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3章

26.変化 04

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【シルヴァン侯爵家】

「第3部隊戻りました。 コチラ領主からの令状と次の依頼書です」

 クリスティアを保護するために設立されたファング商会の主な事業内容は、各地の領主から依頼を受け食料を輸入する事。 正直、各領主が出してくる資財が対価として相応しいかと言えば、彼等がため込んだ美術品や装飾品が必ずしも価値を持つとは言い難い。

 何しろ、ホワイトウェイ国は3年前までは周辺国と比較し随分と余裕があり芸術活動にも盛んだったが、他国と言えば食料と医療にばかり力を入れ一部の酔狂が芸術品に興味を持つだけ。

 だから……クリスティアは、創造魔法で薬を作り出し金銭としているのだ。 それが、ダニエル、クリスティア&ヴェルの相互関係である。



「雨を降らせたいから魔導師を準備しろって?」

「えぇ、食料があっても水が失われれば生きてはいけませんからね」

「そりゃぁ、無理だ」

「ですよねぇ~。 俺も返事は保留にしておきました。 雨を降らせるほどの魔法を使えるものなんて、聞いたことがありませんからね」

 周辺国では、水の加護を持つ者を大切に育てている。
 水の加護を持つ者が神に祈りを捧げる事で、神は水の恵みをもたらすと信じられているためだ。 それが真実かどうかは分からないが、ソレを行っている村は水不足は起こっていないと他国では言われている。

 とは言え、それは毎日繰り返しの祈り。
 定期的に雨が降り村を潤す。

 魔導師を1月借りる事が出来ましたと言って済むものでもなければ、水の加護を持つものを貸し出す村も存在しない。

「断れ、うちは国の代理人じゃない。 商売をしているだけだ」

「アナタならそういうと思いましたよ。 ただ……余裕があると余計な考えを持つ者が出て来る。 助けてやってはどうなんだってね」

「そう言う奴には、この場所を教えるなと言ってあるだろう」

「えぇ、言っていません。 ただ、声が大きくなれば、やがて賛同者も出るのではないか? と、危惧しているんです」

 なんて話をダニエルとその部下がしていれば、窓の外から声がかけられた。

「随分と切羽詰まっているようだけど、何の話?」

「ダンスの時間だろう?」

 窓に近寄れば、声の主は大きな狼の背に乗り高い位置にある窓を覗き込んでいて、ダニエルはクリスティアの額を軽く指ではじく。

「いったっ」

「行儀の悪い子にはお仕置きだ。 ほら、先生を放置してどうするダンスの授業に戻れ」

「だってぇええ!! ヴェルがダンス踊れないんだもん」

「……無茶を言うな……」

「ダンスなんていいじゃない。 夜会なんていかないもの」

「だが、彼方此方から招待は来ている」

「いや!! だって、ツマラナイんだもの」

「きっと友達も出来る」

「い~らない!! 友達が出来たらヴェルと一緒に居る時間が減る!!」

「減ってくれたら、仕事を任せられて丁度いい。 チビがカイン様を連れて歩くせいで、俺ばかりが忙しくなる」

「秘書を雇えばいいでしょう」

「秘密を守れる人間でないといけない。 利用するような奴は御免だ、信頼できて頭もよく身も守れなければいけない。 となると人は厳選される。 それにな、今は上手くやっていても、国の情勢が悪くなれば何が起こるか分からない。 とにかく!! 忙しいんだ」

「……分かった……仕事を手伝うから、友達なんていらない……」

 ぶ~~と不貞腐れながらクリスティアが言い両手を向けて来れば、ダニエルは大きな溜息をついて両手を引き上げ部屋へと招きいれ、そしてヴェルは窓を通れるサイズにいったん小さくなり中へと入ってきた。



「しっごと、仕事」



 広い社長室。
 大きな狼姿のヴェルは、床に伏せながら書類を見る。
 器用に詰め先で書類をめくり、指の間にペンを挟んで文字を書く。 

 クリスティアはヴェルの背に背中を預け、行儀悪くゴロゴロと転がり、時折顔を埋めながら書類を見ていくのだ。 文字は書かないが、鼻歌交じりに書類は区分けされていて、既に記憶済の食料生産事情ごとに買い付け場所を区分していくのだ。

 突然にクリスティアは笑いだした。

「どうかしたのか?」

「だって、魔導師を招いて欲しいって」

「それは……無理だろう?」

「だよね。 魔導師は何処だって国所属の存在、借り入れを一商人に願うなんて無理もいいところだわ」

「王様だって無理だろう。 何しろ、今の王様は随分と周辺国に侮られている」

「大金積んだって無理案件なのに……ここの領主さん頭悪い?」

「まぁ、言うだけなら無料だ。 コレから訪れるだろう水問題を考えて欲しいと言うアピールかもしれないし。 もし、何とかしてもらえるならラッキー程度に考えているのだろう」

「水問題は、今後を見据えて真剣に考えないといけませんよね。 主に国が!!」

「ふ~ん。 ところでヴェルは雨を降らせる事が出来る?」

「何度目の説明になるか数えていないが、僕の魔力は肉体を変化させるもので、魔法には使えない」

「身体は冷えているのにねぇ~」

「それは体質だ」

「雨、雨ねぇ……。 ねぇ、ヴェル。 協力してくれない?」

 ヴェルが返事をする前にダニエルが突っ込みを入れる。

「……また、牛1頭丸ごと焼肉の時のような事はやめてくれよ」

「あら、食べてたじゃない」

「そりゃぁ、折角の肉だ。 食うさ」

「ティア、魔術は止めろ。 上手く出来たためしがないんだから」

 言われて、耳を掴んで噛みついた。

「……止めろ、赤ちゃんじゃないんだから」

「私は手伝うのか? 手伝わないのか、聞いているの!!」

「屋敷を壊さないなら手伝っても良い。 あら、壊れたら治せばいいじゃない」

「壊すなら、ダンスの先生の所に戻すぞ?」

「た、ぶん……壊れない? と、思うし、外で、広い場所でやる」

 引かないクリスティアに、仕方ないとダニエルは許可しヴェルも同意するのだが……その横で、3人のやり取りを眺めていた部下は思うのだ。



 甘いんだからなぁ~。




 ふんふんふんふん。

 地下へと降りたクリスティアは、鼻歌を歌いながらご先祖様の魔導書から水関係のものを引っ張り出していた。

「魔法は止めろって言われただろ。 君は創造以外の力は、下手だ」

「……尻尾!!」

 引っ張るから出せとばかりに手を差し出すクリスティアにヴェルはそっぽを向く。

「そう言われて、引っ張られるために尻を向けると思うか?」

「うん、思うよ」

「……首回りにしてくれ……」

 モフモフと顔を埋めながらクリスティアは少しばかり落ち込みながら言うのだ。

「そんなに下手かなぁ……」

「下手だろう。 爆発させる」

「水魔法だから、爆発はしない……はず?」

「どうだろう……水も爆発するかもしれない。 先生となる魔導師は誰も呼び寄せる事は出来ない。 色々と試して何が悪いか調べるしか……いや、やっぱりだめだ。 僕は丈夫だけど、ティアは柔らかいから。 爆発しないように、十分に検討しよう」

「創造魔法は上手く仕えるのに……」

「創造魔法で、結果を作り出すのは?」

「魔力を雨に変えるなんて使用魔力量が多すぎて非効率が過ぎるよ」

「僕の魔力を使えばいい」

「それは、勿体ない」

「ソレを言うなら、僕は何時も思っている。 なんで、ティアの魔力を他の奴に食わせているんだって。 僕だけが……食べたいのに……」

「へっ?」

「ぁっ……」

「ぁ、えっと……その……ヴェル……私、病気かも、顔が熱くて熱があるみたい。 折角雨を降らせる方法を考えようと思ったのに……今日はもう眠った方がイイらしい」

「えっと……そうだな……」

 ヴェルの尻尾がしょんぼり落ちている事をクリスティアが気づく事は無かった。
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