婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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03.仲良しの意味?

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 ブラウン侯爵との交流も減り、ジェフリー様から距離を置かれた私は……。
 不安を忘れようと、魔術修行に没頭した。

 寝る事を忘れ。
 食事を忘れ。

 だから……ジェフリー様がわざわざ伝言鳥を使い連絡を取ってくれた時は嬉しかった。

『今日、会いに行くよ』

 とても嬉しかったのだ。
 彼からの申し出。

 私は昔のように、ただ穏やかな時間を過ごし、幸福な未来を語る事を夢見る事を期待し……そして、自らを戒める。

「期待過ぎてはダメ、裏切られてショックを受けるのは嫌でしょ?」

 自分に言い聞かせるが……あんまり効果はない。

 どんなに控えても私は彼の来訪が嬉しくて仕方が無くて、オレンジピールを使ったパウンドケーキを作る準備を始めてしまう。 出入りの商人は定期的に来てくれるものの、私を思ってきてくれる人は他には居ないから。



 伝言鳥の連絡通り、ジェフリー様は昼を過ぎたころにやって来た。 私の従姉妹……両親の死以前は存在も知らなかった伯父一家。 父が亡くなったなら次の当主は自分だと爵位も領地も王都の屋敷も何もかも奪った人の娘ナンシー・ハーノイスと共に。



「なぜ?!」



 私の問いかけが聞こえていたのかいないのか、笑顔でジェフリー様は言ってくる。

「姉も等しい従姉妹である貴方が健在か知りたいと言っていたのでご一緒しました」

「ぇ?」

 姉も等しい? 初対面時の挨拶すらまともに交わしたことがなく、私の部屋を眺めながら

『今日からココが私の部屋ね、ねぇ、このまま使わせてもらうから、貴方何処かに消えて』

 そう言った人物。

「お姉様、お久しぶりですわ!!」

 そう言って抱き着いてくる従姉妹のナンシーは、猫化の耳を頭上に持ち長い尾を持つ。 先祖返りの因子は美貌と力の証と言われている……嫉妬が胸を駆け巡った。


 彼女は……彼女の父は、私の伯父は……全てを奪ったから。
 私にはもう爵位はないし、婚約者も奪われる!!

 そう思えば……気分が凄く凄く沈む。

 私にすればあり得ない訪問、よくぞ顔を出せたものだと言いたいところなのに、彼女は無邪気に私に抱き着く。

「久しぶり、会いたかったわ! 貴方は突然に居なくなったから……こんな所にいたんだ」

 周囲を物色する視線に、眩暈がした。
 彼女は倒れそうな私の腕を力強く握る……先祖返りの力で……。

「いたっ」

 それは見なくても痣になっているのが分かる力。
 言葉の無い……脅しのようなもの……そう私は受け取ったのです。

「ちょっと触っただけで大げさな。 お姉様は獣人族としてダメダメ、失格ですわね。 それとも……そうやって同情を誘う作戦ですの? お姉様ってそう言う所がありますよね」

 そう言ってナンシーが手を離せば、はぁ……と、ジェフリー様は溜息をつく。

「時間をかけてやってきた僕達にお茶も出せないどころか、挨拶もまともに出来ないだなんて、それで侯爵家の妻になれると思っているのかい?」

 もう、そんなつもりはないんでしょう。

 幼い頃の私達のように寄り添い、ヒソヒソ楽しそうに話し視線を交わす姿を見て……気分が悪くなる。 それでも私は、改めて作り笑いと共に挨拶を行う。

「このような辺鄙なところまで来ていただいた事を感謝いたします。 大したもてなしも出来ませんが細やかなお茶の場を設けさせていただきました。 こちらにお越しください」

 何代も前に作られた古城、使用人も雇っていないようでは屋敷に足を踏み入れたくも無いと言われたのはジェフリーが初めてここに訪れた時。 だからせめてと不器用ながら手入れをしている庭園を眺めるガゼボに2人を招いた。

 ガゼボのテーブルには温められたカップ、茶葉、ポット。 そして朝から準備していたオレンジの風味をよく効かせたパウンドケーキ。

「これは、要らない。 ジェフリーお兄様が数量限定の有名店でチョコを買ってくれたのよ。 其方を食べましょう」

 そう言って、パウンドケーキは森に向かって投げ捨てられた。

 まともに……ものを考えるのを拒否した私の頭の中では、貴方が落としたのはこの金のパウンドケーキ? 銀のパウンドケーキ? そう言って出現する湖の精。 

「ナンシー、そこまでしなくても。 折角ルルワが準備してくれたと言うのに」

「だって~~、食べる宝石と言われるチョコ!! お兄様がせっかく買って下さったのに貧乏臭いケーキと並べたくはないわ」

「仕方がない子だね。 少しルルワと話があるから、ナンシーは大人しくチョコを食べていてくれるかな?」

「そうやって子供扱いしないで、貧相なお姉様の身体と比べれば余程大人よ」

 私の事を貧相と言うけれど、彼女のは……獣人的パワーを出すため女性としては筋肉質で逞しい身体をしていると言うだけ……と思うのですけど……。 チラリとジェフリーを見たけれど、彼は静かにお茶を飲むだけ。

「それで、今日はどうされたのですか?」

 こんな些細な間も目の前では、口元にチョコをつけるナンシーと、その口元からチョコを拭うジェフリー。 クスクス笑いながらチョコに汚れたジェフリーの指に赤い舌を伸ばすナンシー。

 胸が締め付けられ、心が凍る。

 これでも彼は私の婚約者なのだから……。

「それで、お忙しい中このような場所までどうされたのですか?」

 早く帰って!! そう叫びたいのを飲み込んだ。

「お姉様って、愛が無いのね」

 見せつけるようにジェフリーの手に唇を押し付けるナンシー。

「そういう風に言うものではありませんよナンシー。 今日は君がルルワが僕の婚約者として相応しいかテストをしにきたんだ」

 私よりもナンシーが相応しいのではありませんか? そう……現実を突きつけるほど……自棄にもなっていなければ、愛情がない訳でもなくて……気持ちが悪い……。

「そう」

「これを、僕が必要とする情報を分かりやすく書きだして欲しい。 情報は王宮図書館に行けば手に入るはずだから。 本当なら論文として形にして欲しいけれど、学園にも行っていない君には無理でしょうから、そこまでは期待していません」

 含みのある言葉で、歪んだ笑みを浮かべて見せる。

「期日は2日、それ以上かかるようでは……僕の妻として失格かな。 王立学園の最終年となる今年は、王宮での雇用・配属を決める重要な時期。 これは全て婚約者である君のためになる。 真剣に取り組んでください」

 私の頭の中は、バグを起こしたかのように、物を考える事が出来なくなっていた。 彼は私を婚約者と認めたからこの仕事をさせる? でも目の前に繰り広げられるコレは?」

 ナンシーがあ~んっと口を開ければ、静かに笑いながらジェフリー様はナンシーの口元にチョコを運んでいる。 もし、私が同じように口を開けたら?

 そう思えば……言わずにいられなかった。

「私も、チョコを頂きたいな……」

 そして、そっと口を開けて見せた。

 ぷっと笑いだすナンシー。 そして苦笑交じりに言うジェフリー様。

「君はそう言うキャラじゃないですよね。 それに、侯爵家の妻がそのように幼稚では困るんです」

 ジェフリーの言葉、それはナンシーが幼稚で侯爵家に相応しくないと言っているように受け止める事も出来て……私はそこに救いを求めようとしてしまう。 ナンシーは……自分が侮られていると言う事には気づいていないらしい。

「……そう、ですね」

 ナンシーを貶す事で、私は自分の心を救おうと必死になってしまう。

 残り1つのチョコ。

 ジェフリー様が箱を手に取り私に差し出した。

「どうぞ」

 そのチョコをナンシーはつまみ、ジェフリーの口元に持って行く。

「あ~ん?」

「君って子は……」

 苦笑交じりに笑みを浮かべるジェフリー様は、そっと口を開いた。 温かな日に溶けかけたチョコが唇につけば、ジェフリー様の唇を舐めるナンシー。

「ぇ、ぁ……な、なに? お二人は……随分と仲が宜しいのですね」

 胃の中がヒヤリと凍り付き、気持ち悪さには青ざめているのが分かる。

「子猫ちゃん、それはいけないよ」

 ナンシーの耳元を撫でながら、優しくいさめるジェフリー様は、私を見る頃には表情を冷ややかなものに変えていた。

「彼女は君の妹のようなもの、なら僕の妹と言ってもいいでしょう。 なにより子猫のように無邪気な女性。 それをそんな顔で睨みつけるようでは侯爵家に相応しいとは思えませんね。 侯爵家の者は大勢の者と関わるのですから、人と会うたびに自分の感情を露わにするなど、僕の婚約者に相応しいとは到底思えませんね」

 ジェフリー様の唇からは綺麗に拭われたチョコ。 そして、舌を出して見せるナンシーは猫のように笑い、ジェフリー様は笑い返し、冷ややかに私を見て言うのだ。

「悪いと思ったなら、謝罪を」

「申し訳ございませんでした」

 もう、思考が停止して……何も考えられなくなっている。

「お姉様にはチョコの代わりにコレを差し上げますわ。 お兄様のお手伝いを出来るだけの能力があるかどうかのテストとでも思って下さい」

 差し出されるのはナンシーに出された課題。

「もしかして、こんな簡単な問題も無理なのぉ~~? こんなのも出来ないなら……ジェフリーお兄様の役に立つなんて夢のまた夢。 婚約者に相応しいとは、ぷぷっ、そう思うでしょうお兄様」

「確かにナンシーの言う通りですね。 出来もしないのに依頼をして無駄にする時間は僕にはありませんからね。 君は簡単にできるのだから、ささっと彼女の課題をやって上げればいいだろう? 随分ともったいぶって意地が悪い」

「でも……」

「彼女の父が伯爵家から君を追放処分にしたのは、君が子供なのに領地を自分勝手に支配しようとする強欲さが目についたからと聞いている。 それにさ、君を追放した君の伯父とナンシーは別の人間だよ。 そこを一緒にしてイジメなんて最低な事をしないよね?」



 私は溜息と共にペンを動かす。
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