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3章

27.混ざり合う

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 ヴェルと出会い、ダニエルの世話になり、子供らしく愛される日々を過ごし始めた頃からクリスティアは夢に渡る事を止めていた。

 夢の中の他人ではなく、自分で居たいと思ったから。

 それでも、国がこれからいっそう酷くなっていくと聞けば、多くの知識が必要だと思った。 他人には興味はないけれど、身内と思える人が増えたから……。



 だって……こんなに暑いのに、水が無くなるなんて大変な事だわ!!



 そしてクリスティアはヴェルに寄り添い、もふもふ涼みながら深い深い眠りに落ちる。 ユックリと穏やかに落ちていく呼吸を、ヴェルに見守られながら。



 水、水、水……水……。
 時間と共に、水の夢の底へと落ちていく。

 水に関する夢がどんどん流れ込んできた。

 夢渡りのご先祖様はクリスティアと同じ水の加護を得ており日常的に水を使っていた。畑を潤し、清い水で酒を作る。 水が酒の味を変えるのだと語り、神に祈りを捧げていた。

 違う……今の私は魔術が知りたい。
 道具に術式を刻み、魔力を通せば水を出せる……。

 そういえば……。
 地下の水道って魔道具なのか……。
 

(水と言うものは……世界のあらゆる所に水の元が散らばっている……水の元を描き~)

 から始まった情報に私は耳を傾けた。

 夢の中の私……いえ、ご先祖様は大人しく話を聞いて、そして、聞くだけでなく手取り足取りと言う勢いで、体内の魔力回路に触れながら、魔導師はご先祖様に魔法を教えていた。

 私は夢を利用し、ご先祖様の経験を利用し、そして自らの糧とした。 繰り返し繰り返し、危機に直面せず、私は魔力の使い方を学んだ。



 パチッと私は目を覚まし、一緒に寄り添い眠っていたヴェルを起こした。

「魔法の使い方を学んだわ!!」

「んっ、ふわぁああああ。 なんか突然だな」

「ご先祖様の知識をトレースして魔術を学んだの。 試してみましょう!! それに魔導師が居なくても、加護持ちがいなくても、雨を降らせる方法があったのよ!!」

「ぇ、あ……そっかぁ、偉いぞ……むにゃむにゃ」

 ふわふわした様子で、ヴェルは私の頭を肉球で優しく撫で……そしてトロトロと眠そうな瞳が溶けていくように眠ろうとした。

「魔法!! 魔法!! 魔法の練習を付き合ってくれるって言った!!」

 正確に言うなら魔術なのだが、子供的には魔法の方がロマンがあると言う些細な事から魔法と言いながら大きな身体をぺちぺち叩き、大きな身体にダイブするように顔を埋め息を吹きかけた。

「うぅううう……分かった、わかったよ、今起きる、起きるから大人しくするんだ。 耳に噛みつくな、尻尾やひげを引っこ抜こうとするな!!」

 大きな欠伸を一回し、身体を起こした。

「まだ夜じゃないか」

「夜の方が涼しくていいでしょう?」

「はいはい」

 そして2人は山間にある平地へと向かった。 月の魔力を吸い花開く月の花畑を前にクリスティアはハシャグ。

「月夜に見せたいと思っていたんだ」

「綺麗だね!!」

「あぁ」

 ヴェルの背から降りて走りはしゃぎクルクル回り笑いかける。 ヴェルは瞳を細めて小さく笑う。

「魔法はいいのか?」

「つい、忘れていた」

「それなら言わずに忘れさせておけば良かった」

 そう言って舌を出す。

「意地悪だなぁ~」

「折角の花畑を爆発させるなよ」

「人を何だと思っているんですか!」

 ヴェルは声に出さず笑い、走り寄ってくるクリスティアを受け止める。

「私が魔法を使う時に爆発したのは、魔術式を組む時に使う魔力量が多かったかららしいの。 その感覚は覚えたけど……」

 そう言いながらも、クリスティアは高濃度の魔力放出を行い続けた。 ソレは厳密に言えばクリスティアが当初望んでいた自然現象を模倣する魔術とは違い、使い慣れた創造魔法だった。 ただ……放出する魔力量が多い。

「何をしている!」

 体内で作られる膨大な魔力を放出し、圧縮し、魔石を作りだし……クリスティアはフラリと倒れた。

「おい!! 大丈夫か!!」

「平気、ちょっとくらくらするだけ」

「それは大丈夫じゃないだろう」

「初めて魔力を限界近くまで使ったから」

 頭が痛かった。
 制御も放出も思った以上に大変だった。
 だけど……美しい魔石が出来た。

 満足そうに魔石を眺め、ヴェルに見せれば大きな溜息と共に頬が舐められた。

「うわぁ~」

「僕の魔力を食べるんだ」

 クリスティアは首を傾げる。

「魔力の形を変えて食べ物を作っているんだ。 魔力をそのまま食べる事も出来るだろう」

「えっと、毛をむしって食べろと?」

「……それは、嫌だ……その、嫌だったら嫌って言え、でも……多分、補給したほうが楽になる」

 鼻に濡れた鼻がピトリとくっついた。
 ヒヤリとした感触に、ひゃぁ!と小さく声を上げクリスティアは笑う。

 チュッと触れる犬の薄い唇と、赤く色づく唇。
 ペロリとヴェルが唇を舐めれば、クリスティアは笑っていた。

 鼻同士をぴとっとくっつけ、少し恥ずかしそうにヴェルは言う。

「ちゃんと魔力を吸収しろよ」

「分かったよ」

 チュッとクリスティアからも口づけし、そして唇を舐める。 濡れた唇。 遠慮がちに出される舌を舐めて絡めて吸い……魔力を奪う。

「これは少し恥ずかしい。 もっと触れるだけで魔力を往復出来ればいいのに」

「往復すると戻るだろう」

 そう答えるヴェルも恥ずかしそうに、それでも声は浮かれているが……顔を赤く染めて拗ねたようで不貞腐れたようで、顔を隠し抱き着くクリスティアは気づかず、やっぱりヴェルは年上で大人だから平気なんだななんて思っていた。

 何時もと変わらず、触れて、撫でて、クリスティアはヴェルの魔力を絡め取る。 それが何時だって魔力過剰なヴェルには心地よくて、クリスティアに身体を摺り寄せた。

「うん、コレでもいける」

 自分とヴェルが一つの存在であるかのようなイメ―ジしながら撫でて、からめて、奪って、触れて、口づけ……ヴェルは甘い吐息を吐いた。

「あら、溜息をつかなくても」

「違う……撫でられるのが気持ちいいだけだ」

「そっか、なら、良かった」

 甘く甘くじゃれあって、笑いあう……。

 クリスティアの魔力はヴェルに与えられていた。
そして、ヴェルの魔力がクリスティアに与えられる。

 それが何とも言い難く特別で、ヴェルは泣きたくなるような幸福に身を沈めていった。
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