【R18】親の因果が子に報い【完結】

迷い人

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04.裏切者たちの叫び

41.貧困をまき散らした者

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「おや、お早いお戻りで」

 そう告げたのは、肉を網焼きにしているサージュだった。

「せっかく作った食事が食べつくされていては嫌ですからね」

「ギリギリでしょうか? 肉は、まだまだ沢山ありますけど」

「ご飯が、ご飯が、美味しいですぅううううううう」

 私とユーグの分が、茶碗に退かされ、鍋にしゃもじをいれて食べている女騎士カリナ。

「どういう食生活をしていたのよ?」

 私が呆れながら問えば、メイリーが溜息交じりに応えた。

「だから、ラシェル様は贅沢なんですよ。 戦場だと、全部が鍋に放り込まれて火を通して終わりなんですから。 パンなんて、いちいち焼いてられませんし」

「それは、余りに余りのような? 指揮に影響が出ません?」

 私の質問にはサージュが答えた。

「出ませんよ。 余裕のあるところは、料理上手な人間に料理番を任せ一日中料理をさせていますからね。 コルベール侯爵の処など、数十人の使用人が同行していたくらいですから。 料理人も一流の者を連れてきていましたね。 ただ、女性の多い隊は、そういう人間は必要ないだろうと言う思い込みがあって、自炊を強要してしまった訳です」

「……あれ? でも、メイリーは世話役として呼び寄せたのですよね? 料理の方は?」

「えぇ、ただ……侍女と料理人は世間では兼任していませんから。 そっちは余り得意ではないようです。 彼女は身軽で気配に敏感、索敵の加護も所有しています。 料理は、私も主も出来ますし、飢えない程度にはどうにでもなりますから。 まぁ、護衛の質で選んだと言う感じでしょうか?」

「随分と適当な……」

 なんていいながら、私は周囲の景色を見ていた。

 既に秋の収穫期は終えているから、眼前に広がる景色を気にしてはいなかったけれど。

「そういえば、気になっていたのだけど、何処の村も、戦争で人を奪われていたダンベール領の村よりも貧しいのは……オカシクありません?」

 繍呪布の制作技術が良ければ、生活は楽にはなるけれど、ソレはあくまでも足りない人を補う事を前提としたもの。 確かに、腕の良い裁縫師が居れば1年分の薪を焚かずに暖を取れるかもしれない。 だけれど、一般的な技量では、腕力の補助はしても、畑は耕し、草は刈り、水はまき、収穫をし、保存する。 獣を狩り、魚も釣り、皮を剥ぎ、保存用に手をかけ、手間が減るわけではない。

「それは、まぁ……俺達も事情は分かっていない。 何しろ多領土の事だし、13の時に代替わりをし、戦争がはじまり、目先の事しか見ていなかったから。 バルゲリー公爵の調査依頼は国王から直々のものだしな。 あの方は、経験を積めといってヒントをくれないから」

 私は生まれた瞬間から私を振り回してきた存在に苦笑しながら考える。

「大雨や日照りであれば、うちにも影響はあったはずよね?」

「各村で耳にするのは獣の被害だよな。 イノシシ、鹿が狩れないが、畑は動物に荒らされるって」

「なぜ、狩れないの?」

 私とユーグの会話に割って入ったのはカリナだった。

「……そふぇはへふねぇ」

 カリナが口いっぱいに肉を頬張りながら答えようとするのを見て、私は自分用の肉の筋をしっかりと切り、フォークでつんつんと突き、酒と香草類に付けてシバラク置くことを決めた。 私の口は繊細ですから。

「食べ終わってかた話してください。 行儀が悪いですよ」

「ラシェル様のが、なんだか特別そうに見えるのですが?!」

「私は、ほら、軟弱なので……あと、恋人には甘いものです」

 そうカリナに応えながら、ユーグの分の肉の下ごしらえをすれば、妙に嬉しそうにユーグが呟く。

「……恋人か……貴族に生まれ、そんな甘い言葉を自分に使われるとは……」

「わ、私もラシェル様の恋人になります!!」

 そう言って挙手をするカリナ……、もっとこう意地悪な令嬢的な存在かと思ったのに、思った以上に残念な子でつい笑ってしまうのだ。

「カリナは、料理の上手な人を見つけて下さい」

「な、なら!! ペットで!!」

「ペット枠も埋まってます。 ねっ?」

「ねっ、って……まぁ、いっか」



 なんて、やりながら、下処理をした肉と情報を交換する事となった訳だった。

「えっと、鉱山の発掘や採掘に力を入れたのが原因ではないでしょうか? 採掘となればどうしても屈強な男の方が必要になるでしょう? となれば、村の力仕事はお留守になりますでしょう?」

「確かに……そうなれば獣を狩る機会が減り、獣は強く大きくなり、数を増して畑が荒らされると。 ですが、なぜ急に採掘?」

「えっと、7年前ぐらいにですが、バルゲリー公爵がこう民衆に幅広く告知したんです。 彼等が所有する鉱山の年間採掘権を発行する。 ソレをもつものは、わが領土の山を自由に採掘できる。 と。」

 あぁ、と相槌をうったのはサージュだった。

「バルゲリー領は国の経済を預かると言われる公爵家で、長い間、鉱石、宝石などを国に提供してきた歴史ある一族でしたよね」

「それが採掘権を発行?? えっ、それでは王国に提供する鉱石などは?」

「うちの兄2人、従兄弟が数人一攫千金を求めてバルゲリー領にいったんですよ。 金銀、ダイヤ、エメラルド、ルビー、様々な鉱石、宝石の買い取り価格表が出されていて、それを見れば、年間採掘権の代金が高くても簡単に元を取れるだろうと思ったんです」



 なんとなく想像がついた。

 金銀宝石類が採掘できなくなり、資金源を失ったバルゲリー公爵家。

 過去王家に収めていた実績を掲げて、採掘者を募集した。 当然向かうのは働き盛りの男達。

 そうして、村では力仕事をする者はいなくなり、挙句に採掘権の購入、宿屋、食事代、酒代などが収入のない中で費用が増していく。 採掘者を支える家族は、貧しさに生活が貧相となり、体力が落ち、下手をすれば借金もしていたかもしれない。

 なら……バルゲリー公爵領に近づくほど、貧困が酷くなるのも当然と言う事だろう。

「まぁ、どんな風に戦争に関わっていたかはわからないけれど、現公爵の親がエヴラール殿の娘だと言う話だから……無関係とは言い難いよな……」

 全員が真面目な顔で沈黙する中。



 私は肉を焼き始める。
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