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50.私が作る精神の間
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「な、何?!」
眠るランディに乱暴を働くジル。 シアが驚くのも当然であり、周囲を見回せばアズと王妃様は少し離れた場所で怯えながら様子を見ていた。
止める様子は無い。
「ま、待って、何があったんですか!!」
「あぁ?」
ジルは荒々しい表情をこちらに向け、その手には暴力を振るわれても眠り続けているランディの首根っこが掴まれていた。 ダランと脱力した巨大な獣は……死体のようで……私はソレが怖かった。
「なぜ、そんな事を!!」
「流石に、この大きな奴を抱えながら逃げるのは難しいからなぁあ!!」
ジルは乱暴にランディの頬を殴り、耳元に起きろと怒鳴り、その切羽詰まっている様子に、説明を求めアズへと視線を向けた。
「何があったの……」
窓の向こうから厳つい怒号が聞こえる。
100や200ではない。
1000や2000レベル。
もしかするともっとかもしれない。
窓に近づき外を見れば、視界の先に見えるのは、王城を境界に向かい合う人獣の軍勢達。 眠っている間に王城が戦場になるなんて想像もしていなかった。
「アレはなに……」
「敵よ」
不機嫌そうに言うのはジルではなくアズだった。
彼女は美しい髪も、肌も、衣服も泥と小さな傷にまみれていた。
「街の人は?!」
「街と人は無事よ。 人も街もそのまま手に入れたいらしいの……」
困惑した様子で語るアズは、私が精神の間に行っていた間、何時ものように街に行っていたのだと言う。 そして、軍勢が訪れる中、街の人々はアズを王城へと逃がしてくれたのだと言う話だった。
「それより聞いて下さる!! 彼等が姫として掲げているのはドーラだったのよ!! 何を考えておりますの?! 自分がドロテアにでもなったと勘違いしたのかしら?!」
この勢いであれば王城に逃げ込むよりも、ドーラの姿をした存在をぶん殴りに行くと暴れ街の人を苦労させたのだろう。
チラリとアズは、ジルとランディを見た。
「殴れば治るかしら?」
「……無理だと思う……」
アズの這いずるような声に、私は静かに答えた。
いや、冷静でいる余裕はないよね?
「それで、彼等は……」
「今は、城を明け渡せと城壁の内と外で要求をつきつけあっているようよ」
こうしている間にも、状況を伝えにくる足の速い人獣の戦士がノックも無く扉を開き叫んだ。
「敵が要求を明らかにしました。 城の明け渡し、王族の首と……そしてドロテア姫の夫である『ランディ』様の解放です。 直ぐに交戦状態に入るでしょう!! 逃亡の準備を始めて下さい!!」
そして戦士は戻って行った。
「へっ?」
たぶん、私は訳が分からないと言う顔をしていたし、アズの怒りはいっそう盛り上がっていた。
「ちょっと、何よソレ!!」
「腹を立てるのは後にしろ!!」
そう言うと同時に私はジルに身体を引き寄せられ、その勢いに反るようにひっくり返りそうになり上を向けば、牙を覗かせた冷ややかな瞳のジルは……静かに怒っていた。
「ひっ」
ヒクッと眉根を寄せるジルが、ランディの前に私を置く。
「賢者殿、コイツを起こせ。 いざとなれば城を放棄しなければいけない。 こんな大きなものを持ち歩くのは大変だし、それに……おいて行けば……敵に強大な戦力を与える事になる」
「でも、起こしたからと言って、野生に戻っている状態では制御できませんよ」
「ならば、敵の中に誘導してやればいい」
「でも、敵にはドロテアが居るんでしょう。 支配されるとココで眠らせているのと一緒よ」
「ドロテアが共感の力をランディに使えば、ドーラが自由になる。 ドーラに使い続ければ、ランディが自由になる」
「違うの!! ドロテアが使っている力は、共感ではなく憑依の可能性が高いと言う話だったの。 なら、ドーラを支配しながらランディと共感状態になる事だって出来るわ」
「それなら、ランディを逃亡用に使えばいい。 俺が戦場に行く!!」
そんな言い方は止めて!! それではドロテアと一緒になってしまう!! そう言いたいのに……言えなかった。 それだけ、私達は追い込まれていたから。
「どちらにしろ!! 荷物を持って、3人を守って、逃げろと言われても……全員を守り切れない」
ここに居るのは、シア、アズ、王妃様、ジル、そして眠るランディ。 現状、戦える、人獣として最低の力しかないものばかり、ジルの言っている事も分かるのだ……。
「グダグダするな。 出来るか出来ないか、それだけでいい。 ソレに合わせて計画を立てる」
「……やって、見ます」
私は、大きく息を吸った。
別に私達はランディを封じている訳ではない。
目が覚めないのは、ランディの身体が休眠を必要とする程弱っているのではなく、傷ついた魂を癒すために眠っている。 だから……目が覚めない。
なら、魂に直接呼びかける必要がある。
魂……正直知るか!! って、ほんの少し前の私なら言ったと思う。 魂とは……そのヒントを貰ったばかりだ。
私は、私の魂を純粋化するため、私の中に、私のための精伸の間を作り出す。 剥き出しの魂のままランディに語り掛けたら……どうなる?
生まれたばかりの双子は、獣性を移されたラースは長く獣のままだったと言う……。 怖い……怖いけれど、怖がってばかりでは大勢の人が死んでしまう。
それは怖い……。
とても、怖い……。
人が死ぬ。
大切な人が死ぬ。
お願い……。
私は、ドロテア捜索に出向いたラースとセグが戻って来ることを祈りながら……。 精神を研ぎ澄まし、そっと私の魂の部屋、精神の間に獣を呼び込んだ。
大きな黒い獣が飛び掛かってきた。
大きな口を開け、赤い口内が覗き見える。
このまま齧られるのかと私は……消滅を覚悟した。
「シア!! シア、シア、シアあぁああああああ」
べろんべろんと舐められ……私はヨダレまみれになった。
眠るランディに乱暴を働くジル。 シアが驚くのも当然であり、周囲を見回せばアズと王妃様は少し離れた場所で怯えながら様子を見ていた。
止める様子は無い。
「ま、待って、何があったんですか!!」
「あぁ?」
ジルは荒々しい表情をこちらに向け、その手には暴力を振るわれても眠り続けているランディの首根っこが掴まれていた。 ダランと脱力した巨大な獣は……死体のようで……私はソレが怖かった。
「なぜ、そんな事を!!」
「流石に、この大きな奴を抱えながら逃げるのは難しいからなぁあ!!」
ジルは乱暴にランディの頬を殴り、耳元に起きろと怒鳴り、その切羽詰まっている様子に、説明を求めアズへと視線を向けた。
「何があったの……」
窓の向こうから厳つい怒号が聞こえる。
100や200ではない。
1000や2000レベル。
もしかするともっとかもしれない。
窓に近づき外を見れば、視界の先に見えるのは、王城を境界に向かい合う人獣の軍勢達。 眠っている間に王城が戦場になるなんて想像もしていなかった。
「アレはなに……」
「敵よ」
不機嫌そうに言うのはジルではなくアズだった。
彼女は美しい髪も、肌も、衣服も泥と小さな傷にまみれていた。
「街の人は?!」
「街と人は無事よ。 人も街もそのまま手に入れたいらしいの……」
困惑した様子で語るアズは、私が精神の間に行っていた間、何時ものように街に行っていたのだと言う。 そして、軍勢が訪れる中、街の人々はアズを王城へと逃がしてくれたのだと言う話だった。
「それより聞いて下さる!! 彼等が姫として掲げているのはドーラだったのよ!! 何を考えておりますの?! 自分がドロテアにでもなったと勘違いしたのかしら?!」
この勢いであれば王城に逃げ込むよりも、ドーラの姿をした存在をぶん殴りに行くと暴れ街の人を苦労させたのだろう。
チラリとアズは、ジルとランディを見た。
「殴れば治るかしら?」
「……無理だと思う……」
アズの這いずるような声に、私は静かに答えた。
いや、冷静でいる余裕はないよね?
「それで、彼等は……」
「今は、城を明け渡せと城壁の内と外で要求をつきつけあっているようよ」
こうしている間にも、状況を伝えにくる足の速い人獣の戦士がノックも無く扉を開き叫んだ。
「敵が要求を明らかにしました。 城の明け渡し、王族の首と……そしてドロテア姫の夫である『ランディ』様の解放です。 直ぐに交戦状態に入るでしょう!! 逃亡の準備を始めて下さい!!」
そして戦士は戻って行った。
「へっ?」
たぶん、私は訳が分からないと言う顔をしていたし、アズの怒りはいっそう盛り上がっていた。
「ちょっと、何よソレ!!」
「腹を立てるのは後にしろ!!」
そう言うと同時に私はジルに身体を引き寄せられ、その勢いに反るようにひっくり返りそうになり上を向けば、牙を覗かせた冷ややかな瞳のジルは……静かに怒っていた。
「ひっ」
ヒクッと眉根を寄せるジルが、ランディの前に私を置く。
「賢者殿、コイツを起こせ。 いざとなれば城を放棄しなければいけない。 こんな大きなものを持ち歩くのは大変だし、それに……おいて行けば……敵に強大な戦力を与える事になる」
「でも、起こしたからと言って、野生に戻っている状態では制御できませんよ」
「ならば、敵の中に誘導してやればいい」
「でも、敵にはドロテアが居るんでしょう。 支配されるとココで眠らせているのと一緒よ」
「ドロテアが共感の力をランディに使えば、ドーラが自由になる。 ドーラに使い続ければ、ランディが自由になる」
「違うの!! ドロテアが使っている力は、共感ではなく憑依の可能性が高いと言う話だったの。 なら、ドーラを支配しながらランディと共感状態になる事だって出来るわ」
「それなら、ランディを逃亡用に使えばいい。 俺が戦場に行く!!」
そんな言い方は止めて!! それではドロテアと一緒になってしまう!! そう言いたいのに……言えなかった。 それだけ、私達は追い込まれていたから。
「どちらにしろ!! 荷物を持って、3人を守って、逃げろと言われても……全員を守り切れない」
ここに居るのは、シア、アズ、王妃様、ジル、そして眠るランディ。 現状、戦える、人獣として最低の力しかないものばかり、ジルの言っている事も分かるのだ……。
「グダグダするな。 出来るか出来ないか、それだけでいい。 ソレに合わせて計画を立てる」
「……やって、見ます」
私は、大きく息を吸った。
別に私達はランディを封じている訳ではない。
目が覚めないのは、ランディの身体が休眠を必要とする程弱っているのではなく、傷ついた魂を癒すために眠っている。 だから……目が覚めない。
なら、魂に直接呼びかける必要がある。
魂……正直知るか!! って、ほんの少し前の私なら言ったと思う。 魂とは……そのヒントを貰ったばかりだ。
私は、私の魂を純粋化するため、私の中に、私のための精伸の間を作り出す。 剥き出しの魂のままランディに語り掛けたら……どうなる?
生まれたばかりの双子は、獣性を移されたラースは長く獣のままだったと言う……。 怖い……怖いけれど、怖がってばかりでは大勢の人が死んでしまう。
それは怖い……。
とても、怖い……。
人が死ぬ。
大切な人が死ぬ。
お願い……。
私は、ドロテア捜索に出向いたラースとセグが戻って来ることを祈りながら……。 精神を研ぎ澄まし、そっと私の魂の部屋、精神の間に獣を呼び込んだ。
大きな黒い獣が飛び掛かってきた。
大きな口を開け、赤い口内が覗き見える。
このまま齧られるのかと私は……消滅を覚悟した。
「シア!! シア、シア、シアあぁああああああ」
べろんべろんと舐められ……私はヨダレまみれになった。
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