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 いつ、どうして……変わったのだろう。
 エドウィンは顔色悪く考え込む。

 彼女であれば、大人しく悪役を引き受けると思っていたのに……。

 庶民なんて好きになれるはずがない。
 薄汚く、下品で、ガサツ。
 チビ猊下と僕を呼ぶ。

「チビってなんだよ……」

 好きになれる要素はない。

 なのに、教皇となれば妻を庶民から娶らなければいけない。 それは美徳であり、名声であり、様式美と言うもの。 過去の教皇はどうかわからないけれど、僕は……庶民を愛せるとは思えない。

 大人になったら結婚して欲しい。

 彼女は知っていた。
 幼い頃の彼女は、どんなことを言われても、どんな嫌がらせを受けても、嘆くような事は無く、笑顔で手を差し出せば過去それほど喜んだ人はいないだろうと言うほどに喜んでくれた。

 だから……彼女を見つけた時。

「ぁ、ラッキー!!」

 そう思った。

 庶民の味方であり、庶民を背に王族・貴族に立ち向かう。 それが教皇のあるべき姿なのは物心ついた頃から知っている。 でもさ……僕、王族も貴族も好きだよ? 結構仲良くやってきたし。

 庶民の代表として、王族・貴族に陳情を行う。

 ようするに不満が出ないギリギリの範囲で庶民の要求を叶える。 それが、教皇の神殿の仕事。 貴族達は……その要求が自分達に突きつけられない事を願う。 だから……彼等を操る事が出来る……本物の教皇であれば……。

 実際は、僕以外にも教皇候補と言うものがいて、別の候補者の派閥に属するものは僕を虐めようとする……だからちょど良かった。

 あの子なら……どんな言葉も嫌がらせも耐えるだろう。
 甘い言葉1つかければ、嬉しそうに微笑んでくれるだろう。

 あの子は、僕だ。
 そして僕の大切な人だ。

 人は、リスクのある僕自身よりも、リスクが少なく、僕にダメ―ジを多く与えるだろう僕の大切な彼女へ嫌がらせをするはずだ。

 彼女は僕のものだ。

 彼女は将来僕の妻となるのだから、学園で起こる苦難は良い試練となるだろう。 だから……彼女を虐めればいい。 僕は凄くすごく、辛いけど……耐えて見せよう。



 僕は、彼女の友人に声をかける。

 庶民だけど、庶民の枠を超えた人。
 貴族としての役割も無く、領地も無く、苗字も与えられていないが、どの貴族よりも金を持っていると言われる。 多くの貴族が彼女の実家から借金をしているから、彼女は僕の大切な人といても被害を受ける事はない。

「ジェシカ!! 最近、僕の大好きなニーニャを見かけないんだけど知らない?」

 彼女は不機嫌そうに僕を見下ろす。

「さぁ、知りませんよ……と、言いたいところですが……男の部屋に入り浸っていると言う話です」

 ギリギリと行われる歯ぎしり。

「あぁ、なるほど……君、その男が好きなんだ」

「だったら、どうだって言うんですか!!」

 庶民でありながら、未来の教皇である僕に頭を下げる気もない……不届きだけど……まぁ、公爵家の領地に利益を与えてくれる人だ我慢しよう。

「そう……なら、僕達は仲間じゃないかな? 僕はニーニャが大好きで何時かお嫁さんになって欲しいと思っている。 そして、君はその男を夫として迎えたいと思っている。 協力しあえると思っているんだけど?」

「はっ!! もう少し男らしくなってから言いなよ」

 正直……イラっとした。
 かなりムカついた……。

 気に入らない、気に入らない、気に入らない……あぁ、そうだ……彼女の家の商売の真似をさせて仕事を奪ってしまおうか? 司祭や信徒であれば給料もいらない。 あの商人は、あくどく利益を上げていて、労働者が搾取されている。 だから、神殿が救いの手を差し伸べよう。

 そうしよう……。

 僕を馬鹿にした事を後悔するといい。

「そう、そうかもしれないね……。 でも、僕の幼さも神の与えた祝福の一つなんですよ。 あなたも何れ僕と言う存在を理解する事でしょう」

 女性であれば母性を覚え、
 男性であれば異性を覚え、

 僕は常に無償の愛を注がれる(思い込み)。



 彼女を見かけなくなって半月経った頃……彼女を使い行っていたストレス発散が、僕に向けられそうになってくる。

 僕は幼少期に奇跡を起こした。

 病人を癒し。
 ケガレを浄化し。
 時に若返りすら起こした。

 それは、成長と共にソレ等の力は失われていくのを感じた両親が、僕を呪って成長を止めた。 まぁ……残念な事に力は失われているけれど……。

 だから……不味い……。

 早く僕の大切な大切なあの子を見つけないと……。 人の心の鬱屈が限界を迎えようとしている。 テスト期間なら……教室にも顔を出すよね?



「にぃーにゃぁあああああ」

 僕は見つけた少女に何時ものように抱きつこうとした。 何時もなら文句を言いながらも僕を受け止める彼女が……避けた?

「ぇっ? なぜ、どうして?」

 冷ややかな視線が向けられる。

「何? ぇ? どうしたの? どうして……僕をそんな目で見るの? どうして……どうして……ぁ……」

 気づけば、涙があふれていた。

 どうして……。

 彼女は丁度良い生贄だった。

 忍耐強く、幸福値が低く、見た目も良く、金もある。 これほど最適な生贄はいただろうか?

 生贄の癖に生意気な!!

 そう、叫ぼうとしたけど声が出なかった。

「ぇ、どうして……どうして僕をそんな目で見るの?」

 脳裏に、彼女との日々が思い浮かぶ。
 食べ物を分けてと言えば、庶民とは思えない美味しいものをくれた。

 人を貶すような会話は無く、粗暴にもかんじる口調も甘い声に彩られれば可愛らしいと思った。 成長しない僕を不気味だと言う事は無かった。 両親による呪いの気配を嫌悪する事も無かった。

 彼女は……彼女は……最初に会った時から、利益も無く、ただ僕がソコに居る事を喜んでくれていた。

「なのに、なんで? 僕達は将来を約束した仲でしょう?」

「お断り、しましたよね?」

「ぇ……だって、皆が……僕達は婚約を交わしたって言っているよ」

 強引だと思ったけれど、庶民には戸籍が無い。 そこにある事が一番の存在意義。 だから、婚約したと言いきればいいんだ。

「僕は、君に愛されていると思っていた」



「私は、あなたのような方には不釣り合いな人間でございます。 あなたは、あなたに似合った方とお付き合いくださいませ」

「嫌だよ!! 君以外ありえない!!」

 彼女は、僕の言葉に溜息をつき背を向けた。

「なんで、なんで、僕の言葉を聞かない!! 置き去りにする!! それは人としての礼儀に反する行為だよ!! あり得ない!!」

「私は悪魔ですから」

 彼女は僕の方を見る事無く、サラリと答えた。

 貴族の嫌味なんか欠片も効いてない……なら、僕を避ける理由はないよね? 嫌う意味はないよね? どうして、どうして???

「僕を、僕を見てよおおお」
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