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59.新しい生活 03

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 ランディを抱え静電気でも起こすような勢いで撫でたままのラースは、シアに問うた。

「簡単って?」

 ふふ~んっと、シッカリとラースとランディの影に隠れながらドヤ顔を作りアズへと視線を向けるシア。

「ヴィズとアズは、街見ていたんだよね?」

「あぁ」
「えぇ、姫様」

「納得いかないと街を襲った人達が奪った物はどのようなものでした?」

「酒、料理、衣類、装飾品、装備品、それはもうありとあらゆるものですわぁ~」

「う~ん……やり過ぎ? そういう人だからって許して置けませんよね?」

 ぷんすかとラースに言えば、ラースもまた即決で返した。

「追放時に、一族の者達には賠償を行わせよう」

「そんな!! ごく一部の者達の暴徒です!! それに今までそのように生きて来たのですよ。 急に変われと言うのが無理だ!!」

 そう反論する者が居れば、ガルガルとランディは牙を見せ威嚇した。
 そして威嚇するランディの尻尾が気になって仕方がないシア。

 尻尾を視線で追うシアを”カワイイ♡”と思っていたアズだが、コホンと咳払いを一つし少しばかり高飛車な女王様っぽい感じで、周囲を見下し言うのだ。

「力を振りかざし彼等が奪うのは、常に文明だと言う事です。 コレは、とてもオカシな話ですわぁ~」

 そして、言葉を続けたのは無事に揺れるランディの尻尾を捕らえたシア。

「そうよね。 彼等は奪うのが当然だと過去にこだわるなら、それを応援するべきですわね。 先ほどおっしゃっていたように、皆まとめて流浪の部族に預けましょう。 そして、この国はこの国で、略奪者から身を守るための警備の厳重化を進めないといけませんね」

「ところで姫様。 とても楽しみだと思いませんこと? 自分達は強い偉いとイキッていた方々がね。 ふふふふ、コレからは、酒も手に入らない。 食事は生肉と果物のみ。 洋服は木染め腰布1枚。 武器は石を割ったもの。 そんな原始的な生活を行うのですよ~。 見ものですわ~」

「きっと野生に戻り、のびのびとされるはずね!!」

 わっくわくとシアとアズは、ニコニコ微笑みあっていた。

 そして苦笑する王様、ジル、ラース。
 やり過ぎと頭を抱えるヴィズ。
 もっとやれ~なセグ。
 楽しそうだなと一緒にワクワクするランディ。
 セグが楽しいならソレでいいセリアがいた。

「姫様!! お待ちください!!」

「国の行く末に不満と言うのは、そういう事よね?」

 叛意あれば、生活の質が落ちるぞと言う分かりやすいもの。

 人により価値は違うが『失いたくない』そう思える文化が1つでもあれば、過去に戻るのは難しいだろう。

 恩恵を理解しきれていないから、不満が出る。 都合の良いところだけを取り入れることができると考えるから、暴れる事が出来る。 先に不都合があることを知れば反応も変わるだろうと、シアとアズは言っているのだ。



 以下は他人事のように語る元当主達の意見である。

「確かに、今から、天然に生まれる果実酒のみだと言われるとツライのぉ」

 嗜好的に彼等は酒を好むが、彼等が手に入れる事ができたのは、熟した果物が泉に落ちて出来る天然酒。 自分達で酒を造ろうなどと考えたことなど無かった。

「生肉だけの生活か……わしには無理だ……」

 彼等は木々の豊かな森で獣のように生活しており、その生活には火は敵でしかなく、日々の生活で火を使うことは禁じられていた。

「今更、生肉のみの食事は……」

 そう言った族長の好物は、小麦粉から出来た菓子全般だった。 火がなければお腹を壊すため、食べることはできなかった品。

 ある族長は、既に戦場を引退したにもかかわらず、鋼の皮膚を未だ備えているにもかかわらず、自分より弱い魔喰の皮を重ね、形を整え、色を乗せて作った手工、肩当、胸当てをつけ、マントをつけている。 彼にとってのオシャレは人の手があってこそ。

「ふっ……」

 オシャレの方向性は皆同じではないが、文化を取り入れ個性が枝分かれし、集団の中の個と言う意識は薄れたものの、では集団的意識を取り戻すために今更、オシャレを捨てられるかと言えば別であろう。 と、男は考えた。



 ギルモアの王城を襲ってきた他部族のTOP、実力者たちは、新しい檻に小分けに分けられたものの、今も捕らえたまま。

「殺されたくなければ、反文明派を引き取って二度と顔を出すな」

 と条件を付けて放り出すのだけど……

「きっと、無理ね」
「無理だろうな」
「無理だと思う」
「ね~」
「オマエは、何でもシアに同調すればいいと思うな」
「各地の警備体制は、追放者を出した一族に積極的に働いてもらわないといけませんね」
「セグ様は正しい」

 アズ、ヴィズ、シア、ランディ、ラース、セグ、セリアの言葉だった。
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