらないでください」

「はい……」

 今まで顔を合わせた人達の多くは良い感じで受け入れてくれたと思う。 もうみんな私が翼持つ者だって知っているのかな? ちょっとした疑問。

「どうしたの小鳥ちゃん」

「赤い実が、可愛らしいですね」

 屋敷を覆い隠すかのように無造作に伸びた木々の枝は、人の手が入っていないと思っていたが、視線を下ろせば僅かな木漏れ日を受けて赤い果実をつけていた。

「では、お嬢様のためにリンゴのデザートを準備するようにいいましょう。 甘いのはお好きですか?」

「好き! だけ(ど)、ですけど。 今日はナルサスと沢山食べて来たので、もう甘いのは禁止なんです」

「あらあら、では、お茶に少しだけ香りつけとして使いましょうね」

 なんか、なんか、なんか、優しい?

「それは、楽しみです。 蜂もいますねぇ、蜜を集めているのでしょうか?」

「森の中には養蜂用の箱も置いておりますし、果実の木や、甘い樹液を流す木々も植えてありますので、楽しみになさってください」

 屋敷に入るまでは廃屋なのでは? とか思ったとか。 大地の民を野蛮だと、キャノのように我儘身勝手するのでは?と敵意を剥き出しにされるのでは? とか思ったけど。



 なんか、上手くやっていけそうで安心した。

 なんて思っていた事が私にもありました!!
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