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33.最後のチャンスは……
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離宮の外には、再び皇妃の使いの者達が来て騒ぎ立てていた。
ソレを眺める私は、数時間前よりも明らかに嫌な気配を纏わせる彼等に顔を顰める。
「何か、面白いものでもありましたか?」
そう言いながら背後に立つ陛下。
ヒヤリと肝が冷えた。
振り返り見上げれば、私がここに来た時よりも確実に顔色も肉付きも人らしくなった陛下が居た。 人の姿を取り戻し、人の理性も取り戻し(多分)、腐敗臭もなくなったのに……最初に会った時以上に私の本能は恐怖として彼を捕らえていた。
まぁ、常に私が外部に発散する生命エネルギーを吸収しているのだから、仕方ないのかな? 仕方ないよね? そう言う事にしておこう。
ナルサスに散々釘を打たれ、今もヒューゴの見張り付きとなれば、まぁ……下手な事はしてこないだろうし?
「陛下、あの人達、どう見え、る、ますっぴ?」
覆いかぶされるようになるのがイヤで、肩の上に移動した。 もう、陛下から腐敗臭やソレを誤魔化すような香の匂いはない。 香るのは石鹸の匂い。 もふっと羽根を膨らませその中で私は腰を落とした。
寒い……。
「奇妙な気配が濃くなっていますね」
少しばかり戸惑い交じりの声なのは、薄くはあるが陛下が纏っていた濃い死と腐敗の気配と似ている事に気づいているのかな?
「どうするの?」
「見極める必要はありますが……アレは終わりでしょう。 ヒューゴ、ナルサスに伝えて下さい。 アレが、町を騒がせている化け物の正体であると」
落ち込み憂鬱そうな声は、そう言って視線を落とした。
「了解しました」
そう言ったヒューゴは、ポケットの中から甘い匂いのする菓子を取り出し、私の前で左右に振るから、私は視線でソレを追いかけてしまう。
「何を、しているのですか?」
不思議そうにする陛下とは別に、私はヒューゴの元へと飛んでいき、手のひらの中に納まった。
「ぴっ!!」
菓子をゲットした私は、紙の包みを剥がしキャラメルを食べる。
「いえ、エリス様と陛下をお二人にしないよう命じられていますので、このまま連れていきます」
私は少しギョッとする訳だ。
こいつも私を胸元にしまうのか? と、まぁ、結果は帽子の中にしまわれたんですけどね。
「中暗いから、少し穴をあけていいっぴ??」
「構いませんよ」
そんなやり取りの側では、椅子が床を引きずり動く音。
「では、失礼いたします!!」
敬礼と共に陛下の部屋を出たヒューゴは、小さな声で私に言う。
「陛下、拗ねていましたね」
「そうなんだ?」
「えぇ」
そして、私達は小さく笑った。 外では、私を出せと騒ぐ侍女の声。 ソレは既に狂気を帯びた声で、私と言うかヒューゴが来た事に気づいた侍女は、側に近づかないようにと告げる。 どうやら、陛下と2人にしないと言うのは屋敷の者全体の意志のようで、私が一緒なのは確定事項として処理されている。
流石に、半狂乱の皇妃付きの侍女達と、自分を優遇する屋敷の者達を比較すれば、皇妃の元へ行くのが正しいのでは? と言う疑問は消えるものだ。 そんな事を思っている間に、ヒューゴは侍女を通じてナルサスに伝言を行った。
伝わり終えるかどうか? それぐらいの時、侍女と騎士数名が、屋敷に立ち入ろうとした。
なだれ込んでくる者達を侍女達が取り押さえる。
モイラは、腕をつかんだ瞬間相手を転がした。
お胸ベッドの侍女は、相手を転ばし腕を捻り地面に押し付ける。
ベテランの多い侍女達の中でも、年若いと思われる者は騎士を一瞬に縛り上げ転がす。
他の者達も次々に侍女と騎士を取り押さえた。
転がされた皇妃付きの者達を見て、ナルサスは肩を竦めていた。
「あらあら、相変わらず私の仕事を奪っていくんだからぁ」
そして、コツコツと心地よい足音を鳴らし、最も感情を乱している侍女を冷ややかに見下し告げる。
「あのね。 ここは、陛下のための檻なのよ。 陛下が万が一に暴走をしたときのために、集められているの。 貴方達……そんな中、1人の女の子を連れだすために、陛下の元に行く覚悟はあるの?」
そんなナルサスの声が聞こえたかのように、陛下のいる方向からは夜と死の気配が強まり、風が強く吹き、森が震え、獣が啼いた。
「では、私達はどうすれば……」
泣き濡れる皇妃の侍女達。
それでも、皇妃を未だ美しいベールを纏った幻想で見ている者達は、どのようにその期待に応えるのか? 幸福の中に帰る事ができるかと考えている。
「そうだ、皇妃様に、もう一度ご相談を……」
そう告げ、馬車へと向かおうとする者達に背後から襲いかかったのは、救いを求めた皇妃の侍女と騎士。 悲鳴があがれば、カラスが一斉に飛び去り騒めき、状況を理解したヒューゴは足早に陛下の元へと戻って行く。
「ねぇ、何? 今のは、何? 何があったの?」
「えっと、そう、そうだ、実は、とっておきのビスケットを陛下の執務室に隠してあるんです。 食べますよね?」
「ぴっ!」
何が起こっているか想像できない訳ではない。
そして、コレから何が起こるかも理解している。 そうするしかない事を知っているから……。 彼等は、生きる事を許されない。 陛下のように生者を与えるだけの価値を見出される事は無いのだから。
きっと、皇妃は上位種の屍を持っているのだろう……。
殺された者達を馬車に逃げ込んだように偽装し、馬に乗せ手綱を握らせ、そして彼等は馬を軽く蹴り走らせた。 馬は、皇妃の所有する楽園へと戻るだろう。
「な、何をするんですか!! アレでは、私達が裏切ったと皇妃様に知られてしまう!!」
飛び掛かられるナルサスは、ひょろひょろと襲い掛かってくる若い騎士を避け足を引っかけ転ばせれば、しゃがみ込んで、口元に人差し指をあてながら微笑んで見せた。
「大丈夫よぉ~! 死人は、お話が出来ないもの。 だ、か、らぁ~、貴方達の事を語るものはいないわ。 それに、貴方達は、私達がちゃんと、皇妃に見つからぬよう手配をしてあげるわぁ~。 語るべき事を語ってくれたら」
お調子者のフザケタ微笑みをたたえる瞳に冷酷な光が帯び、口元だけは変わらず微笑んでいた。
「ぁ……」
「さぁ~、みんな、まずはリラックスよぉ~。 お風呂と、温かな食事を準備してさしあげて~」
にっこり微笑むナルサスに、侍女達もまた微笑みで答えた。
ソレを眺める私は、数時間前よりも明らかに嫌な気配を纏わせる彼等に顔を顰める。
「何か、面白いものでもありましたか?」
そう言いながら背後に立つ陛下。
ヒヤリと肝が冷えた。
振り返り見上げれば、私がここに来た時よりも確実に顔色も肉付きも人らしくなった陛下が居た。 人の姿を取り戻し、人の理性も取り戻し(多分)、腐敗臭もなくなったのに……最初に会った時以上に私の本能は恐怖として彼を捕らえていた。
まぁ、常に私が外部に発散する生命エネルギーを吸収しているのだから、仕方ないのかな? 仕方ないよね? そう言う事にしておこう。
ナルサスに散々釘を打たれ、今もヒューゴの見張り付きとなれば、まぁ……下手な事はしてこないだろうし?
「陛下、あの人達、どう見え、る、ますっぴ?」
覆いかぶされるようになるのがイヤで、肩の上に移動した。 もう、陛下から腐敗臭やソレを誤魔化すような香の匂いはない。 香るのは石鹸の匂い。 もふっと羽根を膨らませその中で私は腰を落とした。
寒い……。
「奇妙な気配が濃くなっていますね」
少しばかり戸惑い交じりの声なのは、薄くはあるが陛下が纏っていた濃い死と腐敗の気配と似ている事に気づいているのかな?
「どうするの?」
「見極める必要はありますが……アレは終わりでしょう。 ヒューゴ、ナルサスに伝えて下さい。 アレが、町を騒がせている化け物の正体であると」
落ち込み憂鬱そうな声は、そう言って視線を落とした。
「了解しました」
そう言ったヒューゴは、ポケットの中から甘い匂いのする菓子を取り出し、私の前で左右に振るから、私は視線でソレを追いかけてしまう。
「何を、しているのですか?」
不思議そうにする陛下とは別に、私はヒューゴの元へと飛んでいき、手のひらの中に納まった。
「ぴっ!!」
菓子をゲットした私は、紙の包みを剥がしキャラメルを食べる。
「いえ、エリス様と陛下をお二人にしないよう命じられていますので、このまま連れていきます」
私は少しギョッとする訳だ。
こいつも私を胸元にしまうのか? と、まぁ、結果は帽子の中にしまわれたんですけどね。
「中暗いから、少し穴をあけていいっぴ??」
「構いませんよ」
そんなやり取りの側では、椅子が床を引きずり動く音。
「では、失礼いたします!!」
敬礼と共に陛下の部屋を出たヒューゴは、小さな声で私に言う。
「陛下、拗ねていましたね」
「そうなんだ?」
「えぇ」
そして、私達は小さく笑った。 外では、私を出せと騒ぐ侍女の声。 ソレは既に狂気を帯びた声で、私と言うかヒューゴが来た事に気づいた侍女は、側に近づかないようにと告げる。 どうやら、陛下と2人にしないと言うのは屋敷の者全体の意志のようで、私が一緒なのは確定事項として処理されている。
流石に、半狂乱の皇妃付きの侍女達と、自分を優遇する屋敷の者達を比較すれば、皇妃の元へ行くのが正しいのでは? と言う疑問は消えるものだ。 そんな事を思っている間に、ヒューゴは侍女を通じてナルサスに伝言を行った。
伝わり終えるかどうか? それぐらいの時、侍女と騎士数名が、屋敷に立ち入ろうとした。
なだれ込んでくる者達を侍女達が取り押さえる。
モイラは、腕をつかんだ瞬間相手を転がした。
お胸ベッドの侍女は、相手を転ばし腕を捻り地面に押し付ける。
ベテランの多い侍女達の中でも、年若いと思われる者は騎士を一瞬に縛り上げ転がす。
他の者達も次々に侍女と騎士を取り押さえた。
転がされた皇妃付きの者達を見て、ナルサスは肩を竦めていた。
「あらあら、相変わらず私の仕事を奪っていくんだからぁ」
そして、コツコツと心地よい足音を鳴らし、最も感情を乱している侍女を冷ややかに見下し告げる。
「あのね。 ここは、陛下のための檻なのよ。 陛下が万が一に暴走をしたときのために、集められているの。 貴方達……そんな中、1人の女の子を連れだすために、陛下の元に行く覚悟はあるの?」
そんなナルサスの声が聞こえたかのように、陛下のいる方向からは夜と死の気配が強まり、風が強く吹き、森が震え、獣が啼いた。
「では、私達はどうすれば……」
泣き濡れる皇妃の侍女達。
それでも、皇妃を未だ美しいベールを纏った幻想で見ている者達は、どのようにその期待に応えるのか? 幸福の中に帰る事ができるかと考えている。
「そうだ、皇妃様に、もう一度ご相談を……」
そう告げ、馬車へと向かおうとする者達に背後から襲いかかったのは、救いを求めた皇妃の侍女と騎士。 悲鳴があがれば、カラスが一斉に飛び去り騒めき、状況を理解したヒューゴは足早に陛下の元へと戻って行く。
「ねぇ、何? 今のは、何? 何があったの?」
「えっと、そう、そうだ、実は、とっておきのビスケットを陛下の執務室に隠してあるんです。 食べますよね?」
「ぴっ!」
何が起こっているか想像できない訳ではない。
そして、コレから何が起こるかも理解している。 そうするしかない事を知っているから……。 彼等は、生きる事を許されない。 陛下のように生者を与えるだけの価値を見出される事は無いのだから。
きっと、皇妃は上位種の屍を持っているのだろう……。
殺された者達を馬車に逃げ込んだように偽装し、馬に乗せ手綱を握らせ、そして彼等は馬を軽く蹴り走らせた。 馬は、皇妃の所有する楽園へと戻るだろう。
「な、何をするんですか!! アレでは、私達が裏切ったと皇妃様に知られてしまう!!」
飛び掛かられるナルサスは、ひょろひょろと襲い掛かってくる若い騎士を避け足を引っかけ転ばせれば、しゃがみ込んで、口元に人差し指をあてながら微笑んで見せた。
「大丈夫よぉ~! 死人は、お話が出来ないもの。 だ、か、らぁ~、貴方達の事を語るものはいないわ。 それに、貴方達は、私達がちゃんと、皇妃に見つからぬよう手配をしてあげるわぁ~。 語るべき事を語ってくれたら」
お調子者のフザケタ微笑みをたたえる瞳に冷酷な光が帯び、口元だけは変わらず微笑んでいた。
「ぁ……」
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