【R18】親の因果が子に報い【完結】

迷い人

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03.快楽都市『デショワ』

22.加護と呪い 04

「……痛いこと、怖いことはしない?」

 そう問いかける時には、既に首筋から鎖骨にかけて舐められていた。 両手は軽くだが今も押さえられていて、続けて良いかと返事を求められはしたが恰好だけなのだと分かった。

 仕方がない……。
 そう、仕方がないのだ……。

 それでも、それなのに、獣は、私の体液が必要だと言いながら、私の肌を舐める獣は、私の覚悟を待っている。 獣の口から零れ落ちる唾液は、彼の飢えを表しているのだろう。 肌に触れる唾液はぬるりと生暖かく……決して、気持ちの良いものではなかった……。

 仕方がない……。

 茶髪の青年が語る内容が本当なら、

 断る理由はない。
 断ってはいけない。

 それに、私の時間はお金で買われているし……。

 私は獣との行為を必死に言い訳しており、ソレは嫌悪を意味している事は自覚していた。

「痛みも恐怖もお前のもの……俺には分からないが、気を付けよう」

 胸が大きく舐められた。
 ザラリとした舌が、敏感な部分を刺激する。

「んっ……」

 ザラリとした刺激に肌が泡立ち、無意識で身体を捩らせ顔を背ければ、獣の動きは止まった。 嫌ならやめると言う訳にはいかない癖に……。

 人から獣に変化している姿を見てしまっているのだから、彼等の発言を疑うつもりはない。

「つづけて、いいよ」

 快楽に敏感な先端部分が柔らかい舌が執拗にねぶり、絡められ、興奮状態に入ったように見える獣は、柔らかな肉を大きな口内に収め、口内で肉を蹂躙する。

「母乳、で、ない、よ」

 時折、固い牙が肉にあたるが、私を傷つける事はなく、ただ……彼は私を味わっていた。

「だが、甘くて……うまい……」

 金色の瞳から涙が溢れていた。 その涙にどんな意味があるのか? それとも、なんらかの生理現象なのか? 恐怖よりも……金色の瞳が余りにも愛おしそうに私を見るから、それが妙に神聖な行為に思えてきて、マロリーの行為とは違うのだと自分に言い聞かせる事ができた。

 そう割り切って、身を投げ出そうとすれば……。 私をあざ笑うミリヤ様の声が聞こえるような気がして顔を顰める。



 ……声が聞こえた。



 ミリヤ様の声が……。
 死者の声が……。



 ねっとりと纏わりつくように、コレは……人の行為ではないと嬉しそうに嘲笑う。 もっと、もっと不幸に、不幸でなければ、私は許されない。 あぁ、なんてすばらしいのでしょう。 こんなにも醜い獣と交わるなんて……。 これほどの不幸等存在しない。 これで、私は救われるはず……。

 歓喜に震える声が脳裏に響く。

 耳を塞げば消える音ではない事は、彼女が死んだ時から知っていた。

 彼女は、生きている頃からそうだった……。
 彼女は自分の罪に対する罰を私に与え許しを請う。

 ミリヤ様は、自身の欲のために幼い頃から加護を使い続けた。 常時加護を発動させていた。 愛の加護の対価は、愛を巡らせる事にあるのに、彼女は自分が愛……いえ、欲求を満たすためだけに他者を不幸にすることを続け、むしろ他者の不幸こそ己の幸福であり愛なのだと考えていたらしいと……彼女の祖父であるエヴラール様は語った事がある。

 そして、彼女の加護は奪われ呪いだけが残った。

 彼女は呪いから逃れようと、
 再び加護を行使しようと、
 加護の行使のみがブレソールを手に入れるのだと、

 死んだ今も考えているらしい。

 ミリヤ様の欲は私を呪い、不幸を願う。

 自らの贖罪のために。





 不安そうな金色の目が私を見つめる。

「平気よ……」

 私が笑って見せれば、今も私を抑えている茶髪の男が優しく、どこまでも優しく慈悲深い声で問いかけてくる。

「……止めて差し上げれば良いのですが、主の呪いも限界に近い。 夢現の中で全てを終わらせてあげる事が、私が出来る唯一の救い。 どうしますか?」

「……このまま……」

 馬鹿みたい……。 そんな言葉の何処に救いがあると言うのだろうか? それでも、私と同じように贄とされる人は、彼の言葉に救われた気になったのだろうか?

「代わりに……嘘偽りない愛の言葉を頂戴、今はただの贄で、それが無理だとしても……」

 もし、この獣と愛し合う事が出来たなら……受け入れる事が出来たなら、不幸だと感じず幸福なのだと、彼が愛おしいと私が思えたなら……。

 それは、ミリヤ様の考える絶対的な不幸と言う贖罪を完結させるだけの満足を与える事になるかもしれない。
 そして、それは、愛の加護への対価となるかもしれない。

 そんな愛とは遠い下心を持っての言葉だったのに……。

 金色の瞳を持つ獣は、より大粒の涙を溢れさせた。

「愛しているよ。 ずっと……今までも、これからも、ラシェル……君だけだ……」

 そういって獣は、私に抱き着くように胸の上に顔を寄せ、何処までも涙を流していた。 いつの間にか、私の手を取っていた茶髪の男の手は外されていて。 私は黒い柔らかな毛並みを抱きしめる。

「私を愛して?」

「愛して……いる……」

 大粒の涙を流していた金色の瞳が、血の色が波打ちだしていた。 神の加護を持つものは決して多くは無いが、高位貴族はその素質を問わず加護を得る者は多く、身を亡ぼす者を幾人も見て来た。

 私自身加護を持つからこそ、その力の使い方に注意をするようにと、エヴラール侯爵代理によって学ぶ機会を得て来た。

「いいよ……。 私を食べていいよ」

 どうせ、私の傷は治癒の力で治るのだから。

 獣はそれでも、顔を小さく横にふり、私にそっと口づけた。 甘えるように唇を舐め、口内の唾液をなめとってくる。 そんなものでは済まないだろう……姿を変えるほどに対価が積み重なっているのだから。

 徐々に口づけは、抉る様に奪うように口内を貪られだす。

 口内が舐られ、擦られ、舌が絡められ、溢れる唾液が水音を立て奪われる。

 息が上手くできずにいれば、茶髪の男が獣の頭を無理やり私から引きはがした。 がるると唸り声をあげ、邪魔をするなと男の手に噛みつけば、男はあえて腕を与えた。

 あたたかな血が、私の肌に落ちれば、獣は血を流す腕ではなく、血が落ちた私の肌へと顔を埋め舐め始める。 ぴちゃぴちゃと音を立て、興奮に唾液を溢れさせ、シツコク舐めとられれば、舌はザラリと肌に痛く血がにじみだす……。

 痛い……。
 痛い……。
 痛い……。

 ただ、舐められるだけでも痛いのに、これがもっと続くのだろうか? 私は……強くはない……泣きそうになり、恐怖を言葉にしようとしたとき、甘い果汁が口の中に流し入れられた。

 視線を向けた先には、茶髪の男が今も血を流しながら私に言った。

「飲んで。 もう、引き返せないから、飲んで」

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