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03.快楽都市『デショワ』
27.神に感謝を 01
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じんわりと肌に汗を浮かべたラシェルは、ソレを見守る2人が不安になるほどの深い眠りについていた。
「綺麗なもんだ……」
既に傷らしい傷はなく、白い肌には銀糸が美しく張り付いているだけ。 指先で頬に張り付いた髪を退け、そして髪を撫でた。 汗に濡れた髪にユーグは口づけし、頬と言わず首筋、鎖骨、胸の間と舌を這わせる。
情
対価に必要な情とは、思いやりの心を持てるような相手を言う。 ユーグの方からの思いでも、ユーグへの思いでもいい……。 微かな情を頼りに、ユーグは対価を払い続けて来た。 必要な存在であるほど良い贄となり、欠片も贄とならない者は信頼できないし必要がない。 ユーグにとってなんとも不便な対価だった。
「まさか……くそのような呪いに、感謝する日が来るとは……」
戦争自体、侵略してきた国は先兵的なものでしかなく、諜報活動をさせていた者からの報告を聞けば、戦況によって国境を隣接する国から攻めてくる予定だった。 まさか戦争に1公爵家とその縁者しか動かぬとは想像もしていなかったのだろう。
こう考えると、国を裏切った貴族達の背後にいるのは1国や2国でないと考えてもいい。 さて、どうしようか? そんな事を考えながら、眠るラシェルの肌にユーグは舌を這わせていた。
「んんっ」
甘い呻き声と共に微かな身じろぎをする。
「カワイイなぁ……変わらないなんて思っても居なかった」
胸に溢れる愛おしさが、やるべき事への思考を遮り奪っていき、ユーグは苦笑いを浮かべた。 たった1度の情事で払われた対価は大きかった。 常に重鎧をまとい正気を失わないように気を張らせていた怨嗟のようなものが半減したのだ。 それは、あり得ないほどの対価。 ……もし、最初からラシェルが側にいれば、対価の苦労など全く意味をなさず、有望な人材を殺す事等なかっただろう。
苦々しく思う。
だからと言って加護を与えた神を恨み憎んだかと言えば、そんな事は無かった。 加護がなければもっと大勢の命は奪われ、国全体が血に染まっていただろうから。 奪った命の怨嗟ともいえる対価は身体に重くのしかかり、獣性を深めていった。 今では対価が呪いと働く時以外も獣の姿になれるほどだ。
便利で都合の良い事も多い……人格を保っていられるなら。
どうしよう……。
やった事への後悔ではない。 それに関しては眠っている相手だから我慢しないとと抑えているほどだ。 悩むのは抑えがたいラシェルへの情愛だ。
ユーグが一人考えるのは、側にいなかったにも関わらず、今も変わらずラシェルを愛している事だった。 今回、簡単に彼女は誘拐され、花街に預けられていた。 ユーグ・ダンベールとの婚約を成立させず、あわよくば自らの者にしようと考えた者がいると言う彼女の憶測は正しいと思う。
公爵家の使用人と繋がっている者であれば、俺とラシェルの関係は決して良好そうには見えていないだろう。 子供の頃の会合も大人に隠れてのものだったし、ラシェルを人質にする価値は見出していなかったと言うのは幸いだった。
だが……この思いが知られれば……彼女の価値は一転する……。 既に、ユーグはラシェルに不当な扱いをした者達を処分する気でいた。 だが、それほどの感情を表に出せば、人質としての価値を見出されてしまう。
どうすれば守れる?
「ラシェル……」
甘く名を呼び、啄むように口づければ、抱きしめる何かをさがし腕が泳ぎ、ユーグは捕らえられてしまう。 容易に引き離す事はできるが、そんな気になるわけがない。
自分にとってこれほどまで必要なのだと思えば、愛おしい。 呪いのせいで獣の因子が残っている事すら、深くラシェルの体温を匂いを実感できると喜べるのだから、随分の変化と言えるだろう
「どうやって守ればいい?! どう思う?」
問いかける相手はサージュ。
「常に側においておけばどうですか……。 まだ、そんな恰好でいたんですか、風呂でも入ってスッキリとすればいいものを」
溜息交じりにそう言ったサージュは、買い物から戻ってきたところだった。
「放っておいて攫われたらどうしてくれる。 いや、風呂まで連れて行くか?」
「はいはい、護衛しておきますから、風呂に入ってはどうですか?」
「起きた時、側に居たい……」
「しばらく目を覚まさないでしょう。 と、言うか、起こそうとしない!! 公爵夫婦が死んだあの日から、あまり眠れていないと言う話ですから」
ベッドの縁に座り込んだサージュは、銀色の髪を撫でながら、ラシェルの寝息を確かめた。 新しく身体につけられた赤い痕を見れば、めったな事では目を覚まさないだろうと思ったが、主の節操のなさに呆れた顔で見つめてしまう。
「何やっていたんですか……」
「仕方ないだろう、可愛いんだから。 色々あって……もう好きではなくなっているかもしれないと怖かったのが嘘のようだ……」
それは自分が変わってしまったから、戦場と言う命のやり取りをする場で、重要だと思う人が出来たから。 対価を支払うためとはいえ、幾度となく身体を重ねた相手だ。 それも人としての理性を失くしかけ、時に獣となった自分を相手させていた。 対価のためだからと戦場であるにもかかわらず、情を交わし特別な相手になるような日々を送っていた。
エヴラールには、娼婦は娼婦だと割り切れ、そういう相手を送ってあるのだからと、何度となく念を押されたが……まだ若いユーグにとっては色々と割り切る事が出来ずにいたのだ。
何時の間にか、ラシェルへの思いは、あくまで憧れであり……郷愁であり……目的を同じとする同士なのではと言う不安が胸に宿っていた。 婚約者への礼儀として、愛情を示す言葉を手紙に並べてはいたが……、今回のような出来事が無ければ、呪われた日々を助けてくれていた娼婦達を屋敷に招き優遇しなければと行動していただろう。
間違わずに済んで良かった。
溢れ出る愛情のままにラシェルに口づける。
「結局、俺は馬鹿みたいにラシェルが好きなんだなぁ……それより、なんでラシェルの寝つきが悪いってお前が知っていたんだ?」
「ケヴィンからの報告にあったからですよ。 貴方は自分の事すらままならなかったから、記憶していないのでしょうけどね」
責められている気がして苦々しく、サージュを睨みつける。
「もう平気だ。 ラシェルが側にいてくれるなら」
そう言って髪に触れた。
「ですが、対価とかどうとか言っておいて、最後までする必要あったんですか? 可哀そうに……」
「し、かたないだろう!! 可愛くて止められなかったんだから!! 見るな寄るな」
「酷いですね」
「それより、腕を見せろ。 手当はまだしていないだろう」
「いえ……もう治ってます。 馬鹿げた力ですよ」
そう言って、幾度となく噛まれた事で骨やら筋やらがいかれ、動きに支障がでていた左腕を見せつけた。
「綺麗なものです。 痛みもなければ、引きつる事もない。 多少は治って欲しいと意識してくれていたのでしょうが、側にいるだけで治癒の力が働くなど……大丈夫なのでしょうか?」
「5年間、共に居なかった分の空白を埋める必要があるのは確かだろうな……」
ユーグは祈る。
神に感謝を……。
ユーグは初めて、その身に与えられた呪いすら神に感謝したのだった。
「綺麗なもんだ……」
既に傷らしい傷はなく、白い肌には銀糸が美しく張り付いているだけ。 指先で頬に張り付いた髪を退け、そして髪を撫でた。 汗に濡れた髪にユーグは口づけし、頬と言わず首筋、鎖骨、胸の間と舌を這わせる。
情
対価に必要な情とは、思いやりの心を持てるような相手を言う。 ユーグの方からの思いでも、ユーグへの思いでもいい……。 微かな情を頼りに、ユーグは対価を払い続けて来た。 必要な存在であるほど良い贄となり、欠片も贄とならない者は信頼できないし必要がない。 ユーグにとってなんとも不便な対価だった。
「まさか……くそのような呪いに、感謝する日が来るとは……」
戦争自体、侵略してきた国は先兵的なものでしかなく、諜報活動をさせていた者からの報告を聞けば、戦況によって国境を隣接する国から攻めてくる予定だった。 まさか戦争に1公爵家とその縁者しか動かぬとは想像もしていなかったのだろう。
こう考えると、国を裏切った貴族達の背後にいるのは1国や2国でないと考えてもいい。 さて、どうしようか? そんな事を考えながら、眠るラシェルの肌にユーグは舌を這わせていた。
「んんっ」
甘い呻き声と共に微かな身じろぎをする。
「カワイイなぁ……変わらないなんて思っても居なかった」
胸に溢れる愛おしさが、やるべき事への思考を遮り奪っていき、ユーグは苦笑いを浮かべた。 たった1度の情事で払われた対価は大きかった。 常に重鎧をまとい正気を失わないように気を張らせていた怨嗟のようなものが半減したのだ。 それは、あり得ないほどの対価。 ……もし、最初からラシェルが側にいれば、対価の苦労など全く意味をなさず、有望な人材を殺す事等なかっただろう。
苦々しく思う。
だからと言って加護を与えた神を恨み憎んだかと言えば、そんな事は無かった。 加護がなければもっと大勢の命は奪われ、国全体が血に染まっていただろうから。 奪った命の怨嗟ともいえる対価は身体に重くのしかかり、獣性を深めていった。 今では対価が呪いと働く時以外も獣の姿になれるほどだ。
便利で都合の良い事も多い……人格を保っていられるなら。
どうしよう……。
やった事への後悔ではない。 それに関しては眠っている相手だから我慢しないとと抑えているほどだ。 悩むのは抑えがたいラシェルへの情愛だ。
ユーグが一人考えるのは、側にいなかったにも関わらず、今も変わらずラシェルを愛している事だった。 今回、簡単に彼女は誘拐され、花街に預けられていた。 ユーグ・ダンベールとの婚約を成立させず、あわよくば自らの者にしようと考えた者がいると言う彼女の憶測は正しいと思う。
公爵家の使用人と繋がっている者であれば、俺とラシェルの関係は決して良好そうには見えていないだろう。 子供の頃の会合も大人に隠れてのものだったし、ラシェルを人質にする価値は見出していなかったと言うのは幸いだった。
だが……この思いが知られれば……彼女の価値は一転する……。 既に、ユーグはラシェルに不当な扱いをした者達を処分する気でいた。 だが、それほどの感情を表に出せば、人質としての価値を見出されてしまう。
どうすれば守れる?
「ラシェル……」
甘く名を呼び、啄むように口づければ、抱きしめる何かをさがし腕が泳ぎ、ユーグは捕らえられてしまう。 容易に引き離す事はできるが、そんな気になるわけがない。
自分にとってこれほどまで必要なのだと思えば、愛おしい。 呪いのせいで獣の因子が残っている事すら、深くラシェルの体温を匂いを実感できると喜べるのだから、随分の変化と言えるだろう
「どうやって守ればいい?! どう思う?」
問いかける相手はサージュ。
「常に側においておけばどうですか……。 まだ、そんな恰好でいたんですか、風呂でも入ってスッキリとすればいいものを」
溜息交じりにそう言ったサージュは、買い物から戻ってきたところだった。
「放っておいて攫われたらどうしてくれる。 いや、風呂まで連れて行くか?」
「はいはい、護衛しておきますから、風呂に入ってはどうですか?」
「起きた時、側に居たい……」
「しばらく目を覚まさないでしょう。 と、言うか、起こそうとしない!! 公爵夫婦が死んだあの日から、あまり眠れていないと言う話ですから」
ベッドの縁に座り込んだサージュは、銀色の髪を撫でながら、ラシェルの寝息を確かめた。 新しく身体につけられた赤い痕を見れば、めったな事では目を覚まさないだろうと思ったが、主の節操のなさに呆れた顔で見つめてしまう。
「何やっていたんですか……」
「仕方ないだろう、可愛いんだから。 色々あって……もう好きではなくなっているかもしれないと怖かったのが嘘のようだ……」
それは自分が変わってしまったから、戦場と言う命のやり取りをする場で、重要だと思う人が出来たから。 対価を支払うためとはいえ、幾度となく身体を重ねた相手だ。 それも人としての理性を失くしかけ、時に獣となった自分を相手させていた。 対価のためだからと戦場であるにもかかわらず、情を交わし特別な相手になるような日々を送っていた。
エヴラールには、娼婦は娼婦だと割り切れ、そういう相手を送ってあるのだからと、何度となく念を押されたが……まだ若いユーグにとっては色々と割り切る事が出来ずにいたのだ。
何時の間にか、ラシェルへの思いは、あくまで憧れであり……郷愁であり……目的を同じとする同士なのではと言う不安が胸に宿っていた。 婚約者への礼儀として、愛情を示す言葉を手紙に並べてはいたが……、今回のような出来事が無ければ、呪われた日々を助けてくれていた娼婦達を屋敷に招き優遇しなければと行動していただろう。
間違わずに済んで良かった。
溢れ出る愛情のままにラシェルに口づける。
「結局、俺は馬鹿みたいにラシェルが好きなんだなぁ……それより、なんでラシェルの寝つきが悪いってお前が知っていたんだ?」
「ケヴィンからの報告にあったからですよ。 貴方は自分の事すらままならなかったから、記憶していないのでしょうけどね」
責められている気がして苦々しく、サージュを睨みつける。
「もう平気だ。 ラシェルが側にいてくれるなら」
そう言って髪に触れた。
「ですが、対価とかどうとか言っておいて、最後までする必要あったんですか? 可哀そうに……」
「し、かたないだろう!! 可愛くて止められなかったんだから!! 見るな寄るな」
「酷いですね」
「それより、腕を見せろ。 手当はまだしていないだろう」
「いえ……もう治ってます。 馬鹿げた力ですよ」
そう言って、幾度となく噛まれた事で骨やら筋やらがいかれ、動きに支障がでていた左腕を見せつけた。
「綺麗なものです。 痛みもなければ、引きつる事もない。 多少は治って欲しいと意識してくれていたのでしょうが、側にいるだけで治癒の力が働くなど……大丈夫なのでしょうか?」
「5年間、共に居なかった分の空白を埋める必要があるのは確かだろうな……」
ユーグは祈る。
神に感謝を……。
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