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05.終章
48.国王陛下 01
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今回の計画、ラシェルを囮に使うと言う作戦は、国王陛下直々の指示だった。
「同意できません」
ユーグは拒否した。
公爵家当主には、配下に分与する加護とは別に、仕える主のための力が存在する。 婚姻以前のユーグは、陛下との力の共有に魔力の多くを使用され、血統での繋がりを持つものは数名しかいなかった。
情報の血統加護が下位に譲渡された場合、情報伝達、索敵能力、情報交換の組織化などの能力を譲渡者に与える事ができる。 これとは別に上位者は下位者の目と耳を介して情報を得る事ができるが、余り気分の良い能力ではないため、開示されてはいない。
上位者から下位者への能力使用。 これは国王から公爵家当主へも同様である。 ゆえにダンベール公爵家が王家を裏切る事は絶対にありえない。 その思考が正常である限りは……。
絶対的な上位者への反旗に、国王は鷹揚な態度で告げる。
「仕方ないよね?」
納得したかと思ったユーグだったが続く言葉は違った。
「血統加護の所有者を使う者を捕獲しない事には、今回の件に終わりがないのだから。 なぁに君がちゃんと守ればいい。 ただソレだけの事でしょう。 それとも、君は大切な子一人守れないのかな?」
「……ラシェルが狙われているとは限りません……。 一族の防衛をラシェル全てにさくのは……」
「うん、そんな言い訳は要らない。 僕が選んだ君の妻は、餌として十分意味を持つ、そんな子だよ。 君にNoはない……分かるよね?」
上位者から下位者への絶対的支配……。
ダンベール公爵が正気を見失えば、その加護は日々歯抜けのように失われていく……当然、共有する力もだ。 ソレを考えれば、誰が先代公爵を殺したのか分かったものではない。
生まれながらにして魔力の少ないユーグに、魔力の多い妻を宛がうほどに国王陛下は血統加護を重視している。 では、完璧な子が出来たら? 生まれつき魔力の少ないユーグはどうなる? ユーグは将来生まれてくるだろう子のためにも、利用価値のある人間でなければならない。
逆らえる訳等なかった。
そしてラシェルは囮として使われた。
ケヴィンと言う人間が出て来たのは想定外だった。 むしろ、ソレは侯爵家の、別の案件だと思ったくらいである。
だが、状況だけで言えば大半が国王陛下の想定通りに事が進んだ。 犯人の異変に対し、救助者が訪れるだろう事も含めて……。
「状況が天罰でないと考えれば、バルゲリー公爵家の血統加護も譲渡可能だと想定したほうがいいだろうね。 だからこそ、元を捕らえなければいけない」
付近を警戒し、ラシェル捜索のために集まっていたダンベール公爵家の加護の分与を受けた者達は、予想されていた救助者であったにもかかわらず戸惑い、判断、行動が遅れた。
彼等に襲いかかったのは子供達だったから。 そこには猫を寄越せと寄ってきた幼い子供達も含まれる。 誰もがその虚ろな瞳に鈍い恨みの色を帯びた子供達に戸惑った。
「洗脳か?!」
誰かが叫べば、皆がそうなのだろうと思い込んだ。 攻撃の意志はあるが素手で次々と飛びついてくる子供達と言う状況を考えれば、そう思うのも不思議ではない。
憎しみを帯びた瞳。
「連携を取れ、1人でかかるな。 役割を思い出せ!!」
子供達の中でも年配の子が叫べば、それこそ襲う事のみを義務付けられた人形のように飛び掛かってくる。 余りの幼さ、避けた先に転び血を流し泣きだせば、避ける事すら悪と思えてくる。
「子供くらい……」
事が済めば彼等も大人しくなるだろう。 と、幾人かは抵抗を止めた。 その中にはカリナもおり、飛びついてくる子供を横合いからメイリーが蹴り飛ばす。
「子供相手に何を!!」
「ソレはこっちのセリフだって言うのよ!!」
蹴り上げたブーツが硬化し崩れた。 子供達の動きを受け止めた者達も同様に衣類などが硬化するが、ユーグの加護を分与されたせいで肉体まで影響はない。 だが……彼等に抱き着いた子供達が物凄い勢いで硬化すれば、子供達を哀れと思った大人達は身動きが取れなくなり戦力が削がれた。 削がれたところに第二陣が訪れる。 其方は武器所持者だ。
肉体以外は触れれば硬化し無効かされる。 相手が子供だとは言え、明らかに不利な戦いだった。
「私が治します!!」
銀色の猫がバックから出ようとすれば、流石にソレは許容できないとなるわけだが……、そして次の瞬間にケヴィンが討たれた。
首を切られた事で、死を体験させた事で、力がリセットされた。 もし、ケヴィンが身を潜めたまま、この戦いが行われたなら、総合的にダンベール一族の負けであった事だろう。
ケヴィンの首と身体は、別々の馬車で王都へと運ばれることとなる。
ユーグとすれば将来の憂いは排除したいと考えるところだが、それは許される事ではなかった。 そして……子供達は1人残らず排除するようにと命じられた……。
憂鬱な仕事をユーグは一人で背負い、沈黙のままにラシェルを抱く……。 その因果を洗い流すように愛と快楽を求めて……。
「同意できません」
ユーグは拒否した。
公爵家当主には、配下に分与する加護とは別に、仕える主のための力が存在する。 婚姻以前のユーグは、陛下との力の共有に魔力の多くを使用され、血統での繋がりを持つものは数名しかいなかった。
情報の血統加護が下位に譲渡された場合、情報伝達、索敵能力、情報交換の組織化などの能力を譲渡者に与える事ができる。 これとは別に上位者は下位者の目と耳を介して情報を得る事ができるが、余り気分の良い能力ではないため、開示されてはいない。
上位者から下位者への能力使用。 これは国王から公爵家当主へも同様である。 ゆえにダンベール公爵家が王家を裏切る事は絶対にありえない。 その思考が正常である限りは……。
絶対的な上位者への反旗に、国王は鷹揚な態度で告げる。
「仕方ないよね?」
納得したかと思ったユーグだったが続く言葉は違った。
「血統加護の所有者を使う者を捕獲しない事には、今回の件に終わりがないのだから。 なぁに君がちゃんと守ればいい。 ただソレだけの事でしょう。 それとも、君は大切な子一人守れないのかな?」
「……ラシェルが狙われているとは限りません……。 一族の防衛をラシェル全てにさくのは……」
「うん、そんな言い訳は要らない。 僕が選んだ君の妻は、餌として十分意味を持つ、そんな子だよ。 君にNoはない……分かるよね?」
上位者から下位者への絶対的支配……。
ダンベール公爵が正気を見失えば、その加護は日々歯抜けのように失われていく……当然、共有する力もだ。 ソレを考えれば、誰が先代公爵を殺したのか分かったものではない。
生まれながらにして魔力の少ないユーグに、魔力の多い妻を宛がうほどに国王陛下は血統加護を重視している。 では、完璧な子が出来たら? 生まれつき魔力の少ないユーグはどうなる? ユーグは将来生まれてくるだろう子のためにも、利用価値のある人間でなければならない。
逆らえる訳等なかった。
そしてラシェルは囮として使われた。
ケヴィンと言う人間が出て来たのは想定外だった。 むしろ、ソレは侯爵家の、別の案件だと思ったくらいである。
だが、状況だけで言えば大半が国王陛下の想定通りに事が進んだ。 犯人の異変に対し、救助者が訪れるだろう事も含めて……。
「状況が天罰でないと考えれば、バルゲリー公爵家の血統加護も譲渡可能だと想定したほうがいいだろうね。 だからこそ、元を捕らえなければいけない」
付近を警戒し、ラシェル捜索のために集まっていたダンベール公爵家の加護の分与を受けた者達は、予想されていた救助者であったにもかかわらず戸惑い、判断、行動が遅れた。
彼等に襲いかかったのは子供達だったから。 そこには猫を寄越せと寄ってきた幼い子供達も含まれる。 誰もがその虚ろな瞳に鈍い恨みの色を帯びた子供達に戸惑った。
「洗脳か?!」
誰かが叫べば、皆がそうなのだろうと思い込んだ。 攻撃の意志はあるが素手で次々と飛びついてくる子供達と言う状況を考えれば、そう思うのも不思議ではない。
憎しみを帯びた瞳。
「連携を取れ、1人でかかるな。 役割を思い出せ!!」
子供達の中でも年配の子が叫べば、それこそ襲う事のみを義務付けられた人形のように飛び掛かってくる。 余りの幼さ、避けた先に転び血を流し泣きだせば、避ける事すら悪と思えてくる。
「子供くらい……」
事が済めば彼等も大人しくなるだろう。 と、幾人かは抵抗を止めた。 その中にはカリナもおり、飛びついてくる子供を横合いからメイリーが蹴り飛ばす。
「子供相手に何を!!」
「ソレはこっちのセリフだって言うのよ!!」
蹴り上げたブーツが硬化し崩れた。 子供達の動きを受け止めた者達も同様に衣類などが硬化するが、ユーグの加護を分与されたせいで肉体まで影響はない。 だが……彼等に抱き着いた子供達が物凄い勢いで硬化すれば、子供達を哀れと思った大人達は身動きが取れなくなり戦力が削がれた。 削がれたところに第二陣が訪れる。 其方は武器所持者だ。
肉体以外は触れれば硬化し無効かされる。 相手が子供だとは言え、明らかに不利な戦いだった。
「私が治します!!」
銀色の猫がバックから出ようとすれば、流石にソレは許容できないとなるわけだが……、そして次の瞬間にケヴィンが討たれた。
首を切られた事で、死を体験させた事で、力がリセットされた。 もし、ケヴィンが身を潜めたまま、この戦いが行われたなら、総合的にダンベール一族の負けであった事だろう。
ケヴィンの首と身体は、別々の馬車で王都へと運ばれることとなる。
ユーグとすれば将来の憂いは排除したいと考えるところだが、それは許される事ではなかった。 そして……子供達は1人残らず排除するようにと命じられた……。
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