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03.快楽都市『デショワ』

15.銀髪の少女 02

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 オヤジの紹介で2人は、無駄に豪華な応接室へと案内された。 既にオヤジさんは撤退済だ。 荒ぶる気配にオヤジは近寄ってはいけない人間と判断したらしい。 歓楽都市で長く商売するだけあって勘が良いのだろう。

 ユベールとサージュの前に現れたのは、成金丸出しの男だけ。 目的の銀髪の娘はおらず、ユベールは分かりやすく不愉快を顔にだし、薄汚い砂に汚れたローブ姿の若い男2人を見た店主も不愉快を露わにしていた。

「はぁ……また。 ですか……。 あれだけの美貌。 一目惚れも仕方がありませんが、こっちも商売なんですよね。 運命だ、真実の愛だ、そんな下らない事で、私の貴重な時間を無駄にしないでいただきたいものです。 若い奴には分からないのでしょうけど、ここは莫大な金が日夜動いている都市です。 その都市で、高級店の店主をやっている私の1分1秒が幾らほどになるのか!! 坊ちゃんたちに理解はできますかな? さぁ、坊ちゃんたちは、俺との交渉に幾らだせる?」

「幾ら、だと?」

 ぶんっと何処からともなく現れた赤い槍先を持つ巨大な槍を、ユベールは店主の首元に突き付けた。

「お前の一分一秒がいくらか知らないが……とりあえず、お前の首と、買い付けのために出した費用。 後は、当人との交渉次第だな」

「交渉は、私が、請け……負って、おります……ひぃいいい」

「あぁ、もしかして最初から売る気がない?」

 サージュが問えば、分かりやすくギクッとなっていた。

 ユベールの口元から、怒りを露わにした低く唸るような声、そして空腹の獣の気配が、自分を獲物として認識したのだと理解し、怯え震えた。

「そうじゃない、いや……私が与えられた権限は、あくまでも客をつけるまで。 本人は自分を売る様にとは言っているが、あの子を連れて来た人物はあくまでも客を取らせる事しか許可していない……」

「そう……では、まずは10日間ほど、彼女の時間をいただこう」

 ユベールの言葉に、サージュは白金貨を10枚テーブルに並べた。 およそ1000万イェンを見せつけられ、店主はかくかくと出来の悪いロボットのように首を縦に振る。

「部屋もついでに借りる。 案内するといい」





 そんなこんなでソファに座る1人と2人。
 部屋は、たぶん最上級のものだった。

 銀髪の少女は、年の近い2人の青年に困惑を露わにしていた。

「どうかしましたか? お嬢さん」

 そう問いかけるサージュの声は、明らかに楽しそうに浮かれていた。

 サージュことサルシャベルスト・オジュ……かつてサシャと呼ばれていた青年は、自分の正体に気づかぬ少女……ラシェルに対し穏やかに語りかけた。

「私に、幾らお支払いになられました?」

「1日、白金貨1枚。 まずは10日と言う事で白金貨10枚です」

 少女は明らかにギョッとした顔をしていた。 しばらくの沈黙の後、怯えたように聞いてきた。

「……それほどの金銭をお支払いになった目的は、どのようなものなのでしょうか?」

 5年に及ぶ戦争で、数多の命を奪い、奪わせたユーグは、愉快犯的な様子で神に『命』の加護を与えられた。 ソレは、奪った命の分、命(性欲、食欲、睡眠欲など)に対する衝動が増えると言うもの。

 神による加護の影響は、母親譲りの赤い髪を黒くし、幼いままに成長を止めたような姿は、今まで忘れていた分を取り戻すように一気に身体の成長を促した。

 当然、成長した2人は声も変わっており、ラシェルは目の前の青年を誰か理解していない。

 ユベール……ユーグは、そんなラシェルに安堵した。

 ユーグは何時死ぬか分からない状況下で、延々とラシェルを求め続けた。 口説き続けた。ラシェルは不快な性的アピールと捉え無視していたが、ユーグの方は何時だって真面目だった。

 加護の反動で押し寄せる欲望。 欲しいのは何時だってラシェルだった。

 明確な拒絶こそなかったが、色よい返事をくれた事のない婚約者と定められた相手。 そんな恋する相手が、嬉々として他の男になら抱かれてもいい。 なんて考えているなら、それこそショックで意識を放棄し暴れてしまいそうだ。

 だからユーグは思った。

 ユーグとして返事を貰えないなら、ユベールとして距離を縮めるのはどうだろうか? と、

「ここが、何のための店かご存じないのですか?」

 少しばかり皮肉気にユベールは言う。

「……知ってはおりますが、私が行方不明になった事を案じて下さる方がいます。 その方に助けを求めたいのですが、ご協力を頂けないでしょうか? もし、無事に連絡がついた際には……」

 少しばかり難しい顔をし、溜息をつき、そして言葉を続けた。

「お二方がお支払いになった金銭を、利子をつけ、お返しさせていただきます」
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