【R18】親の因果が子に報い【完結】

迷い人

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02.今の私を作る過去

05.少年は笑い、私は泣いた

 私はミリヤ様から引き離すように、ミリヤ様の祖父にあたる元侯爵エヴラール・コルベール様の馬車に連れてこられていた。 しばらくの間、彼の元で世話になるらしい。

「傷を、治してもよろしいでしょうか」

 口の中が、身体中が痛くてうまく喋れている気がしなかったが、言葉は通じていたらしい。

「治癒師を呼んで来るか?」

 そう告げたのは、エヴラール様の側にいた少年だった。

「いや……自分で治せるじゃろ?」

 穏やかな声でエヴラール様は聞いてきて、私は頷き、そして治癒の術を使えば、すぐに痛みは消えはじめ、普通に呼吸できることに安堵した。

 ケガを治し終えた私は、改めて礼を伝える

「保護していただき、ありがとうございました」

「いや……」

 エヴラール様は、何かを語ろうとしたがすぐに口を閉ざし、御者に馬車を出すようにと告げた。

 沈黙。

「泣かないし、喋らない。 この子大丈夫なんですかね」

 私の横に座っていた少年がエヴラール様に聞いた。

『公爵夫人とは無暗に語るものではありません。 言葉には責任がついて回るものです。 特に貴方のような幼く知識のない者は、無暗に語るものではありません。 幼い貴方は自身の責任を負う事ができません。 その責任は全て公爵家のものとなるのですから語るべきではありません』

 そうミリヤ様は語っていた。

 今、私が泣く事。
 今、私が語る事。

 それは全てミリヤ様への不信に繋がる事なのだから、ミリヤ様の言葉が無くても口を開くべきではないだろう。 身内が悪く言われて、気分を害さないものはいないだろうから。

 チラリと失礼な言動を繰り返す少年を見れば、少年は笑って見せた。

 馬鹿なの?

 何がオカシイのか分からないが、今の私に笑えるような心情等ない。 ぐるぐるとミリヤ様への不信感ばかりが心の中で渦を巻き、そして考えるほどに溢れ出て来るのだ。

 エヴラール様は、豊かな髭を撫でながら唸るように、私に問いかけて来た。

「ふむ……。 色々と聞きたい事があるのなら答えよう」

 何か喋らせたいのかと思ったから私は考える。 無難で、他者を傷つける事無く、そして責任の所在を探さずに済むような言葉を。

「私は、どうなるのでしょうか?」

「しばらく、私の所で生活をしてもらう。 陛下の助力あってミリヤはブレソール殿と話し合う機会を得たからのぉ」

「その後は、どうなりますか?」

「もし、ブレソール殿との関係が改善されなくば、其方は公爵家に戻る事になるじゃろうな。じゃが、万が一にもブレソール殿とミリヤの関係が良好なものになるとするなら、其方が公爵家に戻る必要性も失われるじゃろう」

「それは、次期公爵様との縁が切れると言う事でしょうか? 両親の元に戻されると言う事ですか」

 それは僅かな希望。

「いや違う。 其方は国王陛下によって、ユーグ殿との間に縁が結ばれた。 その縁は容易に切れる事はない。 じゃが、ミリヤとブレソール殿との関係が良くなったなら、其方の教育がおろそかにされるじゃろう。 だから、その時は責任をもってコルベール家で面倒を見させていただこうと言うだけの話じゃ」

 それは……良好な関係になれたなら、お前は邪魔だと言われているようで、微かに胸が痛んだ。

「分かりました」

 そして再び沈黙。

「爺さん、でも、あれはダメでしょう。 あぁやってガキのように人前で夫に恥をかかせるようじゃ。 幾ら陛下の仲裁があっても仲良くなんて出来る訳がないでしょう」

「ケヴィン、口の利き方に気を付けい。 お前より、ずっと幼いラシェル様の方が、余程賢明な態度をとっておるじゃないか」

「へいへい。 だが、私は間違っている事を言っているとは思ってないから、撤回はしないがね」

「口の利き方……」

「へい」

「はい」

「はい……」

「お嬢ちゃんは、チビなのに、あんな暴力を振るわれて思うところが無いのか?」

 ウルサイ……。 都合の悪い事しか、言葉に出来ない事を聞いてくるな……。 そんな事を考えながら、私は無言のまま心の内側に必死に感情を仕舞い込みながら、少年へと視線を向けた。

「何々?」

「なにも……」

「うそだぁ! 俺は公爵を睨んだ嬢ちゃんが正しいと思うぞ。 なんで、あんな態度を取られて離縁を求めないのか、俺は不思議でならないね。 挙句、公爵を庇うために小さな子供に暴力を振るう。 ソレを見て見ぬふりをする大人達。 ないわぁ~。 公爵家と侯爵家の間には、そこまで我慢を強いられるだけの差があるもんなのかい?」

「……その口は、少し黙ってはおられんのか?」

「すまんね、爺さん。 スラムの人間は下品なものだ。 納得いく答えがもらえて、黙る意味を見出すことができたら、私だって黙るさぁ。 暖かな寝床と飯をもらったからって、アンタの言う事を1から10まで全部聞くつもりはねぇよ。 私にだって選ぶ権利はあるんでね」

 私と言う言葉に隠してはいるが、その言葉は品性に欠けていた。 欠けていたが……私にとっては、とても優しい言葉に思えた。

 理不尽だと思っていた。
 納得いかなかった。

 私にも、選ぶ権利があるのだろうか? そう思えば涙が溢れだしそうで、必死にこらえた。 今泣いてしまえば、きっと目の前の老人は、少年の言葉を有耶無耶にするチャンスだと考えるだろうと。

「さて、何から話すべきか……。 まず、離縁は可能じゃ。 あの2人はまだ、そういう関係にはないからのぉ」

「へ、へ、へぇ……」

 関係? と思えば、少年は私の方を見て苦笑いをした。

「流石に、嬢ちゃんにはまだ早い話だ」

「ケヴィン、お前にもまだ早いはなしじゃて」

「まぁ、理解できるんだから問題はねぇ。 で、白い婚姻と言う奴なら余計に離縁はしやすいだろう?」

「ブレソール殿の方が婚姻を求めながら、手を出さないのであれば、それもあろう。 じゃが、あの2人の婚姻はミリヤが一方的に惚れ込み、多額の持参金と共に嫁いだ。 ミリヤの方に不逞があれば、ブレソール殿も離縁を言い渡すじゃろうが、不貞もなく、公爵夫人としての役割をきっちりと果たし、公爵家のためになっているとあれば、容易に離縁も言い出せないじゃろうて。 あの子は聡い子だ。 捨てられぬよう公爵家での立ち位置を確保しとるはずじゃ」

「理解できないから聞いたが、聞いても理解できそうにねぇな」

「その愛情の深さゆえに、愛の女神から加護を得た子じゃからのぉ」

「はっきりと、愛に狂っていると言ってくれていいんだぜ、爺さん。 ここには私達3人しかいないんだからな」

 私は考える。

 ようするに……私に愛を期待するなと言っておきながら、ミリヤ様は公爵を愛し、愛に期待し、愛を求めていると言う事? 私を公爵家にいるための材料にしていると言う事? 嫌われないようにするため、自分の失態を私のせいにしようと必死だったと言う事?

 ……私って……私って……。

 もう、我慢の限界だった……。
 涙は自然と溢れて来た。

「あの子を許してやっておくれ。 あの子は愛の女神に呪われているのじゃ……」

「爺さん、こんなチビに我慢を強いるなよな。 貴族って酷いとこだな。 スラムのほうがなんぼもマシだよ」

 吐き捨てるように言いながら、少年は私の顔を拭い。 幼い子にするように抱き仕上げ、抱きしめてくれた。 だから、私余計に泣いてしまったんだ……。

「よ~しよし、泣け泣け」

 少年は笑い。
 私は泣いた。

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